各社、情報漏えい対策を模索
注目集めるブレードPCとリッチクライアント
クライアント・サーバー(C/S)型システムの見直しが加速している。クライアントからの相次ぐ情報漏えいに、C/Sシステムの構造的な欠陥を指摘する声が出ている。企業がセキュリティ対策を強化するなかで、システムベンダー各社はこの「クライアント問題」を解決する新しい方策の確立を急いでいる。(安藤章司●取材/文)
■「強固なセキュリティ確保は困難」情報管理は集中化の方向へ 顧客企業の間で、クライアント問題が真剣に論じられる機運が高まってきたのを受けて、コンピュータ業界はクライアント問題を抜本的に解決するソリューションの開発に躍起になっている。
有力だと考えられるのは、クライアントにデータを蓄積させずに、クライアントの良好な操作性を堅持した「リッチクライアント」と、クライアントから物理的にハードディスクやメモリを取り除いた「シンクライアント」の2つ。前者はソフトウェア的なアプローチであるのに対して、後者はハードウェア的なアプローチだ。
リッチクライアント開発大手のアクシスソフトは、「顧客企業からの引き合いが急増しており、ビジネス拡大の追い風になっている」(山形浩一・リッチクライアントエバンジェリスト)と、手応えを感じる。シンクライアント的なアプローチとは異なり、ハードウェアへの依存度が低いオープンな側面も、ハード依存を嫌う顧客企業から指示を得やすい要因になっている。
アクシスソフトのリッチクライアント開発は、情報漏えい対策のためだけに出発したのではなく、もともとはコスト削減や生産性の向上に重点を置いたものだ。だが、このリッチクライアントがセキュリティ対策にも有効な手段だと明らかになるのに伴い、ビジネスの幅が急速に広がりつつあるという。
ASP方式で業務アプリケーションの配信を手がけるソフトベンダー、きっとエイエスピーは、「現行のC/Sシステムでは、強固なセキュリティを確保するのは困難。当社のASPサービスがますます注目を集めるのは間違いない」(奥野克仁マネージャー)と、脱C/Sシステムへ市場が動くことが、ビジネスにとって大きくプラスになると予測する。
一方、ハードウェアベンダーを中心に、シンクライアント化を推進する動きも活発化している。
国内で先陣を切ったのは、米クリアキューブテクノロジーのブレードPC。すでに日本アイ・ビー・エム(日本IBM)やシステムインテグレータの日立システムアンドサービス、インフォコムなどが販売を始めている。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)も今年6月までをめどに、独自に開発したブレードPCの国内販売を始める。
ブレードPCとは、サーバーを小型化できるブレードサーバーの技術を応用したクライアントシステム。基本ソフト(OS)や業務アプリケーションをブレードサーバーの中に格納し、クライアントには操作画面だけ表示させる仕組みにすることで、保守運用や情報管理を集中化する。分散型のC/Sシステムに対して、集中型であるのが最大の特徴。セキュリティ対策とコスト削減を両立できると期待が高まっている。
日本HPでは、「クライアントのハードディスクに重要なデータを蓄積させるべきでないという考え方は、もう常識になっている」(窪田大介・常務執行役員ソリューションパートナー営業統括本部統括本部長)と、ブレードPCを軸にクライアント問題の解決を狙う。
■「クライアントは存続する」の声も データの暗号化や指紋認証で対応 しかし、企業活動の隅々にまで普及したC/Sシステムからは、現実問題として、そう簡単に脱却できないとの指摘もある。富士通の伊東千秋・取締役専務は、「クライアント問題の解消に向けて、ビジネスチャンスが拡大しているものの、一筋縄ではいかない」との認識を示す。
机の上にクライアントを固定して定型業務だけに専念する仕事の形態なら、リッチクライアントやブレードPCなどが有効な解決策になり得る。しかし、非定型業務に従事するホワイトカラーで、なおかつノートパソコンを日常的に持ち歩く場合は、ある程度のデータはハードディスク内に蓄積しておかないと不都合なことが多い。
富士通では、「リッチクライアントやシンクライアントなど、顧客の要望に合わせて柔軟に対応していく」(同)としつつも、従来型のクライアントそのものも否定しない。ハードディスク内のデータを暗号化する技術や、指紋や静脈などの生体認証技術を駆使することで、現行のクライアントも存続し続けると予測する。
リッチクライアントやシンクライアントの考え方そのものは、ここにきて急に出てきたコンセプトではない。だが、これまで広く普及するまでには至ってなかった。C/Sシステムは安価で便利なだけに、実際の作業に従事するエンドユーザーからの根強い支持を取り付けていることも、急激な普及を見せなかった背景にある。
だが、情報漏えいが社会問題化している以上、エンドユーザーの利便性の追求だけでは立ち行かなくなるのは目に見えている。構造的な限界に直面した現状のC/Sシステムの状態から脱却し、よりセキュア(安全)で、より経済的なクライアント環境の実現が強く求められている。
 | クライアント問題 | | | | | クライアント・サーバー(C/S)型システムは、複数のクライアントで分散処理を実現する一方で、サーバーを介した情報共有や共同作業が容易で、しかも従来のメインフレームなどの集中処理型のシステムに比べコストが安いなど、優れた特徴を持つ。だが、分散処理を行うために、クライアントからの情報漏えいが後を絶たず、社会問題になっている。 4月1日からは、企業への罰則も含めた個人情報保護法が全面施行されるのを受けて、企業はこの“クライアント問題”を解決しようと躍起になっている。 |  | C/Sシステムは、クライアントによる分散処理を基本とするだけに、「C/Sシステムの設計当初は想定していなかった構造的な問題」(大手システムベンダー幹部)に直面していると言える。 クライアント問題は、情報漏えいだけではない。大企業になればクライアントが数千台、数万台単位で設置されていることも多く、これらクライアントのソフトウェアの更新や改修に多大なコストがかかる。わずか10万円前後のパソコンの購入費に対して、こうした作業にかかるコストは何倍もに達しているという試算もある。 | | |