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<創刊25周年特集>5つの『地殻変動』がIT産業を変える―【3】NIerがシステム構築のカギ握る
2006/10/23 14:53
週刊BCN 2006年10月23日vol.1159掲載
ネットワークシステムが変革を遂げようとしている。専用線から、オープンなIP(インターネットプロトコル)ベースへと進化しつつあるなか、単なるインフラという位置づけではなく、アプリケーションサービスとの連携で新しいソリューションを生み出す基盤となる可能性が高まってきた。そのため、NI(ネットワークインテグレーション)がソリューションも含めた企業のシステム構築で重要となる。ベンダーにとっては、NIer(ネットワークインテグレータ)としての役割を果たすことが事業拡大のキーワードといえる。(佐相彰彦●取材/文)
PBXメーカー、事業拡大に意欲
ネットワークシステムのIP化が活発化しつつある。企業が抱える課題を解決するためには、ネットワークシステムの進化が必要との認識が高まりつつあるためだ。
企業がIPを導入するメリットは、(1)IP電話同士による通信コストの無料化(2)外出先で携帯電話として用いる端末が社内で内線電話の機能を果たす(3)ワイヤレス環境を活用して「いつでも、どこでも」業務が行えるようになる──などさまざま。内部統制やSOA(サービス指向アーキテクチャ)、リッチメディアの活用、リアルタイムの情報処理などの実現にもつながる。

このような利点があるため、最近では企業ユーザーのなかで、事業やサービスレベルの拡大に向けてネットワークシステムのリプレースを行う動きが、徐々に出始めている状況だ。
企業のネットワークIP化を促進させる要素として注目を集めているのが通信事業者の「NGN(次世代ネットワーク)」構想だ。各事業者がアナログ回線をIPベースに改善することを掲げ、それに合わせたシステムを導入しようとしている。NTTでは、今年12月からNGNシステムの本格稼働に向けたトライアルを実施する。まずはPBX(構内交換機)メーカー各社が通信事業者のリプレース案件獲得に向けて、新プラットフォームの開発や組織再編の実施などに取り組んでいる。
NECは、サービスプラットフォーム製品を強化する方針を打ち出した。第一弾として、今年9月にネットワークサービス基盤ソフトウェア「NC7000」シリーズを発売。製品ラインアップを揃えることで、サービスプラットフォーム製品単体で2007年度(08年3月期)に4000億円の売り上げを狙う。
NEC全体では、NGNシステムの主要顧客となる通信事業者への製品販売やサービス提供で、今後3-4年の間に売上規模を現在の7000億円から1兆円に増やすことを目指している。このうち、通信事業者向けNGN事業が30-40%を占める見込みだ。国嶋矩彦・執行役員常務は、「高速・大容量のネットワークインフラやアプリケーションをつなぐサービスプラットフォーム製品を強化することがNGN事業拡大のカギ」としている。
新組織で開発体制を結集
日立製作所では、NGN関連事業の強化で05年度(06年3月期)に3400億円だった情報・通信グループの売上規模を、10年度に5000億円まで引き上げる考え。内訳は、通信事業者分野で2200-2300億円(05年度は1700億円弱)、法人分野で2300億円前後(同1800億円弱)のほか、両分野での新規サービスの提供で約500億円を計画する。各分野の売上目標を達成するため、日立グループでは大幅な事業再編を実施した。
今年10月1日に、コンピュータ系エンジニアリング会社の日立インフォメーションテクノロジーと、通信系エンジニアリング会社である日立ハイブリッドネットワークの2社が合併し、「日立情報通信エンジニアリング」を設立したことに加え、NGN関連製品の販売やシステムの提供を強化するため、グループ間で分散していたネットワーク関連事業を子会社の日立コミュニケーションテクノロジーに集約。関連会社でスイッチメーカーのアラクサラネットワークスとの連携強化も図り、NGNシステムに適した製品のラインアップを増やしていく。
執行役常務の高橋直也・情報・通信グループ副グループ長兼CTO(最高技術責任者)は、「日立グループでは、約1万人がネットワーク分野に携わっている。この人員体制を最大限に生かすために開発力とシステム構築力を集結させた。(ネットワーク事業の主要組織である)ネットワークソリューション事業部を核に総合力を発揮し、売り上げ5000億円を必ず達成させる」と意気込む。竹村哲夫・情報・通信グループCOOは、「通信事業への提供ノウハウを集結し、新技術を次々と搭載した製品の開発に力を注ぐ」方針だ。
沖電気工業も、10月1日付で開発組織を再編。沖テクノクリエーションを吸収したほか、沖コムテックの技術者を本体に出向させるなど、グループ間で分散していた開発体制の集結を実施した。08年度(09年3月期)には、売上高1000億円を目指しており、「これまで手が回らなかったモバイル端末の開発に着手する」(来住晶介・執行役員ネットワークシステムカンパニーEVPネットワークシステム本部長)と製品ラインアップの拡充を徹底していく。
一方、富士通では「通信事業者によるNGNシステム構築はまだ先の話。現段階で、NGNを切り口に新しい取り組みを実施するのは時期尚早」(広報担当者)とまだ明確な方針を打ち出していない。しかし、競合3社が次々とNGN関連事業の強化を掲げていることから、「他社との差別化を図る策を今後詰めていく」としている。
LANスイッチ販売増のカギは!?
