政府のIT新改革戦略が今年スタートするのに先立って、IT戦略本部の評価専門調査会(座長・庄山悦彦日立製作所社長)が、「最終報告─先端から先導へ─」をまとめ、公表した。わずか2年間の活動期間で、中間報告を含めて6回の報告書を作成、「政府が推進するIT政策を民間が評価する」という画期的な体制を確立することに成功した。IT新改革戦略の中でも、引き続き評価専門調査会が重要な役割を担っていくことが明記されたが、果たして機能強化で存在感を示すことができるのか。政策評価には強いリーダーシップが不可欠なだけに、座長、同代行を含む調査会の新体制がどうなるかが注目だ。(千葉利宏(ジャーナリスト)●取材/文)
独自の国際比較データで、到達度を浮き彫りに
新体制の人事に注目
■情報家電の技術開発や校内LAN整備率で出遅れ 評価専門調査会の最終報告は、2001年のe-Japan戦略Iで掲げたネットワークインフラ整備などの重点5分野、03年のe-Japan戦略IIの先導7分野と技術競争力について、国際比較などが可能な数値データなどを使って網羅的に評価を行った。各分野ごと冒頭に、250字程度でまとめた「総合評価」を掲載し、その後に「国際的位置づけ評価」「課題の所在」「課題解決に向けた提言」の3つの視点で調査会の考え方を示した。
注目されるのは、国際的位置づけ評価を行うために60点以上の具体的なグラフや表などを示したこと。うち約20点が、評価専門調査会として独自に調査し、今回初めて公開されたものばかりである。
これまでもブロードバンドのスピードや料金、普及率など国際比較しやすいデータは多く公表され、日本が最先端IT国家と言える数値結果が示されてきた。しかし、調査会が独自に作成したデータをみると、校内LAN整備率のデータでは、日本もわずか5年でかなり普及が進んできたものの、その遅れは一目瞭然の結果に。すでに法的整備を終えたと思われてきた電子商取引に関する消費者保護制度の整備も、調査会が作成した国際比較表では「国際的な電子商取引に関する法制度・ガイドライン」の項目が加えられ、この部分で米国、オーストラリアなどに遅れている実態が示された。
調査会座長代行の國領二郎慶応義塾大学教授が特に注目したデータが「新たな技術の実用化に向けたインフラ制度の対応状況」の表だ。いずれも情報家電分野で鍵を握ると見られている新技術ばかり。「日本が情報家電では世界を“先導”するというのであれば、真っ先に対応すべきテーマであるはずだが、『検討はするけど、なかなか結論を出せない』という日本の現状を如実に示している」と危機感を募らせる。
今年から始まるIT新改革戦略でも調査会が存在感を発揮していくには、既存のデータだけで評価するのではなく、第3者の視点で独自データを作成して示していくことが今後も重要であると言えるだろう。
■國領座長代行に聞く「評価指標の狙いと課題」 ──最終報告の狙いは。 「これまでの5次の中間報告で言ってきたことをトータルでまとめて全体像を示したという点で、地味な仕上がりになっているかもしれない。しかし、これまで感覚論で語っていた問題点を極力データで語るようにした点が重要だ。データは、今後のIT戦略をナビゲートしていく上で有効と思われる指標を厳選して残したつもり。IT戦略本部が立てた戦略を民間がチェックして提言を行い、必要な指標を出していく、との体制が整ったと言える」
──点数は付けなかったが。 「各項目の総合評価では利用者視点などから、かなり辛口なことも書いたつもりだ。これでも調査会が活動を始めた2年前なら、大変なことになっていただろうが、最近は各府省とも驚くほど、前向きに提言をとらえてくれるようになった」
──評価指標の課題は。 「システム導入と効果の因果関係を明らかにできれば有益だろう。同じシステムを入れても、効果の出方が国によって違うといった国際比較ができれば面白いが、データを取るのが難しい。情報通信白書に掲載された情報通信技術の優位性に関する国際比較を取り上げたが、これも興味深いデータだ。日本は端末類やロボットでは優位にあるものの、ミドルウェアやアプリケーション開発が極端に弱いことが一目で判り、日本の技術をこのままにして良いのかと考えてしまう」
──そこには外部要因もあるのか。 「e-Japan戦略で、ユビキタス化のツールとなるUHF帯電子タグの法整備は何とか総務省に認めさせたが、PLC(高速電力線通信)は検討中のまま、結論が出ない。日本の意思決定プロセスを見ると審議会などに既存業界の人が並ぶケースが多く、なかなか先に進まない。そこでモタモタして国益を損なうようなら、規制当局と政策当局を分離するといった議論も出てくるのではないか?」
 | 省庁再々編の目玉に浮上 | | | | | 2001年1月の中央省庁再編から5年を経過して、再々編がクローズアップされてきた。目玉は、IT・放送通信分野の統合。今月20日に立ち上げる竹中平蔵総務大臣の私的懇談会「通信と放送の在り方に関する懇談会」でも、この問題を取り上げるという。 電子政府が進展しない理由に、縦割り行政の壁があった。前回は省庁の数減らしが焦点だったが、果たして次は利用者視点に立ったサービス重視の再編が |  | 行われるのか。電子政府がどこまで反映されるかが注目だ。 通信放送の融合を議論する懇談会に、いわゆる業界関係者が委員として参加していない点も興味深い。ある大手新聞は「業界関係者を含めて議論すべき」と社説で批判していたが、新聞社も立派な業界関係者。國領教授も指摘するように利害調整が難航して通信放送分野の技術競争に出遅れる事態は避けなければならない。 | | |