今年3月期決算を発表したITベンダー/SIサービスの株式公開企業上位200社の収益状況をみると、1-100位における「増収増益」は65社(赤字額減少を含む)、「増収減益」は10社、「減収増益」は19社、「減収減益」は6社だった。また最終欠損(赤字)は11社、うち黒字から赤字転落が2社、2期連続赤字は2社、最終欠損から黒字に転換したのが9社だった(前号参照)。
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■101-200位の「増益」72社 だが純利益は5.3%減に 今回掲載した101-200位における「増収増益」は63社、「増収減益」は16社、「減収増益」は9社、「減収減益」は12社。最終欠損は15社、うち黒字から赤字転落が10社、2期連続欠損は5社、最終欠損から黒字転換が3社だった。総じて1-100位の企業群のほうが業績回復が顕著だったことになる。
各100社の売上高合計で比較すると、1-100位は前年度比5.3%増、101-200位は11.8%増となって、「1-100社企業群が顕著に業績回復」という結論と矛盾するようにみえる。実際、売上高伸び率で200社を並び替えると、トップはシーエヌエー(売上高ランキング182位)、第2位は松下電工インフォメーションシステムズ(同44位)、第3位はドリコム(同199位)、第4位はメッツ(同172位)など101以下の企業が上位に並ぶ(売上高伸び率ランキング上位100社中63社が売上高101位以下の企業)。
ところが純利益の伸び率でみると、1-100位が27.7%増なのに対し、101-200位は5.3%減と全く反対となる。このような違いの背景には、次のようなことが想定される。
■脆弱な事業基盤が端的に 投資先行型は準備から躍進へ まず考えられるのは企業の規模だ。1-100位の企業群は平均売上高が約841億円、それに対して101-200位の企業群は48億円。101-200位の企業群は分母が小さいため、売上高の増減率に大きく影響する。
2つめは企業の事業特性だ。1-100位の企業群はメインフレーム時代から一貫してエンタープライズ系システムの受託開発を行ってきた企業が少なくない。
一方、101-200位の企業群にはインターネットサービス系やソフトウェアプロダクト系の比較的若い企業が多い(100社中東証マザーズ25社、ジャスダック43社、ヘラクレス17社、名証セントレックス3社)。事業基盤の安定度や新規企業への投資が業績に現れた。
3つめは1-100位企業群が不採算プロジェクトを回避するため、積算を厳格化したり選別受注し、売上高の伸びより利益重視に転換した点。売上高の伸びが5.3%にとどまったこと、増収・減収を含めて「増益」が84社(うち減収増益19社)だったことなどは、そうした動きを示している。
101-200位の企業群は独自のプロダクト開発・販売、インターネットを活用した各種サービスなどストック型が少なくない。投資先行となる傾向が強く、05年度業績でも本業の利益水準を示す営業利益率は7.8%と、1-100位企業群より0.6ポイント高かったが、純利益率は2.2%(1-100位群は4.7%)にとどまった。05年度は「次のステップへの準備期間」であったといえる。
101-200位を個別企業でみると、101位のインフォメーション・ディベロプメントは売上高14.5%増、営業利益54.7%増、純利益261.3%増と「完全復活」ながら、04年度から順位をひとつ落とした。
1-100位に新規上場のソニーコミュニケーションネットワークのほか、SJホールディングス(04年度108位)、アイ・シー・エフ(同129位)、クレオ(同103位)、アルファグループ(同113位)の計5社が上位に割り込んだ。
■激しさ増す順位入替え 減収は即ランクダウン 減収となったエー・アンド・アイシステムは前回87位から今回は102位に、ジャストシステムは96位から104位に、両毛システムズは98位から105位に、それぞれランクを落としている。全体の水準が上昇しているなかで、100位前後の領域は新旧の入れ替わりが激しい。このため、減収は即ランクダウンにつながってしまう。
