日本情報技術取引所(JIET、二上秀昭理事長)の五味久夫・常任理事が社長を務める東京京装コンピュータは、JIETの成長に伴い業績を伸ばしてきた。JIET会員の協力を得て、「大型案件」を受注できるようになったためだ。「こうした大型案件を会員同士で協力しあう中で受注することで、JIETの魅力が増す」という。五味常任理事には、会の魅力や問題点、NPO(民間非営利団体)に移行する上での課題などについて聞いた。
――JIETの立ち上げに参画したそうですが、その経緯を教えて下さい。
五味 JIET設立の頃、日本のコンピュータ業界はバブルが崩壊して、中小ソフトハウスの仕事が激減しました。受託ソフトウェア開発の派遣人員の人月単価も半減して、中小ソフトハウスの倒産が相次ぎ、“氷河期”のごとく厳しい時期でした。
そんな折、二上理事長から中小ソフトハウスを救う会を設立するということを聞きました。二上理事長の案では、大手ソフトハウスを呼び込み、中小ソフトハウスに案件を提供する。これにより、2次請け、3次請けの下請け構造が見直せ、人月単価がアップできるというものでしたが、この考えに感化され、JIET立ち上げに副理事長として参画しました。
――五味・常任理事が社長を務める東京京装コンピュータは、JIETが設立されてから急成長したと聞きました。 五味 二上理事長は当初から、会員数1000社を目標にしていました。当時は、とても無理な数と思っていましたが、現在1000社を超え、当初の目的は達成しました。大手SI企業と中小ソフトハウスの集まりですが、団結力があります。また、JIETに入ると同業者の関係が深まるというのが特徴です。
当社は、こうしたJIET会員のつながりの恩恵を受けています。JIETに入会前の当社は売上高約4億円でしたが、入会後に大きな仕事が受注でき、売り上げが右肩上がりに伸びたのです。
なぜかというと、営業で顧客先に行った際、「当社では対応できかねる分野でもJIET会員の中から対応できる会社を探し、協力して仕事を行えます」と話をして回りました。その案件をJIET会員に出すのと並行して、直接的な受注が増え、当社の売上高も約17億円にまで成長しました。
――JIET会員を上手く利用して、会員同士で利益を得る仕組みを作ったのですね。 五味 そうです。例えば、当社はかつて、オフコンのシステム構築などCOBOL系の仕事が大半で、ウェブ系のノウハウをもっていませんでした。しかし、JIET内には、ウェブ系のシステム構築のノウハウをもつ会員がたくさんいます。当社がもっていない技術をJIET内から借り、相互に利益を享受するうちに業績アップに結びつけることができたのです。
JIET会員の手を借り案件を受注するうちに、当社もウェブ系に関するノウハウを吸収し、今では当社の主力事業になっています。「東京京装コンピュータに頼めば、大概のシステム案件はこなせる」という信用を得るまでになりました。
――会員同士で、そこまで信頼関係ができるとは驚きです。 五味 理事会役員の大半は無報酬のボランティアで仕事をしています。ですから、金銭的なトラブルがなく、理事会でも運営に関して、言いたいことを言い合える環境にあります。
入会当初は「商談会」に出ることでJIET会員と関係が生まれますが、同じ中小ソフトハウスの社長同士、“ツー・カー”になり、その後は個人的なつながりが深まるのです。
――JIETの会員数は、当初目標の1000社を突破しましたが、今後の課題があるとすれば何でしょうか。 五味 これだけ短期間に急成長したので、若干心配していることがあります。通常、これだけの会をここまで大きくするには、何十年もかかります。急激な会員数の増加が会員レベルの低下に結びつくというのではなく、お互いを高めあうように作用していけば、素晴らしい会になると思います。
案件と案件を取り持つだけで、ソフト開発の技術をもたない“ブローカー”の存在があります。しかし、JIETに入会する際の審査では、この“ブローカー”を見抜くのは難しい。JIETの目的は、「ソフト開発の技術者集団」を作ることなので、入会審査の制度を見直していく必要があるのかもしれません。
――一方で、退会者を出さないために、中小ソフトハウスの会員にとって魅力のある会にする必要がありますね。 五味 そのためには、JIET会員が協力して大型案件を獲得して、JIET会員に提供することが必要でしょう。当社は、中小ソフトハウスですが、大型案件を獲得してJIET会員に案件を提供することで、大手システムインテグレータ(SIer)と肩を並べるほどになったと自負しています。
JIETの仲間がバックに付いているので、「どんな案件でもできます」と、胸を張って営業ができるのです。当社のようなソフトハウスは、JIET内にまだ少ない状況です。私は、JIETの常任理事として「奉仕」をして、その見返りにJIETの「器」を利用していますが、今後、当社のようなソフトハウスがどんどん出てくると思いますよ。
――JIETはNPO法人になりましたが、それにより個人会員を受け入れることになりますが。 五味 NPO法人になれば、多くの数の個人会員が入会してくると予想しています。技術力に優れた個人会員はいいとしても、問題のある個人の技術者が入ってくるケースがあります。こうした個人会員に会の規律を乱されないようにするために、新たな組織体系を検討する必要があるでしょうね。
一方、個人の技術者が必要なケースも多くあります。1人、2人の数で派遣することも少なくありませんし、そうした場合に役立つでしょう。
――立ち上げメンバーであり、常任理事でもありますが、改めてどんなことを心がけていますか。 五味 会員数の増大を第一に考えますが、先にも述べたように、会員の質を向上させることが重要です。
JIETに入ると良いことがいっぱいあるよ、と説いて回っています。案件がない時は「商談会」に出れば案件があり、自社で案件を多く抱えていたら、「商談会」でIT人材を獲得できます。今後は、会の活動が誤った方向に行かないよう、正しい道に導くためにアドバイスしていければと思っています。
――最後に、東京のIT景気はどのような状況ですか。 五味 東京地区の仕事量はかなり増えています。ただ、受注単価は上がっていません。仕事を発注する側の発注形態に変化が見られるようになって来ています。人月単価で計算するのではなく、一括請負の形式で、派遣しても受注金額は変わらないようにしています。
仕事を受注すると、リスクを伴う場合も少なくありません。なるべく少ない人数で仕事をしなければなりませんからね。それでも、IT投資が増えていることは間違いないようです。
【PROFILE】
1946年、東京都渋谷区生まれ。59歳。68年、日本大学文理学部応用物理学科卒。同年、兼松事務機に入社し、コンピュータ事業部に配属。71年、コンピュータ販売とプログラムを手がける日本システムスタディを設立し、社長に就任。その後、同社は他の人に譲り、81年、東京京装コンピュータを設立し、代表取締役。83年、同社社長に就任。JIET設立当初は副理事長、2003年には他の任意団体役員を兼務していたため常任理事になった。