NECグループのパソコン生産拠点であるNECパーソナルプロダクツ米沢事業場(山形県米沢市)で、このほどRFID(無線タグ)を使った生産管理システムの第2段階として「電子かんばん」の活用が始まった。これまで生産指示情報などをRFIDカードに格納し生産管理に利用してきたが、さらに一歩進めて部材の発注や納品管理にもRFIDを使うことにした。(編集委員川井直樹)
12月から電子かんばんが稼働

来年初めにはマザーボードに搭載する実験も
RFIDを使った「電子かんばん」は、部材の使用情報をリアルタイムで部材メーカーに伝達でき、次の部材納入までのタイムラグを最小限にとどめることができる。部材サプライヤーを含めたSCM(サプライチェーンマネジメント)を一段と効率化することになる。工場内に余分な部品在庫をもたないことで、棚卸資産を減少できるだけでなく、部品在庫用のストックヤードの床面積が減りスペースの有効活用が図れるようになる。
さらにリアルタイムで部材の使用状況がわかるため、部品の搬入もスピードアップされる。同事業場には、30分に1回のトラック便で各サプライヤーから部材が搬入される。これまでのバーコードを使った管理では、搬入業者がバーコードの情報を読み取り、各社に戻ってその情報を元に必要な部材をピッキングして再び搬入するため時間のロスが発生した。
「30分に1回の便があっても、次に入荷するのは早くて1時間後、通常は1時間半後の便を待たなくてはならなかった」(森下照正SCM改革推進部長)。電子かんばんを導入することで、ラインでの使用状況がサプライヤー側にも伝わり、「30分ごとに納入することも可能になる」(同)という。
■今年度は00年度比7倍の生産性向上を達成 米沢事業場はRFID導入の第1段階として、2004年9月からパソコン生産をRFIDで管理する仕組みを、国内パソコンメーカーで初めて導入した。3月に導入検討を始め、わずか6か月で実用化するというスピードの早さ。これも00年から本格的に着手したトヨタ生産方式導入に始まる生産革新の一環というわけだ。米沢事業場では、トヨタ生産方式の導入をはじめとするSCM改革により、04年度までに生産効率を00年度比6.5倍に高めることに成功した。事業場内のパソコン生産ラインも、00年下期には17メートルのラインを11人が担当していたが、現在では4.5メートルに短縮したラインを2-3人で担当するなど、工場内の風景も大きく変わった。

04年9月のRFID導入では、そのラインにRFIDリーダとモニタが設置され、生産指示の内容がモニタ上に表示されるようになった。パソコン生産ではビジネス用を中心にBTO(受注生産方式)による小ロット生産が当たり前になっている。1台ごとに異なる生産指示は、従来のバーコード方式の場合、「1日で10万回もの読み取り作業が必要」(同)だった。組み立てるパソコン1台1台にRFIDカードが添付されていることで、そのRFIDカードを作業台に置けばカードリーダが情報を読み取り、目の前のモニタに生産指示が表示される。作業者はそれを見て、オーダーされた仕様のパソコンを組み立てればよい。
さらにRFIDカードで生産状況が管理されることで、ラインごとの進捗状況も把握可能だ。モニタ画面に表示された各ラインの生産着手状況を見て、遅れているラインがあれば画面上でドラッグ&ドロップするだけで生産予定を変更できる。こうしたシステムの稼働により、05年度の生産性向上は、すでに上期の段階で00年度比7倍を確実にしている。

■トレーサビリティと環境対策の強化も狙う 米沢事業場では、生産管理から電子かんばんまでRFID活用が進んできた。これらに続いて、来年1月からはノートパソコンのマザーボードにRFIDを搭載する実験も始める。「当面はノートパソコンの1部機種に限定して」(若月新一SCM改革推進部グループマネージャー)だが、LCM(ライフサイクルマネジメント)強化のためには大きな一歩になる。マザーボードに搭載したRFIDには部品の情報などが格納される。「万が一にも不良品が発生した場合のトレーサビリティ(生産履歴の追跡)や、使用した部品の環境情報を記録したデータベースを構築する」(同)など品質確保や顧客満足度の向上、環境対策に役立つことになる。

当面は実験として、マザーボード生産過程の最終段階である、はんだリフロー工程の直前で取り外されるが、将来的には最終製品まで搭載することを念頭に置く。「RFIDがどれくらいコストダウンされるかなど外部要因もあるが、LCM強化のためにはRFID採用を拡大したい」(同)としており、パソコン製品への搭載をRFID採用の第3段階と位置づけている。