MIJS アプリ連携させ、共通ポータルで提供
標準規格の第二弾を今秋公開
アプリのデータ連携を進め、SaaSで提供へ──。コンピュータメーカーや通信事業者、経済産業省など複数の企業と政府機関が推進するSaaS。そのなかで、国内ISVが集結した業界団体もSaaSサービス提供に向けて準備を加速させている。国産ソフトメーカー28社で構成する「メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)」がそれだ。各アプリ間のデータ連携作業を着々と進行、アプリの機能をサービスとして提供するためのSaaS基盤会社との協業も開始した。“日の丸ソフト連合”のSaaSプロジェクトを探った。(木村剛士●取材/文)
■設立趣旨、SaaSで実現か MIJSは国産ソフトメーカーに会員を限定し、2006年8月に発足した。進める施策は「アプリケーション連携」と「海外進出の足場作り」。“日の丸ソフトメーカー”が、企業の垣根を越えて製品の相互連携を推進。それぞれのビジネスチャンスを拡大させ、海外市場に打って出るための施策も共同で考える──。それがMIJS設立の目的だ。
自社のビジネス拡大と、ユーザー企業の利便性向上を考えれば、アプリ連携は当然必要。世界市場を攻められない現状を憂慮し、どうにかして海外で製品を売りたいと思っているメーカーも多い。それだけに設立趣旨には多数の賛同を得て、入会希望も相当数に達する。「かなり厳しい選定基準を設けている」(梅田弘之技術部会部長=システムインテグレータ社長)にもかかわらず、設立時13社だった会員企業は、この2年で28社(6月9日時点)に増えた。
そのMIJSが、SaaS型サービスの共同提供に乗り出す計画を示した。SaaSは、コンピュータメーカーや通信事業者、経済産業省などがその優位性にメリットを感じ、異なるアプローチながらも基盤開発を進めたり、ビジネス化したりしているところ。そのなかで、MIJSは業界団体として共通IT基盤を構築し、会員企業のアプリを稼働させようとしている。連携したアプリをユーザー企業に届ける際の1形式としてSaaSに着眼したわけだ。
■構想の具体的内容は? MIJSの構想はこうだ。まず、各アプリをサービスとして提供するためのIT基盤をMIJSが用意する。その基盤はユーザー企業が使いたいアプリを自由に選び、使いたい期間だけ使えるような仕組みとしてWeb上に構築する。ユーザーが各アプリを利用する際、個別に契約・決済しなくて済むように、1つのインタフェースからアプリ検索機能や申し込み、課金・決済、同一のID・パスワードでアクセスするためのシングルサインオン機能などを、このIT基盤に盛り込むようにする。
MIJSは発足当初からSaaS型サービスの共同提供を示唆するコメントを幹部が表明しており、この2年間、着々と準備を進めていた。その中核となる取り組みが各会員企業がもつパッケージソフトのデータ連携だ。SaaSで提供するにせよ、パッケージで販売するにせよ、各ソフトの連携が取れていなければユーザー企業にアプリを組み合わせたサービス提供はできない。そのためMIJSは7つの部会の1つに技術部会を設置、アプリ連携を進めてきた。07年11月、その成果の第一弾として公開したのが、MIJS独自のアプリ連携標準規格だった。この標準規格を用いて開発すれば、マスタ(事前登録情報)およびトランザクション(コンピュータ処理で発生する情報)の両データを、スムーズに連携させることができる。既存アプリは「変換アダプタ」と呼ばれるツールを使うことで、容易にデータ連携に対応できる。今秋には、連携できる範囲を拡充した「標準規格の第二弾を公開予定」(梅田技術部会部長)。アプリ連携をさらに加速させる予定だ。
■普及速度を左右する可能性も そしてもう1つMIJSが推進しているのが、各アプリをSaaSとして提供するための「IT基盤探し」だ。会員企業の共同出資で新会社を設立して、運用を担わせるなどいくつかの案を検討していたようだが、今は「複数の基盤を活用する方向」(MIJS幹部)で調整している。現在その真っ只中とあって、この幹部は具体的な施策について明言を避けるが、「SaaS基盤を複数の国内ベンダーが提供しようとしている。黒船(海外ベンダー)が来襲しているのに、各藩(国内ITベンダー)同士で争っているような状況。そうではなくて、国内の有力ベンダーが協力するような働きかけもしている」と意味深な発言も口にする。
業界団体のなかでは、コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)やNPOのASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(ASPIC)も調査・研究や実証実験を進めている。ただ、共通基盤で各アプリをSaaSとして正式サービス化しようと目論む団体は見当たらない。サービスインの時期は、当初08年内としていたが、「今年中は難しいかもしれない」と慎重。国内の有力ISVが揃っているだけに、どんな形でサービスインするかは見物だ。SaaSの普及速度を左右する可能性もある。
MIJS、もう1つの設立趣旨 「海外進出」は順調か |
MIJSの活動の大きな柱は「アプリケーション連携」と「海外市場への進出」。前者では、標準規格の作成やSaaSプロジェクト始動など、確実に成果が出てきた。では、一方の海外進出はどうか。 MIJS会員企業との連携で海外進出を今年果たした企業がいる。ECサイト構築パッケージなどを開発・販売するシステムインテグレータ(梅田弘之社長)だ。ソフト開発ツール「SI Object Browser」を2月に中国で発売した。 現地での販売を担うのが、MIJS会員企業ソフトブレーンの中国子会社で、ASPサービス販売やソフト開発の軟脳軟件有限公司。すでに100ライセンスを販売したという。「近々ECサイト構築パッケージも販売する」(梅田社長)予定で、中国でのビジネスをさらに加速させるつもりだ。 梅田社長は「MIJSに参加しているからこそ実現できた。当社単独では無理だったと思う」と語り、コンソーシアム効果を高く評価する。 設立から約2年、MIJSの2大活動の1つ「海外進出」が「アプリケーション連携」と同等レベルで進んでいるとは言い難いが、システムインテグレータのように成果が出ているのも確か。今回の事例は2社間のアライアンスという意味合いが強いが、海外の業界団体との連携など、日本企業が進出しやすいような団体としての取り組みがあれば望ましい。実際、ASPICは韓国のITレンタル産業協会(KITRIA)とアライアンスを組み、ASP・SaaS型サービスに関する認定制度の連携を進めている。 |