「バグ内在率」を論理的に発見せよ

　「ソフトウェアの第3者検証」──国内ソフト会社関係者には、聞き慣れない言葉であろう。ソフトの半製品に対する「バグ出し」など、品質チェックの取り組みは、各ソフト会社が独自に行っている。しかし、各ソフト会社の属人性に任され、開発工程の〝手戻り〟発生などが頻発し、数年前に「不採算案件」が相次いだことは記憶に新しい。

　今、世界的には、工学的手法でソフトの成果物に対する妥当性を確認する「第3者検証」が、こうした問題を解決する手法として利用が加速している。

　IT産業立国のインドでは、「第3者検証」が5年ほど前から急成長している。インドは、世界の「海外オフショア」拠点として発展を遂げた。主に企業向け受託ソフトやパッケージ、AV（音声・映像）機器などの組み込みソフトなどを開発する「途中工程」を担っている。だが、IT技術力が世界レベルに達するとともに、ソフトの成果物に対する「バグ内在率」や「ユニット結合」などの論理的な検証が不十分であることに気づき、「第3者検証」の専業ベンダーが次々登場した。

　その1社で「STEM（ステム）」という独自のテスト方法論をもつスタッグ社は、「論理的な検証により、各ベンダーが見つけることが困難だったバグを解決し、5年間で5000万ドル（約60億円）の損失を防いだ」（T・アショックCEO）と話す。つまり、各ベンダーがスタッグ社に検証を依頼せず、製品をそのまま出荷した場合、品質劣化で信用を失う可能性がこの程度あったということだ。

　日本のソフト会社ではここ数年、米国で開発されたソフト開発能力を客観的に示す品質管理基準「CMMI（Capability Maturity Model Integration）」などを取り入れ、ソフト開発の「プロセス」を改善する動きは活発化。一方で、「プロダクト（成果物）」に対するチェックは、ユーザー企業からの納期や予算の要求もあり、おざなりになりがち。納品後にシステムが動かないケースが増えているといわれる。

　スタッグ社の「STEM」は、成果物の妥当性を保証する技術、プロセス、メトリクス、ツールの集合体という。T・アショックCEOは、「STEM」という「第3者検証」について、病院の診療を例に、こう説明する。「体に変調をきたす患者には、問診や検査などを実施し、悪い個所を特定してメスを入れる手法」だと。通常、一般のソフト会社が実施する「バグ出し」は、いきなりメスで執刀する。その場合、すべての悪性部位（バグ）を改善するのに困難が伴うのと同じという。

　昨年4月には、日本のソフト会社の委託を受けスタッグ社などのインド会社にに発注するアイ・ブイ・スクエア（谷崎護久社長）が設立された。谷崎社長は「日本のテスト環境は、世界に比べてまだ発展途上。日本でも、確実に成長する分野だ」という。同社は近く、スタッグ社などのテスト理論を基にした有料研修をソフト会社に提供を開始するなど、ソフト品質・認証機関になることを目指す。

　日本では、日本IBMや日立製作所などが、独自にテスト理論を構築している。今後、この市場が急拡大することは間違いなさそうだ。