日本ユニシス(籾井勝人社長)は、大型の受託開発案件で、システム設計・開発、アウトソーシング、保守など各段階でリスクを極小化してシステム全体の品質を保証する取り組みを開始した。これまで、各段階で担当者による品質チェックをしていたが、大型案件で「不採算案件」が発生したため体制を強化した。ユーザー企業のIT投資に応じて、想定されるリスクを提示。万が一故障した際の対応や責任分担を決め、明確なSLA(サービス・レベル・アグリーメント)などを結ぶ。システムを受託する段階では、「安易に契約しない」(稲泉成彦・品質保証部長)と、同社とユーザー企業の仕様書などがかい離している場合は、契約を見合わせる。将来的に「人月単価」の見積もりを廃止することも検討する。
将来的に「人月単価」を廃止へ
リスクを提示して、SLAを結ぶ

日本ユニシスは昨年度(2006年3月期)、大型案件で高額の「不採算案件」が発生するなど、約28億円の損失を計上した。これを重く見た籾井社長は6月1日付で、日本ユニシス・ソリューションの取締役常務執行役員(稲泉品質保証部長)を筆頭にした20人体制の横断的な組織「品質保証部」を設置した。
同社では従来から、システム設計・開発、アウトソーシング、保守など上流から下流の各段階で、継続的なチェックを実施してきた。しかし、先の大型案件では、当初想定したリスクとのかい離があり、繁忙期にシステムが停止した。「ちょっとしたズレが結果的に全体のオーバーフローを招いた」(稲泉部長)という反省を踏まえて、各段階で横断的にチェックできる仕組みを構築した。
企業のシステムを受注する際には、システム開発中の手戻りやアウトソーシング中の運用ミスなど、過去に蓄積されたデータを基に作成した100項目のチェックリストを利用し、受託の是非を判断。同社の不得意業種であったり、ユーザー企業側の業務フローを理解できず赤字に至る案件は、受注しないことで、「不採算案件」発生を未然に防ぐ。チェックリストで、例えば得点が50点であった案件は、不具合を想定して原価を高めに要求することもありうるという。
運用・保守の段階では、国際標準のガイドラインであるITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)など、金融商品取引法にある「IT全般統制」に関する項目などを参考に作成した独自の20項目のシステム監査基準に応じ、継続的に運用・保守体制を見直す。品質保証部では、不足点があれば担当者に是正勧告する。
ここ2─3年は、ユーザー企業がIT投資を抑制するだけでなく、低コスト・短納期など、多くの条件をつける例が増えた。システム受注を狙う営業担当者は、人員や開発体制に無理があっても請け負うケースがままあり、「不採算案件」を発生させる温床となっていた。ただ、上流から下流の各段階を厳密に損益管理すると、システム提案が凡庸になり、案件獲得数が減る恐れがある。同社は「リスクを取り、高いリターンを得るため、当社とユーザー企業、ソフト開発の途中を担当する協力SIerなどが情報を共有し、リスクを極小化する」(稲泉部長)ことで、案件を獲得していくという。
品質保証部は、設立から3か月で体制を確立した。この先に受注する案件は、すべてチェックの対象にする。また、重要顧客の既存ユーザー企業数10社に対しても、この仕組みに応じたシステムや運用・保守に移行を促す。協力会社には、この仕組みを徹底し、SOW(ステートメント・オブ・ワークス=作業契約書)を結ぶ。協力会社には、今までと異なる上流分野を担当させ、下流のソフトウェア開発は中国などの「海外オフショア」に移管し、コストを削減する。また、今年度(2007年3月期)中には、過去と今後の成功、失敗の両例を社内システムにデータベース化し、リスクを厳密に算出することに活用する。
不得意分野に関しては、比較的容易な案件を増やし、成功ノウハウを蓄積して、同社のSEなど業務フローを確実に習得した段階で、新規市場を狙う。稲泉部長は「今後は利用価値を売る。単なる要員派遣による工数商売をやめる」と、大半の大手SIベンダーが採用する「人月単価」での見積書を段階的になくす方針だ。大手SIベンダーが「人月単価」の是正に言及したのは珍しく、業界へ影響を及ぼしそうだ。