NECは、1992年に「NEC長野」をモデル工場として「トヨタ生産方式」を導入。94年に日本初の1人完結セル生産「ワープロ屋台」を実現し、1人あたりの生産性2倍、フロア生産性10倍を達成する成果を挙げた。00年からはNEC流のSCM(サプライチェーンマネジメント)構築としてデリバリ改革をスタート。生産革新と、NECの営業、生産、調達、物流をすべて同じルールで運用するSCMを構築した。売れ行きに合わせて作る顧客を起点にしたプル生産や全国の物流拠点を共同利用する物流改革に取り組み、数年かけて現在の形をつくり上げた。さらに、今年7月「ものづくり革新ユニット」を創設。付加価値の内部取り込みや、生産革新をベースとしたNECグループのバリューチェーン全体の強化によるグループ全体の収益力・競争力強化のための取り組みを加速させている。(田澤理恵●取材/文)

外部流出費用の削減目指す
■リードタイムを2分の1に
NECグループの生産革新実践拠点は、05年9月時点で21工場。NECロジスティクスの全国物流網によりグループ工場の生産革新の成果を物流でつないでいる。生産革新の成果は、「00年度から04年度の5年間で棚卸残高36%削減、回転日数29%削減」(片山徹・執行役員専務ものづくり革新ユニット関係担当パーソナルソリューションBU関係担当)を実現した。
00年から取り組みを開始した「デリバリ改革」は、現在は、完成度を高めるための「デリバリ改革Ⅳ」のステップに入っている。「00年の開始当初から1-2年は、営業部門と工場の間にある互いの不信感を払拭するなどのマインドを変えることから取り組んだ」(山本正彦・執行役員常務コンピュータプラットフォームBU関係担当)という。

デリバリ改革の目的は、必要な時に必要なだけ製品を提供するジャストインタイム化による顧客満足度の向上や、販売、生産、物流のトータルコスト削減などが目的。営業部門と工場が直結し、品揃え、出荷製品、搬入日、納品場所を指示し、工場・供給部門はリアルタイムの納期回答と配送便に合わせた生産・出荷を行う。製品は、全国物流網により各工場から集荷。客先の最寄の配送センターですべて揃えてから顧客に届ける。
「Expressサーバー」、「ビジネスPC」のデリバリ改革の成果は、04年度は00年に比べ、注文から納品までの期間のリードタイムを2分の1に短縮、生産棚卸が約4割改善、計画生産品は約8割減で、現在「05年度中にゼロにするための“詰めの作業”を行っている」(山本執行役員常務)という。
■「議論をやめて現場で行う」
そのほか、外部倉庫の統廃合によりフロアベースで約6割減、運行トラック台数は従来の60%に圧縮できた。また、Expressサーバーは、生産ラインの統合による能力アップや検査リードタイム短縮、物流見直しにより、従来の「5営業日BTO出荷」を1日短縮し、今年10月の受注分からは、Expressサーバー出荷量の約半分を占める東京近郊から「業界最短4営業日BTO出荷」(同)を実現している。
さらにNECは、これらの改革の成果による生産性向上により、外部に出ている付加価値の取り込み活動として、今年7月、「ものづくり革新ユニット」を創設。「売上高横ばいのなかでも利益を出すために、部品などを内製化し、外部流出費用の削減を目指す」(片山執行役員専務)ためのものづくり強化に力を入れている。「06年度にはNEC全社で400億円の付加価値取り込み」(同)を狙っている。
NECアクセステクニカの例では、ADSLモデムでは、トータルコストで中国を凌駕するコスト削減や、リードタイム短縮などの効果を挙げているという。

NECのスーパーコンピュータやサーバーなどを生産しているNECコンピュータテクノ(山梨県甲府市、那須賢治社長)の生産革新活動は、98年に始まり今年で7年目となる。デリバリ改革の開始は00年で、デリバリ改革発祥の地でもある。NECコンピュータテクノの生産革新の成果は、04年度は97年度比で「Expressサーバーの生産リードタイムが5分の1に、棚卸資産は60%減、生産性は4倍に向上」(那須社長)した。
NECコンピュータテクノでは現在、生産革新のノウハウを業務プロセスの革新にも生かすため「業務プロセス革新」への取り組みを開始した。また、「会議室での議論をやめて現場で行う」(那須社長)方針を掲げ、社長、分担役員による現場巡回・指導を行っている。生産革新、業務革新、設計革新、環境革新を経営革新として、付加価値創造の内製化に力を入れている。こららの取り組みにより、トータルコスト競争力で「中国にほぼ勝てたと自負している」(同)と、自信を示す。
■「自分で汗をかいてものを作る」
NECが開始したものづくり強化は、「家に例えると、これまで業者に頼んでいた家のリフォームを家族が自分たちやろうという考え方と同じ」(山本執行役員常務)なのだという。具体的にはプリント基板で、「以前は外注していたが、現在はほとんどを社内に取り込んだ」(同)。NECコンピュータテクノでは、生産性向上やリードタイム短縮のために、「まずは、本数の少ないケーブルから内製化を目指している」(那須社長)という。また、NECグループ内の他の事業所で廃棄予定になっていた機械を持ってきて再稼動させている。約500万円の投資に対して800万円の成果を挙げているという。
片山執行役員専務は、「水平分業がもてはやされていた時代は、ハードウェアづくりが軽視されソフトウェアにシフトしていた」と語るものの、その一方で開発したソフトのバグに悩まされるような状態だったと振り返る。そうした事態を繰り返さないために、NECは、「自分で汗をかいてものを作る」ことに立ち返ると結論づける。そして「その精神をシステムインテグレーション(SI)の分野にも広げていく」という。
NECコンピュータテクノの外部に出ていた付加価値を取り込むための部品内製化では、部品ベンダーを圧迫するのではなく、逆に相乗効果を生むことにもなった。NECの生産革新のノウハウを提供することで、「ベンダーが効率を上げて価格低減に対する力をつけ、他の仕事を得るチャンスも広がっている」(那須社長)という。