業績好調を維持しているのはバンダイネットワークス(107位)、EMシステムズ(113位)、エキサイト(114位)、日本コンピュータ・ダイナミクス(116位)、オーエー・システム・プラザ(119位)、テクマトリックス(120位)、ソフトクリエイト(121位)、福井コンピュータ(124位)、ネクストウェア(126位)、オープンインタフェース(130位)、イーウェーヴ(138位)など。また前回は番外だったドリコムとエイジアが200位内に入ってきた。
反対に売上高が2ケタのダウンとなったのはクラビット(115位、売上高15.5%減)、ユニバーサルソリューションシステムズ(152位、同10.3%減)、ぷらっとホーム(155位、同10.4%減)イーシー・ワン(162位、同16.3%減)、ディースリー(168位、同46.8%減)、ビーイング(170位、同18.0%減)、アクセス(171位、同32.0%減)、アイ・ビー・イー(184位、同47.0%減)、システムソフト(194位、同16.1%減)、豆蔵(198位、同51.2%減)の10社だった。このなかには収益の悪化が懸念されるケースがあり、次回(06年度決算ランキング)ではランクを大幅に落とす可能性もある。
■対応の遅れ目立つ、不採算案件の解消策 今後の展開を101-200位の業態別集計でみると、受託開発系SIerは売上高が8.0%増、営業利益が0.4%減(営業利益率5.3%)、純利益は46.8%減(純期利益率1.2%)と苦戦が続いている。同じ受託開発系でありながら、なぜ1-100位群と101-200位群でこのような違いが現れるのだろうか。
1-100位群の受託開発系SIerが04年度から進めてきた不採算プロジェクトの解消方策や外注の絞り込みが実を結び始めたのに比べて、101-200位群のエンタープライズ系システム受託開発企業は対応の遅れが目立つ。プロジェクト・マネジメント・オフィス(PMO)や積算の厳格化、社内統制、情報保護管理、資本力の強化など、体制整備に向けて取り組むべき課題が山積している。加えてシステム開発需要を充足する人材確保が難しくなっているだけに、このクラスの開発系SIerに厳しさがいちばん現れている。
ただし、1-100位にランクされていても、明確なビジネスモデルや技術基盤を持っていない受託開発系SIerも状況は変わらない。売上高1000億円超(05年度は全体で27社)、もしくは営業利益10%以上(同79社)、純利益率5%以上(同70社)の企業のビジネスモデルや収益構造が参考になる。
■販売系SIerは黒字転換 インターネット系は浮沈激しく 101-200位における販売系SIerの売上高は15.7%増、営業利益は38.6%増で、当期利益は赤字から黒字に転換した。ジャストシステム(最終赤字9億3000万円)、ビーイング(同4億1700万円)を除けば、販売系SIerは今年度も好調に業績を伸ばしそうだ。
同様なのがインターネットサービス系で、売上高は37.7%増、営業利益は24.5%増と“絶好調”だが、純利益は70.9%減に沈んだ。トランスデジタルの最終赤字22億3500万円が全体の足を引っ張った。業績の浮沈が激しい業態だけに、次回のランキングでは大きな順位の入替えが起こると考えられる。
ゲーム/アミューズメント系は売上高が12.3%増、営業利益が36.5%増、純利益が36.7%減だった。デジタルアドベンチャーの最終赤字21億7100万円が大きく影響した。とはいえ、このクラスにはエキサイト、ネットビレッジなど高成長組が入っており、06年度は各社ともランクアップが予想される。
この記事は、今年5月、有限責任中間法人IT記者会がまとめた情報サービス関連企業205社の2006年3月期決算を参考にした。売上高や営業利益ばかりでなく、売上原価や一般管理費などの推移も調査しているが、ここでは紙面の都合から全体の概要を記すにとどめた。詳細は同会発行の「IT記者会Report」(Vol.2/No.8)またはホームページ(http://www.itkisyakai.jp/)を参照されたい。問い合わせは、電話 03-3519-6030/FAX 03-3519-6031