SaaSがユーザーの関心引き込む

　2年ほど前から再び脚光を浴びるシンクライアント。2005年4月に「個人情報保護法」が完全施行されたことで、セキュリティ対策の観点からユーザー企業・団体はシンクライアントに再度注目している。それ以前は、「クライアントコンピュータの運用の手間軽減」との視点でユーザーは興味を抱いたが、今は「セキュリティ対策」のひとつとして、関心が高まった。機密情報を容易に持ち出すことができない仕組みを、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで、分かりやすく構築できるからだ。

　今年度（07年3月期）、約15社・団体にシンクライアントを納入した実績があるSIer大手の日本ビジネスコンピューター（JBCC）の田中秀幸・マーケティング＆マネージメントオープンシステムマーケティング主事は、「シンクライアント導入目的の第一の波が、運用の手間低減。第二の波がセキュリティ対策」と説明。セキュリティ対策として導入を検討するケースが、今は大半であることを強調する。JBCCでは、ニーズの強い金融機関や自治体を中心とした公共機関を中心に売り込み、今年度で1000台販売する目標を立てており、現段階でほぼ達成する見込み。〝ユーザーの関心は高いが実需に結びつかない商材〟とされてきたシンクライアントだが、セキュリティの観点で徐々にビジネスにつながり始めてきたようだ。

　とはいうものの、クライアントコンピュータのなかでシンクライアントが占める割合は数パーセントレベルといわれており、まだボリュームは小さい。

　ただ、今年はさらに普及を後押しする要因が出てきそうだ。シンクライアントを商材にしたビジネスを活性化させる起爆剤、①運用の手間低減②セキュリティ対策に次ぐ、需要を喚起させる〝第三の波〟がやってくるという見方があるのだ。その第三の波とは「SaaS」だ。

　ソフトウェアの機能をサービスとして提供し、端末に固執することなく、いつでも・どこでもアプリケーション操作やデータ閲覧・編集を可能にする「SaaS」が普及すれば、「極端にいうとクライアントはブラウザさえ動けばよく、PCのような性能は必要なくなる」（中堅SIer）というのが、その理由だ。「SaaS」は昨年、流行言葉にはなったものの、まだ参入企業が決して多いわけではなくメニューも少ないが、今年はITベンダー各社が具体的なサービスを始める計画で、昨年以上に盛り上がるのは必至。SaaS関連ビジネスを積極化させるJBCCは、「今年からはSaaSと絡めた提案活動も行っていく」方針を固め、準備を始めた。来年度は今年度見通しの2倍の台数を販売する計画だ。

　運用コストの低減とセキュリティ対策に加え、今年は内部統制と日本版SOX法対策としてもシンクライアントは注目されるだろう。さらに、SaaSでも需要を喚起するケースが増えれば、シンクライアントはますますクライアント端末のなかで、存在感を増すことになるはず。4年後の10年でも「シンクライアントがクライアントのなかで占める割合は10％にも満たない」（IDC Japan）という予測を覆す可能性も考えられそうだ。SaaS普及元年といえる今年はその試金石となる。