1996年4月に「日本情報技術提携振興会」として発足し、98年に現在の名称に変更した日本情報技術取引所(JIET、二上秀昭理事長)は、設立9年で会員企業が1000社を突破した。当初の会員数は約92社。JIETが短期間で急拡大した大きな理由とは、システム構築の案件を公の場で応募する現在の「商談会」形式が、大手ITベンダーと中小ITベンダーが直接的に取り引きする場として重宝されたためだ。井上守・副理事長は、JIET設立に最初から関わってきた1人だが、裏話も交えて、現在の商談が生まれるまでを聞いた。
大手と中小の直取引を実現
■階層構造の短縮目指す ――井上さんは、JIET設立に最初から関わってこられたのですね。
井上 二上さん(二上秀昭・理事長)に相談を受けまして、言いたいことを言ってきました。
設立前には、2つの考え方がありました。1つは、大手に対抗する団体を作るという考え方と、1つは大手も巻き込んだ団体でないとだめだという考え方です。私は、インテックという大手ベンダーを背景にしていますから、大手に対抗する団体なら協力できないよと強く主張してきました。
ご承知の通り、受託ソフトウェア開発業界というのは、複雑な構造をしています。発注者側は、安心できるところということで、大手SIベンダーに仕事を出します。仮にA社としますが、A社は仕事が手一杯なら、実際の開発作業はB社に委託、B社も状況次第でC社に回しということが続き、最終的に開発作業を行うのはE社ということもあるわけです。途中、当然手数料が発生しますので、E社の開発料金はかなり安くなっている。
この階層構造をなんとか是正できないか、という点は二上さんの考えと一致していたものですから、それに向けていろいろな議論をしてきました。
設立時には92社が参加、大手ベンダーは無料招待という形を取りました。大手が案件を公開、それに正会員が応募するという原型はスタート時からです。
――A社からB、C、D、Eへと流れていくのではなく、A社の案件を公開することで、BからEまで横並びで応募することで、階層構造を短縮しようという発想ですね。 井上 そうです。それがうまく機能しているかどうかは議論のあるところですが、少なくともJIETの理念はそこにあります。
■大手ベンダーがまず反応 ――発足後の反応はいかがだったのですか。 井上 発足当時は、国内がバブル景気で上向いた頃です。ソフト開発の人材不足が表面化、これに危機感を持った大手ベンダーが、JIETに案件をどんどん持ち込むようになりました。大手ベンターもJIETの利用価値に気がついたわけで、JIETには大きな追い風になりましたね。
それで、当初は無料だった大手ベンダーからも会費をもらおうということで「特別会員制度」を設けました。
また、大手ベンダーが増えますと、大手の発言力が高まりますから、私が提案して、特別会員から理事会に出せる人数は全理事の30%以下に押さえようというルールを作りました。
――運営の問題に入りますが、システム構築の案件を商談会で公募した後、どの会社の誰を採用するかは、すべて案件提供者が決め、JIETが介在することはないのですか。 井上 商談の詳細内容に関しては、一切JIETが関与することはありません。
――会員は順調に増え続けていますね。 井上 紆余曲折はありますが、設立から会員は順調に増え続けています。
JIETの仕組みというのは、人材不足のときにも効果を発揮しますし、逆に景気が後退しIT人材が余った時には、案件を獲得するため大手ITベンダーとの接点を探そうと、中小ITベンダーの会員数が増えるという傾向があります。
それに会員が自由闊達にものをいえる、というのも大きいと思います。理事会をのぞかれるとびっくりすると思いますが、みんな言いたいことを言ってます。
――失敗はなかったのですか。 井上 私の発案で「人材商談会」を企画したことがあるんですが、これは失敗しました。仕事の案件だけでなく、人材も公募制にしたらどうかと思ったんですが、良い人材を出してくれない。
――JIETに加盟すると、具体的にどんなメリットがあるのか、総括してください。 井上 大手ベンダーにとっては、自社が抱えるシステム構築などに関する案件や、その案件別に欲しいIT人材の情報を商談会などで、加盟1000社強に一斉に情報発信できることです。最適の相手を選ぶことができます。
一方、中小ITベンダーの正会員にとっては、案件獲得のチャンスがあり、また、容易に会うことができない大手ITベンダーの担当者と名刺交換できるというのも大きなメリットでしょう。
■「地方」を活用しよう ――ところで、ソフト開発業界では人件費の安い中国やインドでの開発が大きなテーマになっていますが、受託系ではどんな反応なんですか。 井上 確かにオフショア開発は、一時流行しましたが、現在はメリット、デメリットが見えてきたところだと思います。OSに近く、仕様がきっちり固められる分野では、人件費が安いというメリットが出るのですが、アプリケーション寄りになればなるほど、そのメリットは出せません。アプリケーション寄りというのは、日本の商習慣などを反映させていかねばならないのですが、海外の人たちにこれを理解してもらうのは大変なんです。結局、手直し、手直しで、国内で開発するより高くなってしまうケースが多いということが分かってきたところです。
いま、JIETでは全国展開を考えていますが、受託系では、海外より日本の地方の活力を生かした方が、質、コスト両面でメリットを出せると思います。「地方の時代」を強く訴えていきます。
【PROFILE】
1941年新潟県中条町生まれ。中央大学商学部会計学専攻卒。1965年、弘電社に入社。70年、インテックへ移籍し、同社新潟センター所長。94年、インテック取締役、SI事業本部長・企画本部長。同年、インテック子会社のインテック技研設立に参画したほか、マイクロボード、ヒューマ、ニュービジネスデベロップメントで社長を歴任。現在、アドソロニッシンの顧問で、JEITには同社代表として関与。00年、個人のIT技術者を支援するIT技術者サービスセンターを設立し理事長に就任。03年、個人のIT技術者に事務所を提供するコラボオフィス東京を開設して代表に就任。04年には、民間非営利活動(NPO)法人のIT産業サービス機構を設立、理事長に就任している。現在は、経済産業省の「情報サービス産業の委託取引等に関する研究委員会」委員でもある。