日本情報取引所(JIET、二上秀昭理事長)の九州本部は、全国に比べ、「商談会」での案件数が多いことで知られる。九州地区がIT人材の“集積地”であることから、東京や大阪などの大手ITベンダーがIT人材を求め案件を出すためだ。九州本部の会員は現在、福岡県が中心だが、今後沖縄県を含め九州全土から会員を募るため、各県での「商談会」開催を活発化させている。「九州は、IT業界で注目の的だ」という川崎友裕・九州本部長兼九州支部長に、会員獲得策などの現状を聞いた。
――JIETの二上秀昭理事長から直に依頼を受け、九州本部立ち上げで中心的な役割を果たされたと聞いておりますが。
川崎 ドイツ・ベルリンの壁が崩壊した1989年にCSK協力会社の研修視察で欧州に行った際、JIETの二上秀昭理事長と知り合い、意気投合しました。その後、自社の事業をする傍ら、宮崎県情報産業協会の会長を務める中で、情報サービス業界におけるIT人材育成の重要性を認識していました。
そんな折、二上理事長から「JIET九州支部(現・本部)を立ち上げたい」と要請を受け、JIETの事業内容に共感でき、素晴らしいと直感して、二つ返事で支部設立を引き受け、当社(宮崎情報処理センター、MJC)の福岡支社内に支部を置きました。
――今年7月20日には、九州本部が設立5周年を迎えました。今後の目標や支部の特徴を教えて下さい。 川崎 九州本部は九州に本社を置く地場の会員が36社、九州以外のITベンダーで九州地区に出先の事業所を置く他支部会員が75社あります。これを今年度(2006年3月期)中に九州地場会員だけで50社に増やすことを目標にしています。
九州本部の「商談会」は設立当初、2か月に1回のペースで実施していましたが、この2年間は月1回に増やしました。各「商談会」は、全国の各本部・支部に負けず劣らず、毎回多くの参加者が参加しています。
「商談会」開催の日には、記念講演会、「商談会」、「懇親会」を実施していますが、特徴的なのは、記念講演会で、ボクシングの全日本チャンピオンや飲料メーカー関係者など、ITに関係ないユニークな人材に登壇してもらっていることです。会員を増やしJIETに魅力を感じてもらうため、「楽しいひと時を過ごし、知り合い、実利を得る」という場にしたいと考えています。
――2年前からは、沖縄県でも「商談会」を開催しているそうですが。 川崎 1年に1回は、沖縄県で情報交換会を兼ねた「商談会」を実施しています。遠距離であり、なかなか沖縄県内のITベンダーが九州本部の「商談会」に参加できないので、こちらから出向いて九州本土でのITビジネスを紹介しています。
――オフショア開発で中国に進出していた大手ITベンダーが、今は九州地区に注目して開発拠点を置く例が増えているようですね。 川崎 一時は、中国にITが流出しましたが、最近、コールセンターを中心に九州地区へ拠点を構える大手ITベンダーが増えています。先日は、デルが神奈川・川崎、中国・大連に次ぐ3番目の「カスタマーセンター」を宮崎県内に設立することを決定しました。
世界の大手ITベンダーが九州地区をはじめ日本の地方へ注目し始めました。
――多くの県を抱え、地域も広大な九州地区をまとめるのは、大変ですね。 川崎 九州本部の「商談会」は、主に福岡県で開催していますが、沖縄県を含め過去に長崎県や宮崎県でも「商談会」を開きました。広大な九州地区をまとめていく上でも、各県で「商談会」を逐次実施して、九州本部を大きくしていきたいと思います。
九州本部は、JIETの他の本部・支部に比べても「商談会」の案件数が多いのが特徴です。04年8月-05年7月の1年間では、累計案件が190件、人数で1887人の応募がありました。それだけ、案件が増えている証拠で、注目度も高いので、まとまりも早いと思います。
――IT産業界が、それだけ九州地区にソフト開発を委ねる理由は何ですか。 川崎 東京でIT人材が不足して、大手ITベンダーがIT人材が豊富な福岡県でソフト開発する傾向が強まっています。当社(MJC)が福岡県に進出したのも、NTTの料金システムを受注して、同県で開発することになったためです。実際、福岡県を中心に九州地区には、いいIT人材が揃っています。
例えば、福岡県には数多くのメーカーがソフト開発の拠点を置いています。IT産業だけでなく、自動車など製造業も工場を設立し、IT人材の集積地で土地柄もいいということだと思います。
――それだけ多様な案件に応えるためのIT人材が、九州地区には十分揃っているということなのですね。 川崎 九州本部の挨拶では、「これからの勝負はIT人材を育て、新しい技術を習得すること」だと、会員に対し必ずハッパをかけています。IT人材育成にどれだけ投資できるかが、雌雄を決するのだと呼びかけています。
JIETは、経営上の仲間同士の集まりですから、会員間で情報を共有して、みんなが発展して幸せになって欲しいのです。そのために、全会員が多くの案件を呼び込み、それに応えるIT人材を養成する必要があるのです。
――トータルで見ると、九州地区は今まさに景気が上向いていると。 川崎 九州地区は、福岡県を中心に今が最も景気のいい時期です。その理由の1つに、自治体の市町村合併案件が多数あるということです。今年度(06年3月末)までの合併に伴う新規ソフト開発だけでなく、その後のメンテナンスや保守・サポートは続くので、案件は無くなりません。各市町村では、光ファイバーを各戸に引く作業を急ピッチで進めています。これを接続するIT人材も不足気味です。光ファイバーのインフラが整備されれば、次にコンテンツやソフトが必要になり、ソフト開発の仕事は無尽蔵に増えてくるでしょう。
また、九州地区では中小企業のIT投資が始まったと見ています。さらに、九州地区には、先ほど述べた通り、大手製造業の工場があり、回路設計や制御系、組込み系に関するソフト開発が増えています。
――九州本部でMJCの果たす役割が大きいようですが。 川崎 当社は総売上高の8割が、金融、通信、ガス関連を中心に民間企業の汎用機やクライアント/サーバー向けのソフト開発で占めています。最近では、社会システムに力を入れ、東京・三鷹の消防科学総合センターと共同で、国の補助を受け「土砂災害図上訓練システム」を構築しました。これらを全国規模で展開することを目標にしています。
当社は、東京、大阪、福岡、広島を中心にして営業力が強く、案件を多く受注しています。他社と差別化できる独自システムなどで案件を増やし、これらを九州支部の「商談会」で情報提供していきたいと考えています。
九州本部の会員は福岡県が中心ですが、JIETの二上理事長は将来全国で3000社を目指しています。それに応えるため、九州各県に会員を広げ、目標は300社に拡大する夢を抱いています。
【PROFILE】
1950年、宮崎県宮崎市生まれ、55歳。70年、日向学院短期大学経済学部卒。同年からアメリカに短期研修。72年、汎用機のシステム設計やプログラム作成などを手がける宮崎情報処理センター(MJC)を設立した。84年、MJCの関連会社、宮崎システムエンジニアリングを設立。94年には、宮崎県が情報化の推進及びIT企業の誘致・集積の促進を図るために自治体や民間企業で設立した宮崎県ソフトウェアセンターの副社長に就任した。宮崎県情報産業協会の会長など要職にも就いている。MJCは、2010年までに売上高100億円、従業員1000人規模にして、独立系で九州最大のIT企業を目指している。