第1期生200人を日本企業に派遣
急増する韓国技術者、2年で4.5倍に
韓国で複数の工学系大学と民間教育機関が、政府の支援を得て日本語によるIT技術教育講座をスタートさせた。日本の企業にIT技術者を派遣するベンチャー企業の資本も引き受けるという。受講するには一定水準以上の日本語能力(日常会話、日本語ワープロ操作など)とITエンジニアリングの基礎知識が要求されるが、試験に合格すれば「憧れの日本」で働く権利を手に入れることができる。一方、受け入れ側の日本では、福岡、北九州、大牟田の3市に日韓共同のソフトウェア開発センターを設置する構想が進んでいるほか、人口減少で空いた公営住宅を韓国人IT技術者に格安で提供しようという計画もある。(佃 均(ジャーナリスト)●取材/文)
福岡では日韓開発センター構想も
■オフショアは中国、オンサイトは韓国という棲み分け すでに5つの大学が政府労働部(実務窓口は韓国産業人力公団)のプログラムに参加しており、来年の春には第1期生200人が卒業する。
釜山や慶州、光州、大丘など地方都市の工学部系大学も参加する意向といわれ、最終的には大学1年から基礎教育を行い、年間2000人を組み込みシステムやWebコンピューティングに対応したシステムエンジニア(SE)レベルのIT技術者に育成するという。
10月19日に発表された「コンピュータソフトウェア分野における海外取引および外国人就労等に関する実態調査」によると、2004年に同国から輸入されたベーシック・ソフトウェアは1億3400万円(03年度は実績なし)、アプリケーション・ソフトウェアは前年比約3倍の2億円、カスタム・ソフトウェアは10億6000万円だった。
また、04年に日本のIT産業が受け入れた韓国人技術者は、前年比28.0%増の451人(全体の27.7%)だった。人件費のみで比較すれば中国が有利なはずで、事実、同調査で日本企業が開発を発注した先は「中国」が332億円と圧倒的に大きい。「韓国」への発注額は14億円。受け入れた外国人技術者も「中国」が924人で最も多い。ところが、受け入れ技術者に限って2年間の増加率を見ると、「中国」が35.0%なのに対して、「韓国」は4.5倍以上と大きく伸びている。
調査に回答したのは業界大手314社なので、数字は“氷山の一角”に過ぎない。ここ数年のうちに国内に設立された韓国系ソフト会社は300社以上で、「人材派遣会社を含めると、国内で就労している韓国人IT技術者は1万人を下らない」と言われる。オフショアは中国、オンサイトは韓国という棲み分けが形成されつつあるようだ。
■就労ビザ発給条件の緩和と構造改革特区の認定が背景に なぜここにきて韓国人IT技術者の採用が増えているかというと、第1には就労ビザの発給規制緩和が背景にある。第2の要因は02年度に始まった地域再生計画に基づく構造改革特別区域指定制度だ。
玄界灘を挟んで韓国と向き合う九州北半地域が、いっせいに韓国人観光客とIT技術者の招致に動きはじめている。
例えば大分市や別府市は、もともとゴルフと温泉を目的に韓国から訪れる観光客が少なくなかった。地元住民に違和感がないこともあって、街の案内板や広告にハングルが併記されるようになった。大分市にはアジア太平洋大学(APU)があって、環東シナ海経済圏構想を打ち上げている。「日韓共同のITベンチャーも視野に入れる」と平松守彦・前大分県知事は語っている。
福岡県も負けていない。県内47市町村を結ぶ光ケーブル網を韓国・釜山まで延長し、福岡、北九州、大牟田の3市に日韓共同のソフトウェア開発センターを設置する構想を練っている。人口減少で空いた公営住宅を韓国人IT技術者に格安で提供しようというのだ。九州電力が福岡市早良区百道浜(ももちはま)に建設したソフトリサーチパークには、250人規模で韓国人IT技術者の受け入れが可能という。
■佐賀市のシステム開発案件が日本企業の認識を変えた 福岡、北九州、大牟田の3市が中心となって、韓国の通貨(ウォン)のままで買い物ができたり送金できるようにしようという案もある。
佐賀市が電子自治体システムの構築を韓国のサムソンSDS社に発注したことが、こうした動きに弾みをつけた。メインフレームを廃止してLinuxサーバーをコアとするオープン系に移行するもので、受注したサムソンSDS社は当初こそ制度や習慣の違いに戸惑ったものの、今年3月、無事にカットオーバーした。
「韓国人IT技術者=コストカッターという認識が、これをきっかけに大きく変化した」と日韓IT人材交流プロジェクトに長くかかわっているアイコンの鈴木義矩社長はいう。
「ブロードバンドや電子自治体システムなどの分野で先進性が認められていたのに加え、韓流ブームのおかげで韓国の産業構造が日本とよく似ていることが理解された」ともいう。
一方、日本の情報サービス会社の韓国進出も目立つ。テレマーケティング・センターをソウル市に開設して新規ユーザーを獲得したデータ入力サービス会社、韓国のソフト・ベンチャーとコンシューマ向けグリーティング・メールを開発したCATV会社、韓国製のオンライン・ゲームを事業化したインターネット・サービス会社などがある。
日韓の政治関係がぎくしゃくしているのと反対に、民間レベルの親密さはいっそう深まっている。一時ほどではないにしても日本における韓流熱は相変わらず高く、韓国でも「日式」が話題を集めている。韓国ITパワーの勢いが止まらない。
 | 日本はいぜん憧れの国 | | | | | 韓国で「最も行きたい外国」の第1位はアメリカ、第2位が日本。特に若い世代にとって、日本で仕事に就くことは「箔がつく」らしい。加えて大学を卒業しても就職率は40%程度と厳しい状況が続いており、韓国政府は失業対策としてIT技術者の“輸出”に力を注いでいる。 今回の政府プログラムに参加したのは、工学系5大学と民間教育機関。大学はミョンチ(明知)大学校、サンミョン(祥明)大学校、セミョン(世明)大学校、スンシル(崇實)大学校、デートク(大徳)大学の5校。民間教育機関はデジョン(大田)工学技術アカデミー(DETA)、シャロム・コンピュータ、グローバル・ピオン |  | の3社。近くヨンサンダン(龍仁松潭)大学とホセオ職業専門学校が同プログラムに参加する予定となっている。 本文にある就労ビザの発給規制緩和については、2000年度に策定された第2次出入国管理基本計画を受けて、01年、政府は高度な技術系労働者について、5年以内に5万人を目標とする就労ビザ発給条件緩和を決定した。国内労働力の減少と高齢化、国内労働市場の国際開放が狙い。対象は中国、韓国、ベトナム、フィリピン、シンガポール、ミャンマーなどアジア諸国で、当該国で一定の情報技術関連試験に合格した者に限定している。 | | |