中堅企業向けERP（統合基幹業務）市場が戦国時代に突入した。中堅企業向けは、大企業向けや中小企業向けと違って圧倒的なシェアを持つベンダーが存在しない。そこを狙って年商1000億円以上の大企業を顧客対象としていた外資系ベンダーや、年商100億円以下の中小企業向けに製品を発売していたベンダーが、これまでの概念を打ち破る製品の発売や販売チャネルの開拓などで顧客企業を増やそうと躍起だ。迎え撃つ中堅企業向けを得意としてきたベンダー各社は、参入ベンダーの増加を逆手に取って主導権を握ろうという作戦だ。

　大企業向けERP市場でトップクラスの日本オラクルは、中堅企業の顧客獲得も視野に入れて、ERP関連の新製品を近く発売する。販売パートナーが画面や帳票機能などを簡単にカスタマイズできる機能などを追加した。

　石川正明・インダストリー＆アプリケーション事業統括アプリケーションソリューション本部長は、「ユーザーインターフェースは顧客によってさまざま。顧客ニーズの多様化に対応するには、機能を販売パートナーが自由にアドオンできる方が有利」との利点をアピールする。加えて「パッケージソフトの価格は、カスタマイズ費用で5割程度を占めている。このコストを抑えれば、顧客は他社よりも安い価格でソフトを導入できる」と、低コスト化を武器に顧客を増やしていく考えだ。中堅企業向けビジネスは「今後2年間は、年率2倍の成長を達成する」と意欲を燃やす。

　大企業市場で圧倒的なシェアを誇るSAPジャパンも、低価格路線で中堅企業ビジネスの売上増を狙う。中堅向け「SAP All－in－One」を03年に発売し、「当社の製品は高いとの概念が顧客企業から払拭されつつあり、パートナー企業にとって販売しやすい環境が整った」（神戸利文・営業統括本部地域営業本部長）としており、「来年度（06年12月期）は、中堅向けビジネスの売り上げを3倍に引き上げる」と、鼻息が荒い。

　中小企業ビジネスに特化してきたベンダーが中堅企業をターゲットとする動きも出てきた。ミロク情報サービスは、ERPソフトの新製品「Galileopt（ガリレオプト）」を10月26日に発売、中堅企業向け市場に本格的に参入した。

　約1万7000社の中小企業を獲得した直販力を生かすとともに、「システムインテグレータ（SIer）とのパートナーシップも築いていく」（是枝周樹社長）方針だ。今年度（06年3月期）末までに販売パートナー専任組織を設置し、200本の販売を見込む。来年度には、「中堅ERP市場で3位以内のシェアを獲得する」と闘志を燃やす。

　また、大塚商会を筆頭にオービックビジネスコンサルタント、ピーシーエー、応研など、中小企業市場で基盤を築いてきたベンダーも一斉に中堅市場に向けた製品を投入、SI獲得合戦を展開している。

　こうした動きを、中堅企業向けでトップクラスの住商情報システムは、「参入ベンダーが増えたことで顧客の価格に対する要求は厳しくなった半面、市場が活性化して当社が攻め込めなかった企業にも導入が進むようになった」（竹村慎輔・ProActive事業部ProActive戦略ビジネス推進部長）と冷静に分析する。

　「顧客は、次のステップとして生産管理や営業情報との連携などのシステムを求めてくるはず。今後は、SCM（サプライチェーンマネジメント）やCRM（顧客情報管理）を組み合わせて提案していく」と、他社との差別化を目指す。

　販売パートナーを通じて中堅企業向けでシェアが高い富士通は、今年7月に発売した「GLOVIA－C XI」の導入社数が9月末の時点で200社に達した。今西誠・GLOVIA事業本部GLOVIA販売部長は、「新製品の導入企業は、ほぼすべてが新規顧客。価格面で他社とのコンペが厳しかったものの、当社の製品を顧客が十分に理解してくれた」と自信をみせる。

　最近は、内部統制をテーマに中堅企業が社内データの管理強化を意識し始めている。需要の眠る中堅企業向けERP市場でシェア争いが加熱しそうだ。