SIerの取り扱いシェアが雌雄を決する
来年度(2007年3月期)に向けたPCサーバーのシェア争いが早くも加熱している。NECと日本ヒューレット・パッカード(日本HP)がトップシェア獲得を宣言し、富士通もソフト・サービス偏重を修正してPCサーバーのシェア拡大施策を強化する。迎え撃つトップのNECは「外資系ベンダーが本気で牙を剥いてきた」(山本正彦・執行役員常務)と対決姿勢をあらわにする。(安藤章司●取材/文)
NEC コスト削減は「鉛筆1本から見直す」■ポストNECへ虎視眈々の外資系、経営力を賭けてトップを死守 11年連続トップシェア獲得を目指すNECに対して、日本HPは「今年度(06年10月期)にはトップシェアを獲る」(窪田大介・常務執行役員ソリューションパートナー営業統括本部統括本部長)と早くも連覇阻止を宣言。さらに日本HPの幹部の間では「最終的には直販ベンダーのデルとの一騎打ちになる」と、ポストNECを見据えた準備を水面下で進めている模様だ。
トップグループは日本HPとデルで争い、NECは第2グループで富士通とシェア争いすると見ている。
これに対してNECは生産体制を「鉛筆1本から見直す」(山本常務)と、徹底したプロセス改革で国内トップシェアの死守を宣言する。これまではNECブランドの圧倒的な知名度の高さと販売網の大きさでシェアを獲得してきたが、日本HP、デルがトップシェアを射程に入れて始めたことで、状況が変わった。今年度、PCサーバー市場は、過去最高の50万台を超える勢いで出荷台数が増えており、量販型のパソコンと同じコスト競争にさらされている。NECでは「パソコン並みの徹底したコスト管理」を実践することで競争に打ち勝ち、首位を守る方針だ。
しかし、世界市場を舞台にNECの数倍の規模でビジネス展開する外資系ベンダーとのコスト競争に打ち勝つには、表面的な施策では到底太刀打ちできない。マーケットが求める価格に対して、どの程度の粗利益を確保できるかが勝負どころだ。NECでは「経営の質が問われる厳しい戦いになる」として、シェアで優位に立つビジネスPCの生産ラインをベンチマークにして、PCサーバーの生産ラインの改善に取り組む。爪に火をともすようなコスト管理で競争力を高める。「数年前のNECの体質なら負けていたかもしれないが、今なら勝てる」と、経営力を賭けた戦いを挑む。
挑戦者の日本HPは、販売パートナー施策が奏効して、昨年度(05年10月期)通期の国内PCサーバー販売台数が前年度比31%増と好調に推移。トップNECの今年度(06年3月期)の伸び率の見込みを上回る勢いで拡大した。ウェブ販売チャネル「ダイレクトプラス」も前年度比30%強の伸びとなり、主要な販売パートナー約40社もダイレクトプラスの仕組みを活用してビジネスを伸ばした。同チャネルの売上高のうち約7割は販売パートナー経由によるもので「パートナービジネスを原動力とした成長」(窪田常務)がより鮮明になってきた。
HP 首位奪取へ「最後はデルと一騎打ち」■カギを握るのは販売パートナー、店内シェア確保にコミット制も トップ争いの“本命”と位置づけられるデルと比較した場合、販売パートナーの有無が日本HPとの最大の相違点になる。さまざまな業務システムが絡むサーバー販売では、デルといえども直販スタイルを維持しながら、SIerなどとスポット的な販売協力を行っている。
これに対して日本HPでは、「案件ベースのスポット協業ではなく、日本HPと販売パートナーが会社対会社のコミットを共有して販売に当たる」ことで自社製品の取り扱い比率を増やしてもらう考えだ。
SIerのマルチベンダー化が進むなかで、いかに自社製品の“店内シェア”を高めるかがハードベンダーの最大の関心事になっている。安定した関係を築くことで、最終的には店内シェアが拡大し、デルに対する優位性を打ち出せるからだ。パートナービジネスを重視する日本アイ・ビー・エム(日本IBM)も店内シェアの拡大に神経を尖らせる。昨年度(05年12月期)は、市場の伸びを上回ったとし、今年度も引き続き伸びるためには通期を通じてバランスよく「店内シェアの拡大」(鷺谷万里・執行役員ゼネラル・ビジネス事業担当)を維持し続けることが大切だと指摘する。
ソリューションビジネスなどソフト・サービスに偏重しすぎてシェア低迷に甘んじていた富士通も本格的なシェア拡大に動き始めた。これまで地域拠点に分散していた量販部分を担当する営業機能を本社に集約してマーケティング力を強化。20人余りの組織になる見通しで、今年4月から本社主導による量販ビジネスの本格的な立て直しを図る。来年度は「台数シェア20%」(中村巧・経営執行役首都圏営業本部長)を最低ラインと位置づけ、トップグループへの返り咲きを目指す。
■混迷深まるサーバー市場の明日、拡大か縮小か2つの予測が混在  | | PCサーバー市場の動向 | | | | 今年度(06年3月期)の国内PCサーバー出荷台数は過去最高の50万台を超える勢いで伸びる見通し。ベンダー各社は来年度も引き続き伸びると予測している。NECでは「前年度比10-15%程度の伸び」と予測し、富士通では「ここ2-3年は10%程度の伸び、年間60-70万台の市場規模」になる可能性があると分析する。景気好転に加えPCサーバーのコモディティ(日用品)化が急速に進んでいることが伸びを支えている。高い伸び率に追随できないベンダーはシェアを落とすことになるだけに、生産体制の増強など強気の出荷計画を立てる。 | | |
また、PCサーバーの動向で忘れてはならないのが「サーバー統合」の動きだ。分散と集中を繰り返すコンピュータシステムのなかで、現在のような年率10%超の勢いでローエンドサーバーを中心とした出荷台数増が続くことに疑問を投げかけるベンダー関係者もいる。分散化が進めば今の出荷台数の2倍に相当する100万台市場のポテンシャルはあるとするベンダー幹部がいる一方で、業務アプリケーションのオンデマンド化が予想を上回る速度で進む可能性を懸念する幹部もいる。サーバー市場の先行きは、拡大と縮小という2つの図式が混在する予測のつきにくい状況にある。
富士通では今年あたりから業務アプリケーションのオンデマンド化が徐々に進み、2008年頃にはグリッド技術を採用した次世代のオンデマンドサービスが立ち上がると予測する。
だが、短期的に見れば、総力をあげて台数シェア拡大を目指す構図に変わりはない。価格や納期、品質面で他社に勝るとともに、SIerをはじめとする販売協業先の店内シェアをどう高めていくのかが勝敗を分けるカギになりそうだ。