その他
ICタグ、UHF帯活用でビジネスの兆し 受注に期待を寄せるベンダー各社
2005/05/16 15:00
週刊BCN 2005年05月16日vol.1088掲載
日本のICタグのUHF帯における活用は、欧米に比べて出遅れが懸念されていたが、4月5日と8日の官報に掲載された、総務省令と総務省告示により、950-956メガヘルツの周波数帯が初めて開放された。これから本格的な実証実験を経て、秋口ぐらいから受注につなげようと、各ベンダーは本腰を入れる姿勢を見せている。ただし、各ベンダーともにUHF帯が万能とは考えておらず、従来から取り組んできた短波の13.56メガヘルツ、マイクロ波の2.45ギガヘルツ、長波の125キロヘルツなどの周波数のICタグや、2次元コード、バーコードなどを使い分けた、最適なソリューシュンの模索がテーマとなってきている。(長浜淳之介(フリーライター)●取材/文)
日本におけるICタグに関するUHF帯開放への規制緩和要請は、米国防総省と米小売り大手のウォルマートが、915メガヘルツのUHF帯により物流管理を行うため2005年から導入を進めると発表したことに端を発する。
米国防総省の場合は、コンテナに積まれた荷物が今どこにあるかを把握して、目的地まで正しく輸送できるようにすることが、ICタグを取り付ける主たる目的であるようだ。
それに対して、ウォルマートは売り場の棚にある欠品を直ちに補充して売り逃しを防いだり、年間数兆円規模とまで言われる巨額の盗難被害の抑止にICタグの効果を期待している。
片や世界一の軍事大国の国家プロジェクトが、片や世界一の規模を持つ小売業が、UHF帯ICタグ導入を決めたのである。米国にはEPCグローバルというICタグ標準化団体があり、国際流通に最適な標準化を目指している。
米国でトレーサビリティ、SCM(サプライチェーンマネジメント)、出入荷管理、リアルタイムでの在庫管理などにUHF帯ICタグが大量に使用されるようになれば、チップの値段も下がって、世界標準となり、他の周波数帯のICタグは衰退するのではないかとの憶測が広がった。
欧州の大手小売業である英テスコや独メトロなどにも追随する動きがあったため、UHF帯に取り組んでいない日本は国際的に孤立するとまでの悲観論さえあった。
なお、ここで言う世界標準とはISOなどの取り決めを指すのではなく、圧倒的なシェア獲得によって、事実上の世界標準となっている状態を指す。
日本がUHF帯を容易に開放できなかったのは、携帯電話など移動帯通信に広く使われてきたからだ。しかし、アナログ式に振り当てられていた周波数帯など、実質的に使われていないゾーンなら開放しても別段問題ないはずだ。そこで、このたびの950-956メガヘルツの開放に至った。
米国で中心となっている915メガヘルツとは周波数がずれてはいるが、リーダー/ライターが読み取れる距離などが短縮されるくらいで、対応力は十分あるという。
■日立、愛知万博の入場券で活用、BtoC市場での広がりに期待
一方で、米国防総省やウォルマートの力任せのICタグの導入が思うように進んでいない実情が明らかになるにつれて、日本のベンダーには一種の安堵感が広がっている。それとともに、何種類かのICタグを組み合わせて最適なシステムを構築する、あるいは2次元コードや一般的なバーコードで済む部分は無理にICタグを付けることはないといった“マルチID”とも言うべき考え方が生まれている。
大日本印刷ICタグ本部の坂本昭本部長は、次のように語る。
「UHF帯のICタグでは、一般的なパッシブタイプなら5メートルくらいの範囲ならばリーダー/ライターで読める。しかし逆にあまりに多くの情報を読みすぎるのも問題。13.56メガヘルツだと、せいぜい1メートルくらいまでだろうから、情報を限定しやすいとは言えるだろう。UHF帯が万能ではない」
要はICタグは周波数によって特性が違う。例えばJR東日本(東日本旅客鉄道)の「Suica(スイカ)」のようなほとんど接触して使うICカードタイプのICタグにUHF帯を採用する意味があるのかということだ。
大日本印刷では、食肉豚のトレーサビリティシステム向けに、豚を飼育している間は耳標にICタグを活用し、食肉にしてからは2次元コードで流通させるシステムをすでに実現させている。
それに対して米国防総省では、コンテナをゲートを潜らせたりするような機械的に処理する部分ではICタグを活用し、荷物を小分けにしてハンディリーダで読んでいく段階では2次元コードを活用しようとしている。
