トラブル回避を最優先に

　時限立法である「合併特例法」の期限が3月31日で切れる。総務省は、1999年3月31日時点で3232団体あった市町村が、期限切れの05年3月末の段階で710団体減少し2522になると見込んでいる。新市の名称が決まらずに合併協議が流れた広島県「江田島市」や愛知県「南セントレア市」、県をまたいだ合併を実現した岐阜県中津川市など話題も多く振りまいた。

　折りしもe─Japan戦略とも重なり、この〝平成の大合併〟で情報システム統合と電子自治体の構築が同時に進むと見られ、本紙BCNでも注目してきた。しかし実際に、取材の現場に立ってみると「合併は合併」、「電子自治体は電子自治体」と切り分けられていたようだ。合併する市町村の情報システム担当者のほとんどが、「まずは合併でのシステム統合をスムーズにすることが最優先。新しい仕組みはそれから」と主張していた。これを機に新システムに移行するというケースは稀であり、多くが旧来のホストをベースに新市のシステムを構築した。

　対等合併を経験したある担当者は、「自治体の大きさによるのではなく、良いものを取り入れる。遠慮するところを自覚せずに、使い慣れたシステム導入を図ろうと欲を出せばシステム統合なんかできない」。これに対して、大きな市を中心にした吸収合併を進めてきた市職員は、「人口の多い市に合わせるのが最も早い」と、住民コードの割り振りや申請書のスタイルなども強引に吸収側に合わせてシステム統合を導いてきた。

　立場は違うものの、こうした意見に共通しているのは、「だらだらとした合併協議を待っていてもシステム統合は進まない」、「誰かがリーダーシップを発揮しなければトラブルを起こす」ということだ。現に、合併を抱えた自治体の情報システム担当者の中には、「合併協議会の他の部会の進捗に関わらず、電算部会は合併までのスケジュールを作った」というところもあるほど。首長選挙や議員の定数、予算の配分、支所の設置など利害得失に絡んだテーマなど、情報システム統合にはない。あるのは合併当日に、住民票が発行できないといったシステムトラブルを起こさないこと、この1点だけだ。

　総務省自治行政局地域情報政策室では、「合併のシステム統合でトラブルがあれば、当然ニュースにもなるだろう。これまでのところ総務省にもそういう情報は来ていない」という。自治体担当者やベンダー、システムインテグレータの必死の作業でトラブルが回避されているようだ。

　3月21日、新潟県新潟市は周辺12市町村と合併する。政令指定都市を目指す新潟市はそれまでの53万人（外国人登録を含む）から一気に78万人へと約50％も人口が増える。合併のためのシステム統合は、基本的にはそれまで新潟市の使用していたホストを利用。そこに新たに25万人分の情報を入れた。当然、記憶装置の容量アップなどのモディファイは必要だった。

　昨年4月からシステム統合の作業を開始し、今年2月には一応のデータ統合を完了。2月の連休を利用して〝仮統合〟したシステムのテストに入った。新潟市の情報政策課の担当者たちは、2月の連休以降「休みや深夜を使ってテストするため、休日出勤や深夜までの作業が続いた」とさすがに疲労を隠せない様子。3月21日の合併当日は「春分の日」で休みだが、もちろんその連休も最終的なテストとチューニングに追われる。今年10月10日の予定で、もう1町と合併する予定になっており、システム統合の作業は、負担は減るものの終わるわけではない。(川井直樹（本紙副編集長）●取材／文)