マイクロソフト(ダレン・ヒューストン社長)は、業務用アプリケーション「Microsoft Dynamics(ダイナミクス)」のパートナー支援策を明らかにした。CRM(顧客情報管理)では、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)やSIerなどパートナー向けの「特別支援プログラム」などを6月末から開始。9月8日の出荷予定までに複数の早期導入事例を生み出す。ERP(統合基幹業務システム)は、7月に新バージョンが米国で発売される予定だが、日本版も今秋までにローカライズ(現地語化)を実施し、製品デモを始める。ERPでは、Dynamics上で動くコンポーネントをパートナー間で相互活用するための設計手法や要件などを集約する「パートナーグループ」を設立。両製品は、中堅中小企業市場を攻略する最大の製品であり、日本法人の重要な投資領域の1つとして力を入れる。
CRM投入前に先行導入事例も
ERPでは、設計手法を共同で検討
9月に投入予定のCRM「Dynamics CRM Version3.0」では、出荷に向けてパートナー向けの技術トレーニングを6月末から開始する。パートナー内で選任された担当者に対して、コンフィグレーション(設定)や技術概要、カスタマイズに関する9日間の教育を行う。このトレーニングは、通常1日4万円の有償だが、出荷までに早期導入事例を提供できる見込みのパートナーに対しては「特別支援プログラム」として、無償で実施。加えて、パートナーの企画・営業担当者と製品開発や拡販、マーケティングなどに関する「個別のビジネスプラン」を共同で作成する。
Dynamics CRM 3.0の英語版は昨年12月にリリース。3月には日本語版の開発を完了した。顧客情報管理や営業支援(SFA)、コールセンター機能など基本機能を搭載。英語版は、企業規模に応じ中規模版と小規模版があるが、日本では中規模版を投入する。「調査会社によると、国内のERP、SCM、CRM関連市場は1兆5000億円で、この市場はまだ攻める余地がある。パートナーにはDynamics CRMを開発プラットフォームとして利用し、業務ノウハウや業種などに対応したソリューションを搭載して、この市場を開拓してほしい」(宗像淳・業務執行役員MBS事業統括本部長)という。
来年4月に出荷する予定のERP「Dynamics AX Version4.0」ではこのほど、日本語版のローカライズに着手した。現在、世界で販売しているバージョンは「3.0」だが、7月に登場する「4.0」が日本語版のベースとなる。9月頃までにローカライズを完了して、日本語版の製品デモを開始する。技術トレーニングは来年1月から開始する計画だ。
Dynamics AXの日本語版は、コア機能として製造や物流、人事管理、会計管理などを搭載し、「多言語多通貨」に対応。「このコア機能に組み込むソリューションをパートナーと共同で構築する」(御代茂樹・MBSプロダクトマーケティング本部長)。こうしたERPの基本機能に加え、「Morphx」と呼ぶオブジェクト指向の開発言語「X++」を使用した開発環境もある。「この開発環境は、データベース(DB)言語に近く、業務アプリケーションとDBとのアクセス環境をシームレスにする。ただ、現在の.NET環境でも開発は可能だ」(同)として、「X++」言語の技術トレーニングも行う。
Dynamics AXの評価用には、当面、英語版「3.0」を使うが、早期に「4.0」のβ版を提供して、今秋からパートナー獲得に乗り出す。
またDynamics AXには、マイクロソフトとISVが共同でアドオンソフトを構築するための開発制度「インダストリー・ビルダー・イニシアチブ(IBI)」がある。海外では、すでに小売や流通、化学業界向けに6種類のアドオンソフトが開発されているが、これらを日本語化して国内でも代理店を募って販売する計画。さらに、日本向けのアドオン製品を開発するための認定パートナー制度も発足させる。
御代本部長は「Dynamics AXは年商50-500億円の中堅企業や大企業のグループ会社などが対象。業種業態に応じたパートナーの製品を載せ、企業の業務ノウハウに応じたカスタマイズが簡単にしやすい設計になっている」と強調する。こうしたカスタマイズやソリューションを構築するSIerを募集して、認定パートナーから中堅企業へ販売する流通形態をとる。
説明会にISV160社が参加
6月初旬に開催されたパートナー向けの「Dynamics」説明会には、業務ソフトを扱うISVを中心に約160社が参加した。宗像統括本部長は、「Dynamicsはパートナーと一緒に構築する『ソリューション協業モデル』だ。この製品をプラットフォームとしてテンプレートを提供する『拡張型』、拡張製品を開発する『連携型』、自社製品に組み込む『組込型』があり、それぞれの方式でパートナーと協業したい」と、「Dynamics」を利用したソリューション開発への参加を呼びかけた。
中堅中小企業市場の開拓を統括する眞柄泰利・執行役常務は、「Dynamics」で中堅中小企業市場に“風穴”を開けると宣言する。「『Dynamics』は、昨年7月に就任したヒューストン社長が掲げた『Plan-J』を実現する重要な施策。私の部隊だけで、人員を20%増やし、拠点を新たに3か所設置する」として、製品出荷が本格化する来年度(07年6月期)以降、中堅中小企業市場での躍進を目標にしている。