シスコ、トップ維持もシェア減に
ネットワークシステムを構築するうえで、重要な製品の1つとしてLANスイッチがあげられる。通信事業者によるNGN構築や企業ネットワークのIP化にともない、スイッチのリプレースは進むだろう。そのため、国内市場はスイッチメーカー各社の競争が一段と激化する可能性もある。
圧倒的なマーケットシェアを誇っているのはシスコシステムズ。ガートナージャパンによれば、L2/3スイッチ分野で05年に53.5%を獲得した。2位以下は、アライドテレシス、エクストリームネットワークス、日立電線、富士通と続く。
シスコは、90年代からトップに君臨している。しかも、買収を重ねることで、スイッチをはじめSIPサーバーやIPテレフォニー機器などネットワーク関連製品のほとんどを自社製品で網羅している。競合に比べて群を抜くラインアップが、顧客の囲い込みに大きな効果をもたらしている。シスコブランドの購入が多いユーザー企業にとっては、シスコブランドのL2/3を他社に乗り換えるより製品の互換性からリプレースを続けたほうが良いというわけだ。
しかし、L2/3スイッチを販売するメーカーにとっては、シスコのシェアを奪わなければ事業の拡大は見込めない。そのため、各社とも製品の販売増加に向けた強化策を打ち出している。
トップ追い上げるアライド
アライドテレシスグループでは、IP環境でコンテンツ配信やアプリケーションサービスを提供する「IPグローバルネットワークサービスプロバイダー(IP─GNSP)」事業を日本市場で本格化させている。ネットワークの製品開発からシステム構築、コンテンツ配信サービスまでの提供体制を整備し、大型案件の獲得に力を注ぐことでシェア拡大を狙う。
アライドテレシスホールディングスの丸山悟COO兼CIOグローバルIR担当は、「製品やシステム構築といった単位で受注していくのではなく、コンテンツやアプリケーションを含めたソリューション単位で大型案件を獲得することがマーケットの主導権を握ることになり、売上増にもつながる」としている。グループ全体で550億円程度の売上規模を、09年度までに1000億円規模まで引き上げる。同社のシェアは、実際に伸びている。ガートナージャパンのデータによれば、04年は10.4%だったが05年には12.1%にアップしている。一方、シスコは05年にシェアを2.7ポイント下げた。若干だが、トップと2位との差を縮めたことになる。
アラクサラネットワークスも、L2/3市場でシェアを拡大しようと躍起になっている。「キャリア市場ではシスコに次ぐシェアを獲得できるようになった。そのため、今後は法人市場での新規顧客開拓も図る」(滝安美弘・マーケティング本部長)としている。今年11月に、10ギガビット対応のシャーシ型基幹スイッチ「AX6300S」シリーズと「AX6700S」シリーズを出荷する。同製品群は、「NGNを先取りしたIPベースの統合ネットワークシステム構築が可能な基幹スイッチとして販売していく。ネットワークシステムのリプレースは4-5年が一般的だ。そのため、現段階からNGNに対応した製品であることをアピールすれば、企業の導入を促せる」とみる。企業向けの販売増で来年度末までに国内LANスイッチ市場で20%のシェアを獲得する方針だ。
L4-7スイッチの販売に特化してスイッチ市場の主導権を握ろうとしているメーカーもある。F5ネットワークスでは、ネットワーク機器の安定感や高速化、安全性を追求するコンセプト「アプリケーション・デリバリ・ネットワーキング(ADN)」を製品開発の切り口とする。独自に開発した統合プラットフォーム「TMOS」をベースに同社製品の連携による柔軟なアプリケーション配信を他社との差別化策として位置づける。
同社は、L4-7分野ではトップに君臨していると判断する。長崎忠雄社長は、「L4-7に対するニーズが高まっているため、売り上げを一気に伸ばせる」としている。具体的には、08年度までに現状の2.5倍に売上高を増やしていく。
リバーベッドテクノロジーではWAN高速化機器に特化。今年1月から日本法人が本格稼働し、「夏頃から知名度が急激に向上した。WAN構築によるデータ遅延は、多くの企業が抱えていた問題だったためだ。たちまち顧客が増えた」(井上祥二社長)という。現段階は、国内ネットワーク機器市場でのシェアが低いものの、「来年度にはデファクトスタンダードになる可能性が高い」と言い切る。
