ISVやSI向け支援策の拡充図る通信事業者
法人のデータ通信需要開拓へ
携帯電話に対応した業務アプリケーションの開発が本格化してきた。個人向けの携帯電話市場が飽和状態にあるなか、NTTドコモやKDDI(au)など通信事業者が新たなデータ通信需要の開拓を目指し、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)やシステムインテグレータ(SI)向けの支援策を拡充。業務アプリケーションやデータベースベンダーが相次いで対応製品をリリースしている。(安藤章司●取材/文)
■KDDI、パートナー制度で支援に乗り出す 本格的データベース搭載の機種も登場 法人市場におけるデータ通信需要を拡大させるためには、売れ筋の業務アプリケーションを他社に先駆け取り入れる必要がある。通信事業者各社は人気の業務アプリケーションを持つISV・SIとの関係を強化し、自社の携帯電話への対応を働きかける動きを活発化。すでに多くのユーザーが使っている業務アプリケーションを自社の携帯電話に対応させることで、これまで他社の携帯電話を使っていた法人顧客に自社の携帯電話へ乗り換えてもらい、法人市場におけるシェア拡大を図っている。
KDDIでは、2004年11月にISV・SIを対象としたパートナー制度「KDDIモバイルソリューションパートナー(KDDI-MSP)」を設立し、本格的な携帯電話対応の業務アプリケーション開発・営業支援に乗り出した。立ち上げ当初は300社程度の参加にとどまっていたが、携帯電話を使った業務アプリケーション市場の開拓を狙うISV・SIが敏感に反応し、今年8月末時点での参加社数は約700社へと急増。今年度(06年3月期)末までには1000社に達しそうな勢いで推移している。
これまで開発してきた業務アプリケーションは、KDDI-MSP設立以前からのものも含めて数十種類だが、参加企業の「開発意欲が旺盛」(清水秀樹・KDDIモバイルソリューション商品開発本部モバイルソリューション3部3グループリーダー課長)なことから、ここ1-2年の間に100種類ほどに増える可能性があるという。
SIの日本事務器(大塚孝一社長)は、KDDIの携帯電話に対応した業務アプリケーションの開発にいち早く着手した。主力のERP(統合基幹業務システム)「コアプラス」を携帯電話に対応させた「コアプラス・フォー・ブリュー」を今年7月に製品化。従来の携帯電話ではメモリ容量が小さく、データベースもなかったため、基幹業務システムの情報を携帯電話内蔵のウェブブラウザから閲覧するくらいの操作しかできなかったが、今回開発した製品は本格的なデータベースを搭載。あらかじめデータベースに最新の情報をダウンロードしておけば、電波が届かない場所でも情報を入力・閲覧することができる。
コアプラスはこれまで全国で1100社余りに納入してきた人気ERPで、携帯電話を使った今回のシステムに対する「引き合いも大きい」(郷原大作・日本事務器SI事業推進本部ERP販売推進部担当部長)ことから、年間50システムの販売を見込んでいる。
「コアプラス・フォー・ブリュー」のデータベースを開発したソア・システムズ(吉田源治郎社長)では、携帯電話用のデータベース「ル・クローンK-tai」の拡販に手応えを感じている。売れ筋の業務アプリケーションへの本格的な採用が期待できることから、今年度(06年6月期)は前年度比2倍の約4億円の売り上げを見込んでおり、携帯電話向けデータベースの「デファクトスタンダード(事実上の業界標準)を目指す」(高山正道・ソア・システムズ執行役員COO)と意気込む。
■NTTドコモは“PDAフォン”発売 業務アプリ通じた通信需要拡大に期待 NTTドコモも、積極的なISV・SI支援に取り組む。NTTドコモでは、03年に従来のISV・SI支援策を統合する形で「法人ソリューションパートナーシッププログラム」を立ち上げ、現在200数十社のビジネスパートナーが参加している。今年7月1日には、これまで同社が力を入れてきた独自のインターネット接続環境「iモード」を搭載しない携帯電話「M1000」を発売。これはPDA(携帯情報端末)に電話機能を搭載した“PDAフォン”と呼ばれるジャンルの製品で、高速通信が可能なFOMA回線や無線LAN回線などを使ってインターネットに接続する。表示画面やメモリ容量なども大きく、業務アプリケーション端末として幅広い応用が可能だ。
同社では、ハードウェアの環境を着々と整えるのに加え、業務アプリケーションやデータベースなどを開発するISV・SIとの関係強化にも力を入れている。今年5月には、日本オラクルが「シンビアンOS」に対応したデータベースを発表。シンビアンOSは、主にNTTドコモの携帯電話の一部に採用されているOSで、先の「M1000」もシンビアンOSを採用している。オラクルなどメジャーなデータベースベンダーが対応を表明することで、これまでオラクルデータベース上で業務アプリケーションを開発してきたISV・SIが、「当社の携帯電話への対応を進めてくれる可能性が高まる」(市川英彦・NTTドコモ法人営業本部プロダクトビジネス部パートナー戦略担当部長)と、データベースと密接な関連がある業務アプリケーションの引き込みを狙う。
これまでにも、携帯電話を業務処理に応用しようという試みは何度もなされてきたが、使い勝手が悪いなどの理由から本格的な普及には至っていないのが現状だった。しかし、通信事業者各社は業務アプリケーションを通じた通信需要の拡大に「これまでにない並々ならぬ意欲」(ISV幹部)を示しており、業務アプリケーションの開発支援やハードウェアの機能拡張を加速させている。
携帯電話を使った業務アプリケーション市場は、ほとんど手つかずの市場であるだけに、今後は、より実用的で使い勝手の良いアプリケーションの開発に向け、ベンダー間の競争が激化するのは必至だ。
 | 通信事業者の戦略転換 | | | | | | 従来、通信事業者は携帯電話のメモリ容量を制限するなどして、少しでも多くの通信需要を生み出そうと努めてきた。だが、パケット通信の定額制導入など、事業者間の競争が進み、携帯電話への機能制限を緩和する方向へと大きく転換した。このことが携帯電話のPDA(携帯情報端末)化を推し進め、通信を行わなくても情報の入力や閲覧が可能なデータベースを搭載できる携帯電話も増え始めた。通信事業者の回線を使わず無線LANやUSBによる通信を行う限りに |  | おいては、通信料が発生しない機種も増えている。 それでも、携帯電話の業務アプリケーション端末としての利用が増えれば、新たな契約獲得による基本料金収入や業務アプリケーションを使うことによるパケット通信の需要が生まれる。法人市場における携帯電話の利用用途の大半は音声通話。これまでパケット通信の利用が少なかったことを考えれば、「大きな増収要因になる」(通信事業者関係者)と期待を寄せている。 | | |