店頭市場で品薄状態にあるウィルコムの新モバイル端末「W─ZERO3」が法人市場に拡大しそうだ。大塚商会は自社の情報系システムと連携させ、同端末で承認・決裁業務などができる新モバイルソリューションを4月から開始する。同端末と連携させたシステム販売の戦略を打ち出したのは大塚商会が初。ウィルコムは、同様に複数のベンダーと同端末を利用した法人向け新ビジネスモデルを検討中という。アクセス基盤「Presentation Server(旧メタフレーム)」をもつシトリックス・システム・ジャパンも、同端末対応のモジュールを開発、「新規ユーザーを獲得できる」と期待。同端末が法人需要を開拓する新たな商材となりそうだ。
充実したビジネスユース機能を訴求
大塚商会は「W-ZERO3」と情報系システム「eValue」の企業ポータルや承認システム、文書管理システムなどワークフロー製品、シトリックスのアクセス基盤「Presentation Server」を連携させた新モバイルソリューションを中堅中小企業向けに4月から販売する計画。従業員10人が同端末を利用したシステムで、200万円程度になる予定だ。
今回のソリューションでは、シトリックスのアクセス基盤、独自通信プロトコル「ICA」を連携させ、同端末をシンクライアント化して社内のワークフロー製品にある機密性・重要性の高いデータを社外からセキュアに利用できる。「グループウェアに携帯電話からアクセスするのが当り前になっているが、ワークフロー関連の承認・決裁は実現が困難だった」(阿部浩一・マーケティング本部テクニカルプロモーション部eValueグループシニアスペシャリスト)と、社外から承認・決裁する幹部や交通費精算をする営業マンなどを抱える企業などに導入が進むと見ている。

「W-ZERO3」は、PHSの音声通話に加え、ウィンドウズOSとスライド式フルキーボードを搭載し、エクセルやワードなどの編集、PDFデータやブラウザを閲覧できるなど、企業内のワークフローをパソコン並みに使いこなせる新世代の端末として注目が集まっている。過去には、PDA(携帯情報端末)が同じように新ビジネスツールとして期待された。だが、通信機能を持たず、情報漏えい対策などが不十分で安心感がなく、普及するまでに至らなかった。
シトリックス・システム・ジャパンは、「フルスペックのパソコンと比べられ、PDAは普及しなかったが、『W-ZERO3』はビジネス用途で持ち運ぶ端末として条件を満たした」(今野尚昭・マーケティング本部シニアプロダクトマーケティングマネージャー)と、ワークフロー製品や企業アプリケーションと連携した利用拡大に期待する。
昨年末から同社は、同社のアクセス基盤を持つ既存顧客に対し、全国でウィルコムと共同で、新たな利用方法などに関するセミナーを開催している。また、既存顧客だけでなく、「モバイル環境の利用を希望する新規顧客にリーチできる」(今野マネージャー)と、販路拡大にも期待を寄せる。同社は、NTTドコモの新モバイル端末「FOMA M1000」向けのモジュールの開発も開始。両端末に対応したビジネス展開を強化していく方針だ。
ウィルコム、「半分を法人向けに」
ウィルコムによれば、大塚商会と同じようなソリューション展開を検討するベンダーは複数社ある。このほか、アプリケーション関連のベンダーとの連携が進んでいるという。
特に、「セキュリティに関するニーズが非常に高い」(広報宣伝部)と、アンチウイルスソフトを扱うベンダーと連携したサービスモデルを複数検討している。2月には、シマンテックが法人向けに利用する「W-ZERO3」用の製品を発表した。また、インテリシンクはデータ同期ソリューション「Intellisync Mobile Suite」を「W-ZERO3」に対応。各種グループウェアとの連携や遠隔操作による端末データ消去、企業内データへのアクセス管理など、新たなモバイル利用環境を提供する。
「W-ZERO3」の販売は、現時点でコンシューマの比率が圧倒的に高いが、「今後、法人需要が拡大し、将来的にはコンシューマと法人は同率になる」(広報宣伝部)と予想。企業向けワークフロー製品と親和性が高く、法人需要を喚起することになりそうだ。