アプリ最適やWAN高速化が決め手
市場はL4-7スイッチにシフト
現在、スイッチで最も市場規模が大きいといわれているのはL2/3だ。しかし、主要リサーチ会社によれば市場は縮小傾向にあるという。IDC Japanでは、05年の市場規模が前年比5.2%減の1736億5300万円になったとしている。この原因について、草野賢一・コミュニケーションズリサーチアナリストは、「成熟市場のひと言に尽きる。ブランドや低価格で購入しているユーザー企業が多い」と指摘。06年から10年までは、通信事業者向け市場のNGN関連で若干の成長が期待できると分析しているものの、「基本的には、各メーカーの迅速な製品化や新技術への対応などが市場拡大を図るうえでも重要だ」と指摘する。
ガートナーでも、「05年は、通信事業者の投資抑制が原因で市場は縮小した」(堀勝雄・ガートナーリサーチコミュニケーションズ・グループ・テレコム/ネットワーキングリサーチ・ディレクター)と判断している。L2/3市場が拡大するためには、「高価格帯でも売れるような、ニーズに合わせた高機能化を図っていくしかない」と言い切る。
一方、L4-7スイッチ市場の成長については明るい見通しを示している。 IDC Japanでは、「L4-7の市場規模は170-180億円。現段階では、L2/3の10分の1程度にすぎないが、05年は前年比30%程度の伸びとなった。今後5年間は、年平均で10%の成長が期待できるだろう」と分析する。ガートナージャパンでは、「アプリケーション管理が可能なADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラ)がXMLのトラフィックのロードバランシングに最適な機器として、今後も注目を集めるだろう。また、サーバーの統合化が進むにつれ、WAN高速化機器にDNSを搭載し、ブランチ・オフィスでのサーバーレスを実現する方向性が出てくるのではないか」とみている。
こうした分析を踏まえると、「アプリケーション配信の最適化」や「WANの高速化」などが停滞期のスイッチ市場を底上げすることになる。
アプリ提案でネット事業を拡大
サーバー分野を視野に
スイッチ機能のニーズとして、アプリケーションの最適化やWANの高速化などが高まっているため、ベンダー各社はアプリケーションサービスを踏まえたネットワークシステムを視野に入れる必要に迫られている。実際、ネットワーク事業の拡大に向けてアプリケーションを組み合わせたネットワークのシステム・サービス提供に力を注ぐベンダーもある。
ネクストコムは、「セキュリティ」や「RFID」、「サーバー関連」など新規事業に着手した。セキュリティ分野で、トークンデバイス活用の「金融向けワンタイムパスワード本人認証システム」を提供するほか、セキュリティベンダーやISPとのアライアンスで、ASP化などのサービスモデルを模索している。
RFIDでは、「児童監視ソリューション」の実証実験を埼玉県蕨市の小学校を対象に開始した。関連事業として、まず今年度末までにサーバーの販売を開始し、08年度までにERPやCRMなどのアプリケーション販売まで広げる。
ネットマークスは日本オラクルと協業し、アイデンティティ管理ソフト「オラクル・アイデンティティ・アンド・アクセス・マネジメント」の拡販を図っている。具体的なアプローチとして、アイデンティティ管理ソフトをベースに、IPテレフォニーやVPN、ワンタイムパスワードなどの製品を組み合わせて提供している。
ネットワークに強いSIerによる事業領域の拡大は、ユーザー企業が現状で活用しているアプリケーションに合わせたシステム構築ではなく、アプリケーションを含めたネットワーク提案が重要になってきたことを物語っている。
08年度から企業IP化が顕在化
通信事業者がNGN構築を進め、新しい通信サービス(NGNサービス)を提供するようになれば、法人市場でネットワークのリプレース需要が一段と増大する可能性がある。そこで、NGN事業に力を注ぐPBXメーカーは、通信事業者への導入実績を生かし、法人向け事業の拡大にもつなげようとしており、現段階から準備を進めている。
NECでは、「ユーザー企業が通信事業者の提供するNGNサービスを活用するには、そのサービスを最適化するプラットフォームを導入する必然性が出てくる。ベンダー側にとっては、単にネットワークシステムを提供していくのではなく、アプリケーションも踏まえた提供が重要になってくる」(国嶋・執行役員常務)としている。