ICタグが今後どんなに量産されても、紙に印刷したバーコードよりコストが安くなるとは考えにくい。表面が汚れたり水がかかりやすいような場合を除き、バーコードをICタグに変更する必要はなく、情報量を増やしたい時にはバーコードを2次元にすればいいのである。これまでさんざん流布されてきたICタグ=バーコード置き換え論は否定されたと言っていい。
こういったBtoBでの“マルチID”活用論とともに、今年あたり注目されるのは、一般消費者向けBtoC市場での活用である。「スイカ」はすでに昨年10月に発行枚数1000万枚を突破した。今年9月まで開催中の2005年日本国際博覧会(愛・地球博)の入場券には、日立製作所が開発した「ミューチップ」をすき込んだ入場券2000万枚超が用意され、現時点で一挙に全国規模で普及したICタグとなっている。
日立製作所が自信を深めているのは、「今までゲートで読めなかった不具合は20件から30件程度。間違って入場券を洗濯して表面の絵柄が消えてしまっていたものでもIDが特定できた」(日立製作所情報・通信グループ)という精度の高さが実証できたことである。
また、「日立グループ館」ではより進んで、ICタグを付けた腕輪を巻いて入場し、ビューポイントでそれをかざすと希少動物の説明がスクリーンから流れるなど、新しいエンタテインメントの方向性を示している。
同様なシステムは、3月に米サンノゼ市(カリフォルニア州)のテックミュージアムで採用されており、さらに広がりそうだ。「UHF帯の場合、とりあえず低出力のハンディ型リーダー/ライターを使うものについて開放しただけで、高出力ゲート型は先送りになった。ウォルマートが苦労しているように、メーカーがICタグを付けて納めるべきかとか、問題は山積み」(みずほ情報総研ビジネスイノベーション部の紀伊智顕氏)といった懸念も一方にある。
しかし、ベンダー各社からはUHF帯開放により、むしろようやくICタグビジネスのスタート台に立ったとの達成感のほうが伝わってくる。
総務省、一部周波数帯を開放
■米の軍事利用と民需が導入の端緒、日本は移動体通信での利用が足かせに日本におけるICタグに関するUHF帯開放への規制緩和要請は、米国防総省と米小売り大手のウォルマートが、915メガヘルツのUHF帯により物流管理を行うため2005年から導入を進めると発表したことに端を発する。
米国防総省の場合は、コンテナに積まれた荷物が今どこにあるかを把握して、目的地まで正しく輸送できるようにすることが、ICタグを取り付ける主たる目的であるようだ。
それに対して、ウォルマートは売り場の棚にある欠品を直ちに補充して売り逃しを防いだり、年間数兆円規模とまで言われる巨額の盗難被害の抑止にICタグの効果を期待している。
片や世界一の軍事大国の国家プロジェクトが、片や世界一の規模を持つ小売業が、UHF帯ICタグ導入を決めたのである。米国にはEPCグローバルというICタグ標準化団体があり、国際流通に最適な標準化を目指している。
米国でトレーサビリティ、SCM(サプライチェーンマネジメント)、出入荷管理、リアルタイムでの在庫管理などにUHF帯ICタグが大量に使用されるようになれば、チップの値段も下がって、世界標準となり、他の周波数帯のICタグは衰退するのではないかとの憶測が広がった。
欧州の大手小売業である英テスコや独メトロなどにも追随する動きがあったため、UHF帯に取り組んでいない日本は国際的に孤立するとまでの悲観論さえあった。
なお、ここで言う世界標準とはISOなどの取り決めを指すのではなく、圧倒的なシェア獲得によって、事実上の世界標準となっている状態を指す。
日本がUHF帯を容易に開放できなかったのは、携帯電話など移動帯通信に広く使われてきたからだ。しかし、アナログ式に振り当てられていた周波数帯など、実質的に使われていないゾーンなら開放しても別段問題ないはずだ。そこで、このたびの950-956メガヘルツの開放に至った。
米国で中心となっている915メガヘルツとは周波数がずれてはいるが、リーダー/ライターが読み取れる距離などが短縮されるくらいで、対応力は十分あるという。
■日立、愛知万博の入場券で活用、BtoC市場での広がりに期待
