「グリーンIT」を巡る動きが加速してきた。経済産業省は2月1日、IT関連の環境対策推進で「グリーンIT推進協議会」を発足。IT関連の省エネ活動推進体制を初めて整備した。一方、IT業界ではハードメーカーに加えソフトメーカーとSIerも、「グリーンIT」を意識した事業基盤の整備、新ビジネス創出に動き始めている。地球温暖化防止運動「チーム・マイナス6%」の参加法人・団体数は1万7000を突破するなど、企業・団体の環境問題に対する関心は高い。ユーザーが環境対策技術をベンダー選定基準に加える可能性も出てきた。高まる環境問題に対する意識。「グリーンIT」は単なる流行語の域を越え、無視できないものとなっている。
関心高まり、無視できない情勢に
経産省は2006年12月、産官学から有識者を集めた甘利明大臣主催の「グリーンITイニシアティブ会議」を開催。消費電力削減など環境に配慮したIT化の取り組み「グリーンIT」で、本格的なスタートを切った。活動骨子は「ITの省エネ」と「ITを活用した省エネ」で、IT機器の消費電力削減と、ITを利用することによる業務簡素化で、エネルギー効率を向上させるのが狙いだ。
06年のIT機器(サーバー、PC、ネットワーク機器、テレビ)の消費電力量は470億kWh。全体の5%に過ぎない。ただ、今後は急速に増大すると経産省はみている。インターネットに流れる情報通信量は、2025年には06年に比べ約190倍に急拡大し、その影響で5倍の2400億kWhに、50年には12倍の5500億kWhに増加するとみる。IT機器の省エネ化は、経産省にとって重要課題。25年までに電力効率を現在の2倍に向上させる目標を掲げる。
具体的な取り組みの第一弾は、産官学連携強化の場として「グリーンIT推進協議会」を2月1日に発足。省エネ効果の高い電子・情報技術の抽出や、IT活用による環境負荷低減の定量的調査などを進める。
技術開発でも新たな手を打つ。省エネIT技術の創出計画「グリーンITプロジェクト」を来年度からスタートさせる。30億円を投じ、(1)データセンター、(2)ルータ、(3)モニターの新たな電力削減技術の開発に着手。データセンターとルータでは30%以上、モニターでは50%以上の電力削減が目標だ。また、5月には協議会で詰めた内容を発表する国際舞台として「グリーンIT国際シンポジウム」を開催する。
この動きに呼応するようにIT業界の対応も活発化している。取り組みが早かったハードメーカーは、以前にも増して環境に配慮した開発を重視する姿勢をみせる。日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)が実施した主要PC・サーバーメーカーを集めたパネルディスカッションでは、7社のうち5社が「グリーンIT」について言及。環境に配慮した素材の活用や消費電力を削減する技術などをアピールした。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の那須一則・ソリューションパートナー営業統括本部執行役員統括本部長は、「洞爺湖サミットもあり、今年は『グリーンIT』がキーワードになる」と断言する。
SIerとソフトメーカーも動き出した。SIerでは、電力をなるべく使わないシステム構築手法を各社が模索。仮想化やグリッドコンピューティング技術を研究し始めた。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の奥田陽一社長は、「顧客にシステム開発を提案する際、そこに電力削減効果を具体的に示せば、他社に比べて競争優位に立てる」とみる。価格や技術とともに、環境対策がユーザーの評価基準になるという意見だ。経産省の有馬伸明・情報通信機器課課長補佐も同様の見解を示す。「環境対策をPRに使えるのは、メーカーだけではない。環境に配慮した製品とエネルギー効率の高い技術を組み合わせたシステム開発は、環境経営を重視する企業に受け入れられるだろう」と。
ソフトメーカーからは“環境対策ソフト”が登場している。クオリティは、PCの電力消費量の可視化や、消費電力モードの強制設定ツールをIT資産管理ソフトのオプションとして近々発売する。
「チーム・マイナス6%」の参加法人・団体数は、05年末では約4600、06年末は9600、07年は約1万7000と、昨年は大きく伸びた。環境に配慮した“エコなシステム”をつくれるかどうかは、ベンダーを選定する基準になる可能性を十分に秘めているといえそうだ。ユーザーの関心が日増しに高まり、国も本腰を入れ始めた現在、「グリーンIT」への取り組みは、ITベンダーにとって避けて通れない情況となってきた。