日立では、「企業向けシステムの提供は、通信事業者によるシステム導入のめどが立つ08年度以降から本格化させる」(高橋副グループ長兼CTO)という。IPテレフォニーをベースとしたシステムやサービスラインアップの増加や、業務システムとの連携によるアプリケーションソフトのASP化など新サービスも創造していく考えだ。
沖電気では、100人以下のオフィス向けにビジネスフォン「IPStage MX」と「IPStage SX」を今年12月から販売し、中小企業に対するIPテレフォニー関連製品を強化する。篠塚勝正社長は、「IPテレフォニー事業で大企業から中堅・中小企業までをカバーできるようになる。NGNでIP化ニーズは企業規模を問わずに顕在化してきた。機運の高まりを逃さず、2010年までに国内市場でのシェア拡大を図る」とし、IPテレフォニー市場で現状の2倍にシェアを引き上げる。
法人市場でネットワークのリプレース需要が増大し始めるのは、通信事業者のNGN構築が落ち着く08年度以降といわれている。これまでアプリケーションを流すだけのインフラだったネットワークシステムは今後、新しいアプリケーションサービスを創出するための重要な役割を果たすのではないか。そうなれば、企業のIPネットワーク化が一段落するであろう2011年頃には、ネットワークインテグレーションとアプリケーションサービスを提供できるベンダーが情報システムでも勢力を持つことになる。
<創刊25周年特集>5つの『地殻変動』がIT産業を変える
―BCNが予想する5年後の情報産業の姿【Part III】
―BCNが予想する5年後の情報産業の姿【Part III】
ネットとアプリの連携が新市場を生む
NGNにビジネスチャンスありPBXメーカー、事業拡大に意欲
ネットワークシステムのIP化が活発化しつつある。企業が抱える課題を解決するためには、ネットワークシステムの進化が必要との認識が高まりつつあるためだ。
企業がIPを導入するメリットは、(1)IP電話同士による通信コストの無料化(2)外出先で携帯電話として用いる端末が社内で内線電話の機能を果たす(3)ワイヤレス環境を活用して「いつでも、どこでも」業務が行えるようになる──などさまざま。内部統制やSOA(サービス指向アーキテクチャ)、リッチメディアの活用、リアルタイムの情報処理などの実現にもつながる。

このような利点があるため、最近では企業ユーザーのなかで、事業やサービスレベルの拡大に向けてネットワークシステムのリプレースを行う動きが、徐々に出始めている状況だ。
企業のネットワークIP化を促進させる要素として注目を集めているのが通信事業者の「NGN(次世代ネットワーク)」構想だ。各事業者がアナログ回線をIPベースに改善することを掲げ、それに合わせたシステムを導入しようとしている。NTTでは、今年12月からNGNシステムの本格稼働に向けたトライアルを実施する。まずはPBX(構内交換機)メーカー各社が通信事業者のリプレース案件獲得に向けて、新プラットフォームの開発や組織再編の実施などに取り組んでいる。
NECは、サービスプラットフォーム製品を強化する方針を打ち出した。第一弾として、今年9月にネットワークサービス基盤ソフトウェア「NC7000」シリーズを発売。製品ラインアップを揃えることで、サービスプラットフォーム製品単体で2007年度(08年3月期)に4000億円の売り上げを狙う。
NEC全体では、NGNシステムの主要顧客となる通信事業者への製品販売やサービス提供で、今後3-4年の間に売上規模を現在の7000億円から1兆円に増やすことを目指している。このうち、通信事業者向けNGN事業が30-40%を占める見込みだ。国嶋矩彦・執行役員常務は、「高速・大容量のネットワークインフラやアプリケーションをつなぐサービスプラットフォーム製品を強化することがNGN事業拡大のカギ」としている。
新組織で開発体制を結集
日立製作所では、NGN関連事業の強化で05年度(06年3月期)に3400億円だった情報・通信グループの売上規模を、10年度に5000億円まで引き上げる考え。内訳は、通信事業者分野で2200-2300億円(05年度は1700億円弱)、法人分野で2300億円前後(同1800億円弱)のほか、両分野での新規サービスの提供で約500億円を計画する。各分野の売上目標を達成するため、日立グループでは大幅な事業再編を実施した。