一方で、米国防総省やウォルマートの力任せのICタグの導入が思うように進んでいない実情が明らかになるにつれて、日本のベンダーには一種の安堵感が広がっている。それとともに、何種類かのICタグを組み合わせて最適なシステムを構築する、あるいは2次元コードや一般的なバーコードで済む部分は無理にICタグを付けることはないといった“マルチID”とも言うべき考え方が生まれている。
大日本印刷ICタグ本部の坂本昭本部長は、次のように語る。
「UHF帯のICタグでは、一般的なパッシブタイプなら5メートルくらいの範囲ならばリーダー/ライターで読める。しかし逆にあまりに多くの情報を読みすぎるのも問題。13.56メガヘルツだと、せいぜい1メートルくらいまでだろうから、情報を限定しやすいとは言えるだろう。UHF帯が万能ではない」
要はICタグは周波数によって特性が違う。例えばJR東日本(東日本旅客鉄道)の「Suica(スイカ)」のようなほとんど接触して使うICカードタイプのICタグにUHF帯を採用する意味があるのかということだ。
大日本印刷では、食肉豚のトレーサビリティシステム向けに、豚を飼育している間は耳標にICタグを活用し、食肉にしてからは2次元コードで流通させるシステムをすでに実現させている。
それに対して米国防総省では、コンテナをゲートを潜らせたりするような機械的に処理する部分ではICタグを活用し、荷物を小分けにしてハンディリーダで読んでいく段階では2次元コードを活用しようとしている。
ICタグが今後どんなに量産されても、紙に印刷したバーコードよりコストが安くなるとは考えにくい。表面が汚れたり水がかかりやすいような場合を除き、バーコードをICタグに変更する必要はなく、情報量を増やしたい時にはバーコードを2次元にすればいいのである。これまでさんざん流布されてきたICタグ=バーコード置き換え論は否定されたと言っていい。
こういったBtoBでの“マルチID”活用論とともに、今年あたり注目されるのは、一般消費者向けBtoC市場での活用である。「スイカ」はすでに昨年10月に発行枚数1000万枚を突破した。今年9月まで開催中の2005年日本国際博覧会(愛・地球博)の入場券には、日立製作所が開発した「ミューチップ」をすき込んだ入場券2000万枚超が用意され、現時点で一挙に全国規模で普及したICタグとなっている。
日立製作所が自信を深めているのは、「今までゲートで読めなかった不具合は20件から30件程度。間違って入場券を洗濯して表面の絵柄が消えてしまっていたものでもIDが特定できた」(日立製作所情報・通信グループ)という精度の高さが実証できたことである。
また、「日立グループ館」ではより進んで、ICタグを付けた腕輪を巻いて入場し、ビューポイントでそれをかざすと希少動物の説明がスクリーンから流れるなど、新しいエンタテインメントの方向性を示している。
同様なシステムは、3月に米サンノゼ市(カリフォルニア州)のテックミュージアムで採用されており、さらに広がりそうだ。「UHF帯の場合、とりあえず低出力のハンディ型リーダー/ライターを使うものについて開放しただけで、高出力ゲート型は先送りになった。ウォルマートが苦労しているように、メーカーがICタグを付けて納めるべきかとか、問題は山積み」(みずほ情報総研ビジネスイノベーション部の紀伊智顕氏)といった懸念も一方にある。
しかし、ベンダー各社からはUHF帯開放により、むしろようやくICタグビジネスのスタート台に立ったとの達成感のほうが伝わってくる。
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日本のICタグのUHF帯における活用は、欧米に比べて出遅れが懸念されていたが、4月5日と8日の官報に掲載された、総務省令と総務省告示により、950-956メガヘルツの周波数帯が初めて開放された。これから本格的な実証実験を経て、秋口ぐらいから受注につなげようと、各ベンダーは本腰を入れる姿勢を見せている。ただし、各ベンダーともにUHF帯が万能とは考えておらず、従来から取り組んできた短波の13.56メガヘルツ、マイクロ波の2.45ギガヘルツ、長波の125キロヘルツなどの周波数のICタグや、2次元コード、バーコードなどを使い分けた、最適なソリューシュンの模索がテーマとなってきている。(長浜淳之介(フリーライター)●取材/文)
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