伸びしろ期待できる「モバイルインターネット」
ニーズは自分に置き換えて考える
ドコモ・ドットコムの村上勇一郎・ビジネス開発部マネージャーに、携帯電話ユーザーのトレンドや、企業の携帯サイトに対する意識や実態について聞いた。ドコモ・ドットコムはiモードの立ち上がった2000年に設立された、投資やコンサルティングを手がける企業。 「アクセスは携帯で」が増加

インターネットアクセスの状況をみると、総務省の平成17年「通信利用動向調査」ではPCからインターネットにアクセスする利用者は6601万人。そのうちPCのみでアクセスするユーザーは1585万人。一方、携帯電話・PHSおよび情報端末といったモバイル機器を利用するユーザーは6923万人で、携帯電話などモバイル機器のみでアクセスするユーザーは1921万人。PCとモバイル機器を併用してインターネットにアクセスするユーザーは4862万人だった。
平成18年の同調査では、PCからのユーザーが8055万人、携帯ユーザー7086万人に増える一方、PCからのみでは1627万人と微増、モバイル機器のみでのアクセスは688万人に減っている。だが併用してアクセスするユーザーは6099万人に膨れ上がった。インターネットへのアクセスにあたって、「携帯電話がさらにユーザーに利用されるようになったことが分かる。これはパケット定額制や高速端末、公式メニューに検索エンジンの導入が進んだ結果」(村上氏)だという。
現在は10代、20代がパケット定額割引の利用が最も多い年代。一度加入すると年をとっても利用し続ける傾向が強く、5年後、10年後にはこれらの層が、より高年代にスライドしてくることから、PCよりもモバイルインターネットのほうに伸びしろがあると村上氏はみている。
クロスメディアに最適なツール

今や携帯電話は生活のなかに深く浸透している。ある調査会社の調べによると、平日の自由な時間に行うこととして、10代の男性・女性から40代の男性・女性にいたるまで、テレビを観るという回答が最も多かった。「テレビが消費者にリーチする最大メディアであることは今も変わらない。小中学生にいたっては1日2時間半テレビを見ている勘定になる」と村上氏は実状を話す。
こうしたなか、増えているのが「ながら見」だ。同じ調査会社の調査結果によると、テレビを見ている時間帯に、併行して雑誌を読んだり、モバイルインターネットを行う割合が多くなっている。10代女性ではモバイルインターネットがテレビよりも突出していた。「映画館が一番きついという若い人もいる。今は友達と話していても携帯電話をいじっている人が多い。映画館は携帯が開けないので、つき合いなどで映画館に入ったら逃げ場がなくなってしまうからきついのだろう」(村上氏)。
多くの消費者が二つ以上のメディアに接触している。単体でみると、携帯は他と比べ表現力が劣っている部分も多いが、村上氏は「24時間、30cm以内に必ず肌身離さず持っている携帯電話は、他のメディアとシナジーを持たせた、クロスメディアを行うのに最適なツールだ」とその効力を評価する。
「心に同期」がキーワード
テレビCMは検索数にも効果として現れる。「例えば、キーワードの上位に突然上がった企業名を調べてみると、その企業のCMがゴールデンタイムに放映されていた」ことが分かった。また、ブログなどを見てみると、自分から話題を持ってきて書くよりも、テレビのコンテンツで記事を書くという行動が圧倒的に多いという状況がある。
使い方も、外出先なのか、家の中か、一人でいる場合と、大勢で何かを調べる場合とでは違いが出てくる。「モバイルインターネットを利用する動機は、暇つぶし、今すぐ知りたい、人に言えない悩みや欲しいものがあるとき。また就職先やアルバイトの口などをしっかり調べたいときや、ネタ探しなどで、ほとんどこの域を出ないと考えている」と村上氏。一人で検索する場合には人に言えない悩みを検索することも多い。モバイルインターネットは、こうした「心に起こったこと」と同期しているのだという。
ユーザーと“同化”せよ
今後もモバイルインターネットが伸びていく状況が予測されるが、企業の携帯電話向けサイトはまだ少ない。これは「現在の40~50代のモバイルインターネットの利用が少ない年代が決裁権者になっているケースが多く、自分たちが実際に利用していないためにその重要性が分かっていないからだ」と指摘する。
また、キャリアやメーカーが差別化を図るために、さまざまな機能差分を作り出した結果、モバイルコンテンツのキャリアや機種依存が起こってしまった状況もある。こうしたキャリア、機種依存に対してのチューニングコストはモバイルサイト立ち上げ費用全体の6~8割かかるとされる。だからといって、単にコストを削ってPCの廉価版サイトを作っても意味はない。携帯電話に見合った使い方を知る必要がある。「ユーザーの心の動きを活用して、検索したくなる仕掛けをつくっていくことがモバイルサイトを構築するうえで重要な考え方」だという。
「インターネットはあくまでもツールであって、何かを伝えたい場合などに携帯電話という『ツール』を使うだけ。企業の担当者は『若い人が何を考えているか分からない』とよく口にするが、単に分かろうとしないだけの話。やろうとしていることというのは昔も今も変わらない。心の動きを源泉として携帯を使うのだから、もっとシンプルに考えたほうがいい」(同氏)。
クチコミも、実はインターネットで生まれて広がるのではなく、あくまでも学校や職場などでのface to faceから盛り上がり、それがインターネットというツールを使っているからこそ、広がるスピードは速いのだという。「“ユーザー視点”では、まだ足りない。ユーザーと“同化”することで、彼らが欲しがるもの、やって欲しいことが見えてくる──。要するにユーザー視点ではなくて『自分』に置き換えて何が欲しいかのニーズを考えてみることがモバイルマーケティングにとって必要なこと」なのだ。
PROFILE:1992年石川島播磨重工業(現IHI)入社。99年、5社合弁の駐車場情報配信会社 アイポスネット設立。01年、NTTドコモ入社、iモード事業本部でコンテンツ開拓に従事。06年ドコモ・ドットコムに出向。