今年10月1日に、コンピュータ系エンジニアリング会社の日立インフォメーションテクノロジーと、通信系エンジニアリング会社である日立ハイブリッドネットワークの2社が合併し、「日立情報通信エンジニアリング」を設立したことに加え、NGN関連製品の販売やシステムの提供を強化するため、グループ間で分散していたネットワーク関連事業を子会社の日立コミュニケーションテクノロジーに集約。関連会社でスイッチメーカーのアラクサラネットワークスとの連携強化も図り、NGNシステムに適した製品のラインアップを増やしていく。
執行役常務の高橋直也・情報・通信グループ副グループ長兼CTO(最高技術責任者)は、「日立グループでは、約1万人がネットワーク分野に携わっている。この人員体制を最大限に生かすために開発力とシステム構築力を集結させた。(ネットワーク事業の主要組織である)ネットワークソリューション事業部を核に総合力を発揮し、売り上げ5000億円を必ず達成させる」と意気込む。竹村哲夫・情報・通信グループCOOは、「通信事業への提供ノウハウを集結し、新技術を次々と搭載した製品の開発に力を注ぐ」方針だ。
沖電気工業も、10月1日付で開発組織を再編。沖テクノクリエーションを吸収したほか、沖コムテックの技術者を本体に出向させるなど、グループ間で分散していた開発体制の集結を実施した。08年度(09年3月期)には、売上高1000億円を目指しており、「これまで手が回らなかったモバイル端末の開発に着手する」(来住晶介・執行役員ネットワークシステムカンパニーEVPネットワークシステム本部長)と製品ラインアップの拡充を徹底していく。
一方、富士通では「通信事業者によるNGNシステム構築はまだ先の話。現段階で、NGNを切り口に新しい取り組みを実施するのは時期尚早」(広報担当者)とまだ明確な方針を打ち出していない。しかし、競合3社が次々とNGN関連事業の強化を掲げていることから、「他社との差別化を図る策を今後詰めていく」としている。
LANスイッチ販売増のカギは!?シスコ、トップ維持もシェア減に
ネットワークシステムを構築するうえで、重要な製品の1つとしてLANスイッチがあげられる。通信事業者によるNGN構築や企業ネットワークのIP化にともない、スイッチのリプレースは進むだろう。そのため、国内市場はスイッチメーカー各社の競争が一段と激化する可能性もある。
圧倒的なマーケットシェアを誇っているのはシスコシステムズ。ガートナージャパンによれば、L2/3スイッチ分野で05年に53.5%を獲得した。2位以下は、アライドテレシス、エクストリームネットワークス、日立電線、富士通と続く。
シスコは、90年代からトップに君臨している。しかも、買収を重ねることで、スイッチをはじめSIPサーバーやIPテレフォニー機器などネットワーク関連製品のほとんどを自社製品で網羅している。競合に比べて群を抜くラインアップが、顧客の囲い込みに大きな効果をもたらしている。シスコブランドの購入が多いユーザー企業にとっては、シスコブランドのL2/3を他社に乗り換えるより製品の互換性からリプレースを続けたほうが良いというわけだ。
しかし、L2/3スイッチを販売するメーカーにとっては、シスコのシェアを奪わなければ事業の拡大は見込めない。そのため、各社とも製品の販売増加に向けた強化策を打ち出している。
トップ追い上げるアライド
アライドテレシスグループでは、IP環境でコンテンツ配信やアプリケーションサービスを提供する「IPグローバルネットワークサービスプロバイダー(IP─GNSP)」事業を日本市場で本格化させている。ネットワークの製品開発からシステム構築、コンテンツ配信サービスまでの提供体制を整備し、大型案件の獲得に力を注ぐことでシェア拡大を狙う。
アライドテレシスホールディングスの丸山悟COO兼CIOグローバルIR担当は、「製品やシステム構築といった単位で受注していくのではなく、コンテンツやアプリケーションを含めたソリューション単位で大型案件を獲得することがマーケットの主導権を握ることになり、売上増にもつながる」としている。グループ全体で550億円程度の売上規模を、09年度までに1000億円規模まで引き上げる。同社のシェアは、実際に伸びている。ガートナージャパンのデータによれば、04年は10.4%だったが05年には12.1%にアップしている。一方、シスコは05年にシェアを2.7ポイント下げた。若干だが、トップと2位との差を縮めたことになる。
