ゲームソフト業界でも受託開発

　IT業界で一般に「ソフトウェア受託開発」といえば、企業向けのビジネスアプリケーションを指す。マンパワー型の人月単価、仕様変更と不採算プロジェクト、同質・同型企業の下請け連鎖─そうした「受託開発」の認識が、変わるかもしれない。

　というのは、ここにきてゲームソフトやエンタテインメント系アプリケーションの分野でも、受託開発を専門に行う企業が登場しているからだ。しかも中国やベトナムでオフショア開発を行っているケースもある。

　それを促しているのは、膨張し続けるゲーム／エンタテインメント系アプリケーションの開発費だ。

　例えばロールプレイングゲーム。東の横綱を「ドラゴンクエスト」とすれば、西の横綱は「ファイナルファンタジー」だった。ゲーム業界では数年前、「ゲーム機用ソフトの開発費は１本当たり3億円から5億円が相場」とされていたが、プレイステーション2やDS2、Xboxではほぼ倍増。おのずから巨額の製品開発投資を確保しなければならず、それがスクウェア・エニックスの誕生につながったといわれる。

　実際、スクウェア・エニックスの決算（単独）を見ると、2005年度の売上原価367億円、うち製品製造原価は270億円だった。これに対して、06年度の売上原価は249億円、うち製品製造原価153億円と大幅に減少している。売上高は05年度の702億円から06年度628億円に減少したが、営業利益は125億円から190億円に増加した。製品開発費のウエートがいかに大きいかを示している。

　もう一つ注目したいのは、製品製造原価に含まれる外注費だ。05年度は70億円、06年度は68億円が外注費に計上されている。同社全体の売上高に占める割合は小さいが、ゲーム／エンタテインメント系ITサービス業の世界でも、開発業務の同業者間取引が顕在化してきたことが分かる。

　一方、ゲーム／エンタテインメント系ソフトの受託開発を行っているトーセは05年8月期の売上高42億円に対して売上原価は28億円（65％）、06年8月期が49億円に対して売上原価は32億円（66％）を計上。ユークスは06年1月期の売上高31億円に対して売上原価は16億円（53％）、07年1月期は売上高48億円に対して売上原価は26億円（53％）と、安定した収益モデルとなっている。

　独自企画の製品で勝負するにはキラータイトルをもつこと、開発とマーケティングに必要な巨額の投資に耐える体力が必須となる。中堅・中小のゲームソフトメーカーは開発費が小さくて済む携帯系に活路を見いだしつつ、大手からの受託で安定した成長を目指すという構図が透けて見える。

　ビジネス向けアプリケーション開発では曖昧な要求仕様と多重下請け構造が不採算プロジェクトやシステムトラブルを発生させ、利益なき繁忙を生み出した。

　ゲーム／エンタテインメント系ソフトの分野でも同じことが起こるのか、それとも出版・映画業のように専業プロダクション化による分業が進むのか。「受託開発」のあり方、行方を占う意味でも注目していきたい。