札幌市は、市内ITベンダーの受託ソフトウェア開発実績やIT技術者などの情報を登録し、全国に情報発信するウェブサイト「企業情報提供センター」を開設する。8月に本格稼働させ、全国からの案件獲得を始める。開設当初は「元請け」の実績がある50社を登録。2009年3月までには、ITベンダーに加え、個人登録を増やし、250社750人の登録を目指す。同センターは自治体主導によるITベンダー支援事業として全国初の取り組みだ。市内ITベンダーの従業員数は、食料品製造業に次ぐ規模で重要産業となっている。受注力を強化してITベンダーを成長させ、IT産業の「地場産業」化を定着させる。
受託実績、人材情報登録へ
同センターは、同市が06年度から3年計画で開始した「高度情報通信人材育成・活用事業」の一環として開設する。サイトには、全国共通の指標である「ITスキル標準(ITSS)」を基に、札幌市の実情に応じ策定した高度IT人材像「札幌スキルスタンダード(STSS)」に準拠したIT技術者の在籍情報、業種や業務別のシステム構築や受託ソフト開発の実績などをITベンダー別に登録する。登録情報は随時更新する。
開設当初は、「元請け」実績のあるSIerや組み込みソフト開発ベンダーを含めた受託ソフト会社など、市内ITベンダー50社を登録。来年度(08年3月末)以降は、ITベンダー内のIT技術者が個別に登録できるようにし、09年3月までに250社750人の登録を目指す。
道内や首都圏を中心としたユーザー企業やITベンダーは、同サイト情報を参考に、登録ベンダーへ直接商談を持ちかけたり、札幌市役所東京事務所を通じて市内ITベンダーへ案件発注することができる。
札幌市の一橋基・IT推進担当係長は「札幌市内のITベンダーやIT技術者の技術力を可視化することで、発注側が安心して依頼できる」ことを期待している。
札幌市は現在、市内IT産業の活性化対策として「高度ICT技術者」の養成を積極化している。「元請け」として受注機会を獲得するうえで必須となる上流工程の「ITアーキテクト」、下流工程を請け負う「基盤技術者」など、ITSSや組込みスキル標準(ETSS)のレベル4─5以上の人材を16年までに3万人、在籍ITベンダー数を600社にする計画だ。
市内のITベンダーは大半が年商5億円以下で、「下請け受注」に頼っている。しかし、「下請け」に甘んじているだけでは、「高度ICT人材」を育成できないため、「元請け」になってプロジェクト管理などを経験させることが必須となる。そのためにも、同サイトを開設して「元請け受注」を増やす必要性があるという。こうした事業を実施することで、札幌市では現在、年商約3000億円規模の市内IT産業を、6000億円に成長させることを目論んでいる。

サイトの構築は市内のSIerであるノーザンシステムが受注。同社内にウェブサーバーを立て、ホスティング方式で運用する。同社の大野真澄・常務取締役は「ITベンダー同士でスキルレベルが把握でき、自社が同業内でどの位置にいるかが分かる。これにより、IT技術者を育成する必要性に迫られ、市内ITベンダーのレベルが底上げされる」と、ITベンダー情報を公にすることによる副産物にも期待している。
2年ほど前から首都圏の大手ITベンダーを中心に、「下請け」などに案件発注する際、ITSS準拠の技術評価シート提出の義務付けが拡大している。グレーな業務委託や人材派遣の発注が見直され、札幌市内のITベンダーのように人材派遣に依存した体質を改善することが求められている。「下請け」体質を脱却し「元請け」に転じて、市内IT産業を成長させる動きは、他の自治体に影響を与えそうだ。