アラクサラネットワークスも、L2/3市場でシェアを拡大しようと躍起になっている。「キャリア市場ではシスコに次ぐシェアを獲得できるようになった。そのため、今後は法人市場での新規顧客開拓も図る」(滝安美弘・マーケティング本部長)としている。今年11月に、10ギガビット対応のシャーシ型基幹スイッチ「AX6300S」シリーズと「AX6700S」シリーズを出荷する。同製品群は、「NGNを先取りしたIPベースの統合ネットワークシステム構築が可能な基幹スイッチとして販売していく。ネットワークシステムのリプレースは4-5年が一般的だ。そのため、現段階からNGNに対応した製品であることをアピールすれば、企業の導入を促せる」とみる。企業向けの販売増で来年度末までに国内LANスイッチ市場で20%のシェアを獲得する方針だ。
L4-7スイッチの販売に特化してスイッチ市場の主導権を握ろうとしているメーカーもある。F5ネットワークスでは、ネットワーク機器の安定感や高速化、安全性を追求するコンセプト「アプリケーション・デリバリ・ネットワーキング(ADN)」を製品開発の切り口とする。独自に開発した統合プラットフォーム「TMOS」をベースに同社製品の連携による柔軟なアプリケーション配信を他社との差別化策として位置づける。
同社は、L4-7分野ではトップに君臨していると判断する。長崎忠雄社長は、「L4-7に対するニーズが高まっているため、売り上げを一気に伸ばせる」としている。具体的には、08年度までに現状の2.5倍に売上高を増やしていく。
リバーベッドテクノロジーではWAN高速化機器に特化。今年1月から日本法人が本格稼働し、「夏頃から知名度が急激に向上した。WAN構築によるデータ遅延は、多くの企業が抱えていた問題だったためだ。たちまち顧客が増えた」(井上祥二社長)という。現段階は、国内ネットワーク機器市場でのシェアが低いものの、「来年度にはデファクトスタンダードになる可能性が高い」と言い切る。
アプリ最適やWAN高速化が決め手市場はL4-7スイッチにシフト
現在、スイッチで最も市場規模が大きいといわれているのはL2/3だ。しかし、主要リサーチ会社によれば市場は縮小傾向にあるという。IDC Japanでは、05年の市場規模が前年比5.2%減の1736億5300万円になったとしている。この原因について、草野賢一・コミュニケーションズリサーチアナリストは、「成熟市場のひと言に尽きる。ブランドや低価格で購入しているユーザー企業が多い」と指摘。06年から10年までは、通信事業者向け市場のNGN関連で若干の成長が期待できると分析しているものの、「基本的には、各メーカーの迅速な製品化や新技術への対応などが市場拡大を図るうえでも重要だ」と指摘する。
ガートナーでも、「05年は、通信事業者の投資抑制が原因で市場は縮小した」(堀勝雄・ガートナーリサーチコミュニケーションズ・グループ・テレコム/ネットワーキングリサーチ・ディレクター)と判断している。L2/3市場が拡大するためには、「高価格帯でも売れるような、ニーズに合わせた高機能化を図っていくしかない」と言い切る。
一方、L4-7スイッチ市場の成長については明るい見通しを示している。 IDC Japanでは、「L4-7の市場規模は170-180億円。現段階では、L2/3の10分の1程度にすぎないが、05年は前年比30%程度の伸びとなった。今後5年間は、年平均で10%の成長が期待できるだろう」と分析する。ガートナージャパンでは、「アプリケーション管理が可能なADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラ)がXMLのトラフィックのロードバランシングに最適な機器として、今後も注目を集めるだろう。また、サーバーの統合化が進むにつれ、WAN高速化機器にDNSを搭載し、ブランチ・オフィスでのサーバーレスを実現する方向性が出てくるのではないか」とみている。
こうした分析を踏まえると、「アプリケーション配信の最適化」や「WANの高速化」などが停滞期のスイッチ市場を底上げすることになる。
アプリ提案でネット事業を拡大サーバー分野を視野に
