アッカ、実証実験を実施
アッカ・ネットワークスが新潟県魚沼市でモバイルWiMAXの実証実験を実施した。デジタルデバイド(情報格差)を解消するためには、ブロードバンド環境の整備が必須。NTTグループをはじめFTTH(ファイバー・トゥー・ザ・ホーム)サービスを提供する通信事業者が光ファイバー網を整備していない地域は、WiMAXの構築が適しているとの声もあがっている。そこで、アッカ・ネットワークスではWiMAXの免許取得に向けて新潟県と連携した。(佐相彰彦●取材/文)
■公共施設に基地局を設置 WiMAX有効性を再認識 今回の実証実験は、アッカ・ネットワークスが総務省に新潟県でのモバイルWiMAXの実験用免許を申請、魚沼市福山新田エリアで実施されることとなった。
内容は、電波の強度や届く範囲などを調べる「基本特性確認試験」、モデム型端末を活用した通信「FWA的運用実験」、防災無線設備のアクセス回線をWiMAXで実施した「防災無線活用実験」、映像ストリーミング配信やVoIP通信が行えるかを調べる「CATV活用実験」、衛星での中継が可能かを調べる「衛星回線バックアップ試験」など。福山新田の公共施設(福山小学校)を「WiMAX基地局」として、屋上にWiMAXアンテナや衛星機器を配置、屋内にはWiMAX電波の入出力をコントロールする「ベースステーション」や「制御システム」を構築、デモンストレーション会場(守門福山克雪管理センター)にデスクトップパソコンなど家庭内での活用を想定した機器を設置した。
結果は、いずれの実験も成功。アッカ・ネットワークスの高津智仁・WiMAX推進室副室長は、「この実験により、WiMAXが山間地域での活用で有効ということが改めて認識できた」と手ごたえを感じたようだ。
■デジタルデバイド解消へ ビジネスモデルの構築が課題  |
| モバイルWiMAX | IEEE(米国電気電子学会)で2003年1月に承認された固定無線通信の国際標準規格。「IEEE 802.16」の使用周波数帯を変更したもので、アッカ・ネットワークスでは新規ワイヤレスブロードバンド方式の候補のひとつである「IEEE802.16e」の免許を取得しようとしている。 WiMAXでは、1台のアンテナで通信範囲が最大半径約50キロメートル、通信速度が最大70Mbpsの通信が可能といわれている。見通しのきかない範囲にある端末でも通信が可能。建物内部の通信に使うことを想定した無線LANとは異なり、現在は電話回線や光ファイバーが担っている加入者系通信網の末端部分での利用を想定されている。人口密度の低い地域でも安価にブロードバンド接続が可能なサービスとして注目を集めている。 | | | |
今回、新潟県でWiMAX実験を実施したのは、新潟県総合管理部情報政策課で「次世代無線ブロードバンド新潟モデル調査研究会」の一環としてブロードバンド環境の整備に向けた取り組みを進めているためだ。松下邦彦・新潟県総務管理部情報企画監は、「新潟県は、まだまだブロードバンドインフラが整っていない地域が多い。環境整備には、無線が最適と着目している」と期待をにじませる。NTTなどFTTHサービスを提供する通信事業者は、採算が合わないことから山間部には光ファイバーを敷設していないため、期待感もいっそう高まる。アッカ・ネットワークスでも、事業者の立場から「有効加入者数が少ないので、魚沼市など山間地域での基地局の設置はビジネスの観点では、採算が合わないといわざるを得ない」と打ち明けるが、「競合事業者との差別化を図るには、新規加入者を獲得することが重要。WiMAXの免許が取得できるのは今年夏以降になりそうなので、現段階では何ともいえないが、実際に事業を手がけることになれば大都市部でのWiMAX提供で収益を確保し、地方への参入を検討したい」(高津副室長)考えを示す。
田中修一・総務省信越総合通信局長は、「ブロードバンドを取り巻く環境が大きな節目を迎えている。新潟県は、光ファイバー普及率が50%と国内でワースト2位という状況。通信と放送の融合が進もうとしているなか、今回の実験がカギを握っているのではないか」とみている。松下情報企画監も、「ベンダーとのアライアンスで、市役所などを通じて住民にブロードバンドサービスを提供していくといったモデルの構築を模索していく」と構想を語る。
通信速度を一段と上げていくうえで、WiMAXの技術的な課題もあるが、実験ではストリーミングといった映像、VoIPの音声などの配信がスムーズに行えたという点で大きな成果が得られた。あとは、山間部での基地局設置が通信事業者やベンダーにとって大きなビジネスになるかどうかを検討することが、都市部と地方のデジタルデバイドを埋めるキーポイントになるということが、改めて浮き彫りになったといえる。