上げ潮基調、鮮明に

底堅いIT投資　成長路線を持続させられるか

　大手SIerの2007（08年3月期）年度・中間決算が堅調だ。金融機関や一般産業のIT投資は底堅く、上げ潮基調が鮮明になっている。通期でも期初計画を上回る手応えを得ているケースが目立つ。投資余力を手にしたSIerは、今後拡大が期待できるオンデマンドサービスやグローバル進出、人材育成への自己投資を加速させている。将来に向けた施策をどう打っていくのかによって、持続的な成長を成し遂げるSIerと、そうでないSIerとの二極化がより進む可能性がある。

■通期業績も手応え

　SIer最大手NTTデータの今年度（08年3月期）中間決算は、連結売上高が前年同期比2.8％増の4661億円、営業利益が同0.3％増の376億円。金融分野におけるアウトソーシングサービスや連結子会社の業績拡大によって、期初計画を上回る業績を計上した。通期の業績見通しの連結売上高1兆800億円、営業利益950億円は据え置く。

　野村総合研究所（NRI）の中間期・連結売上高は、前年同期比12.8％増の1651億円、営業利益は同31.5％増の274億円と期初予想を大幅に上回った。「金融機関からの需要が緩まない」（藤沼彰久社長）ことに加えて、大型プロジェクトをさばく力量が向上。数年前のNRIなら消化不良になっていた大型案件も「さばけるようになった」と自賛する。これに伴い、通期業績予想を上方修正。通期売上高は前年度比10.1％増の3550億円、営業利益は25.3％増の550億円を見込む。

　大手SIerのなかで、やや空振りに終わったのが伊藤忠テクノソリューションズ（CTC）だ。

　昨年10月1日付で旧CRCソリューションズと合併後、初めての中間期であることから、前年同期比の連結売上高ベースでは大幅に伸びた。だが、期初計画値と比べてみると連結売上高が7.4％減の1402億円、営業利益は同24.0％減の78億円と計画値未達成。一般産業向けのビジネスが振るわなかったのが主な原因という。

　下期に向けては金融を中心に「引き合いは相当に強い」（奥田陽一社長）として、通期の業績見通しは据え置く。受注環境が良好なことから挽回できると手応えを感じている。

■金融分野で追い風

　全体的に追い風が吹いているが、なかでも金融機関のIT投資は活発だ。メガバンクは基幹系のシステム統合を着実に進める一方、収益増に結びつく情報系の投資を強化。生損保は不払い問題の再発防止に関する投資や少子高齢化に向けた競争力強化の投資を拡大、さらに民営化した日本郵政グループのゆうちょ銀行やかんぽ生命保険による新たな投資が見込める。

　NRIの藤沼社長は、「先日、かんぽ生命を訪ねたところ“向こう3年で1000億円用意しているから、よろしく”と言われた」という。どのベンダーに発注するかは明言を避けたものの、競合する生保会社に打ち勝ち、金融庁の厳しい審査に耐えられるIT投資が必要となっている模様だ。

　一般産業の分野でも、自動車を中心とした製造業が堅調で、グローバルサプライチェーンなどの大型案件が増加している。

　また、今後拡大が期待できるSaaSなどオンデマンドサービスの引き合いも強まっていることから、サービスインフラとなるデータセンターを拡充する動きも活発化している。NRIは今年10月、横浜のデータセンターを拡充。一方、CTCは都心型の新しい大型データセンターを来年秋までに稼働させる。

■グローバル展開に活路

　こうしたなか、大手SIer経営陣の最大の関心事は、次の成長に向けた布石をどう打つかという点にある。上げ潮基調である今のうちに、前倒しで設備投資を行い、陰りが見えたときに勝ち残りを目指す考えだ。

　NTTデータはグローバル進出に活路を見いだす。ドイツの中堅SIerに対して友好的TOB（株式公開買い付け）を11月中旬から始めるとしており、これが成功すれば欧州における営業拠点が一気に拡大する。昨年度末時点で1都市だった欧州の拠点数が、今年度末までには29都市へ拡大。従業員数もこれまでの4人から900人体制へ拡充する見通し。アジア圏や北米圏でも人員を大幅に増やしていく方針だ。

　今年度の海外売上高は180億円程度との見込みだが、M&Aが順調に進めば、3か年中期経営計画の最終年度にあたる2010年3月期には「1000億円規模に増える可能性がある」（山下徹社長）として、海外ビジネスの比重を高める。グループの連結売上高のうち近い将来には、「10％以上を海外で売り上げる体制をつくる」と意気込む。

　受注環境が良好なうちに「大口案件を着実にこなせる基盤を強化」（NRIの藤沼社長）し、中期的なビジネスの仕込みにも力を入れる。次の成長につなげる施策を打てるかどうかが、勝負の分かれ道になりそうだ。