スイッチ機能のニーズとして、アプリケーションの最適化やWANの高速化などが高まっているため、ベンダー各社はアプリケーションサービスを踏まえたネットワークシステムを視野に入れる必要に迫られている。実際、ネットワーク事業の拡大に向けてアプリケーションを組み合わせたネットワークのシステム・サービス提供に力を注ぐベンダーもある。
ネクストコムは、「セキュリティ」や「RFID」、「サーバー関連」など新規事業に着手した。セキュリティ分野で、トークンデバイス活用の「金融向けワンタイムパスワード本人認証システム」を提供するほか、セキュリティベンダーやISPとのアライアンスで、ASP化などのサービスモデルを模索している。
RFIDでは、「児童監視ソリューション」の実証実験を埼玉県蕨市の小学校を対象に開始した。関連事業として、まず今年度末までにサーバーの販売を開始し、08年度までにERPやCRMなどのアプリケーション販売まで広げる。
ネットマークスは日本オラクルと協業し、アイデンティティ管理ソフト「オラクル・アイデンティティ・アンド・アクセス・マネジメント」の拡販を図っている。具体的なアプローチとして、アイデンティティ管理ソフトをベースに、IPテレフォニーやVPN、ワンタイムパスワードなどの製品を組み合わせて提供している。
ネットワークに強いSIerによる事業領域の拡大は、ユーザー企業が現状で活用しているアプリケーションに合わせたシステム構築ではなく、アプリケーションを含めたネットワーク提案が重要になってきたことを物語っている。
08年度から企業IP化が顕在化
通信事業者がNGN構築を進め、新しい通信サービス(NGNサービス)を提供するようになれば、法人市場でネットワークのリプレース需要が一段と増大する可能性がある。そこで、NGN事業に力を注ぐPBXメーカーは、通信事業者への導入実績を生かし、法人向け事業の拡大にもつなげようとしており、現段階から準備を進めている。
NECでは、「ユーザー企業が通信事業者の提供するNGNサービスを活用するには、そのサービスを最適化するプラットフォームを導入する必然性が出てくる。ベンダー側にとっては、単にネットワークシステムを提供していくのではなく、アプリケーションも踏まえた提供が重要になってくる」(国嶋・執行役員常務)としている。
日立では、「企業向けシステムの提供は、通信事業者によるシステム導入のめどが立つ08年度以降から本格化させる」(高橋副グループ長兼CTO)という。IPテレフォニーをベースとしたシステムやサービスラインアップの増加や、業務システムとの連携によるアプリケーションソフトのASP化など新サービスも創造していく考えだ。
沖電気では、100人以下のオフィス向けにビジネスフォン「IPStage MX」と「IPStage SX」を今年12月から販売し、中小企業に対するIPテレフォニー関連製品を強化する。篠塚勝正社長は、「IPテレフォニー事業で大企業から中堅・中小企業までをカバーできるようになる。NGNでIP化ニーズは企業規模を問わずに顕在化してきた。機運の高まりを逃さず、2010年までに国内市場でのシェア拡大を図る」とし、IPテレフォニー市場で現状の2倍にシェアを引き上げる。
法人市場でネットワークのリプレース需要が増大し始めるのは、通信事業者のNGN構築が落ち着く08年度以降といわれている。これまでアプリケーションを流すだけのインフラだったネットワークシステムは今後、新しいアプリケーションサービスを創出するための重要な役割を果たすのではないか。そうなれば、企業のIPネットワーク化が一段落するであろう2011年頃には、ネットワークインテグレーションとアプリケーションサービスを提供できるベンダーが情報システムでも勢力を持つことになる。
ネットワークシステムが変革を遂げようとしている。専用線から、オープンなIP(インターネットプロトコル)ベースへと進化しつつあるなか、単なるインフラという位置づけではなく、アプリケーションサービスとの連携で新しいソリューションを生み出す基盤となる可能性が高まってきた。そのため、NI(ネットワークインテグレーション)がソリューションも含めた企業のシステム構築で重要となる。ベンダーにとっては、NIer(ネットワークインテグレータ)としての役割を果たすことが事業拡大のキーワードといえる。(佐相彰彦●取材/文)
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