鹿児島県では、有力流通チェーンが相次いで進出するなか、消費生活協同組合(生協)の競争優位性を高める取り組みが盛んだ。鹿児島県を拠点とする生協のコープかごしま(坂元義範理事長)は、基幹業務システムの刷新やインターネットの活用で事業運営の効率化に努めている。(安藤章司●取材/文)
生鮮食料品の販売ロスを低減
■財務会計システムを刷新 鹿児島県は九州南端ということもあって、これまで流通小売市場としてはそれほど競争が激しい地域ではなかった。だが、ここへきて九州・中国地区の大手スーパーや全国大手流通チェーンが鹿児島進出を検討するなど、大競争時代へ突入する気配を見せている。
組合員のために存在する生協も、「流通小売業という業態でみれば、普通のスーパーと同じ競争原理のなかに組み込まれている」(生協関係者)と、市場競争力の向上が生き残りに不可欠と指摘する。こうしたなか、鹿児島県を中心に17店舗を展開するコープかごしまでは、ITを駆使した競争力向上に力を入れている。
まず取り組んだのは財務会計システムの刷新だ。これまでは牛乳や豆腐、鮮魚など生鮮食料品を中心に消費期限が近づくことによる値引きや、消費期限切れによる廃棄などのロス率が平均10%ほどあった。従来の古い財務会計システムでは、事業所ごとの粗利管理しかできず、きめ細かい損益の管理ができなかったたため、責任の所在を明確化できなかった。
これを改善するため、日本生活協同組合連合会(小倉修悟会長)系のシステムインテグレータ、シーエックスインフォネット(金子隆一社長)に発注し、部門ごとの細かな損益を明確化できる最新の財務会計パッケージを2001年10月に稼働させた。まずは、部門ごとの責任の所在を明確にし、各店舗で同じ商品を扱う部門を同列に比較し、利益があがっている部門とそうでない部門を可視化した。
ロス率の圧縮が課題となっていた生鮮食料品部門では、「農産物なら農産物、水産物なら水産物と各店舗ごとに3-4人のグループで損益が分かるようにして、どうしたらロス率が下がるのか徹底的に考えた」(コープかごしまの中間良之・常務理事店舗事業本部統括)と、ロス率低下に向けた取り組みを本格化。財務会計システムから弾き出された数字を叩き台に、消費期限が迫ることによる値引きのロス、消費期限切れによる廃棄のロス、販売機会のロスの3つのロスの撲滅に力を入れた。
こうした経営効率の向上に力を入れた結果、今年度(05年3月期)の全17店舗の経常利益に相当する経常剰余は、昨年度比2倍の約2億円に増える見込みだ。全17店舗の売上高に相当する事業高はほぼ横ばいの約180億円の見通し。「競争が激化していくなかで事業高を伸ばすのは容易ではない」(同)と、事業高を増やすだけでなく、剰余率の拡大で組合員への利益還元を図る。
コープかごしまでは、昨年10月に財務会計パッケージと連動してさらに詳しい経営分析ができる戦略経営支援システムを本格稼働させた。商品別、地域別の分析などの管理会計の大幅な強化を通じて、より一層の無駄の排除を進めていく方針だ。
■ネット経由で共同購入 一方、生協がスーパーなどとの重要な差別化策と位置づけているのが共同購入や個別配達など組合員の注文に応じて商品を届ける仕組みである。コープかごしまでは、全17店舗の事業高約180億円とは別に、共同購入や個別配達などの無店舗事業の売上高は約110億円程度ある。
店舗事業が商圏というある程度まとまった“面”で攻めるのに対して、無店舗事業では共同購入に参加する数人のグループや個人宅への配達をするため、限りなく“点”で攻めていくという事業特性の大きな違いがある。利用者から見れば、米や醤油、酒など持ち運びに苦労する商品を共同購入で届けてもらうことで、買い物の負担が大幅に減る。ここにITを導入することで、無店舗事業をより活性化させる戦略を練っている。
日本生活協同組合連合会に加盟している生協の事業高は昨年度(04年3月期)約2兆9000億円。このうち食料品の販売など物販事業は約9割を占める。物販事業の約半分は共同購入や個別配達などの無店舗事業が占める。この無店舗事業のうち3-4%程度がインターネット経由での注文に移行しているという。
全国の生協の情報システムを多く受注するシーエックスインフォネットの鈴木光俊・ASP事業部営業部部長は、「インターネットを活用する比率は急速に増えつつある」という現状を踏まえて、今後インターネット経由で購入できる「品揃えの拡充」に力を入れていく方針だ。
■携帯電話に情報発信も これに対して、コープかごしまでは、「インターネットの利用は増えているものの、大都市部のような急速な移行は現時点では考えにくい」(中間常務理事)と分析する。利用者の高齢化が大都市圏よりも進んでおり、インターネットの普及も比較的緩慢であることが背景にある。このため、パソコンを使った情報発信に加えて、携帯電話の活用に力を入れている。
03年10月、購読を希望する組合員向けに、携帯電話用メールマガジン「コープかごしまメールマガジン」を創刊。新商品や生産者やメーカーとの交流会の案内、台風シーズン時の配送時間変更など、きめ細かな情報を伝えている。閲読率は組合員全体のまだ数%程度だが、認知度は徐々に高まってきており「期待できるるITメディア」(中間常務理事)という。今後は、組合員だけでなく、地元の生産者とITやインターネットを駆使したネットワーク作りを視野に入れていく方針。
中間常務理事は、「全世界から商材を調達して、どこの店でも同じ味を提供するのがファストフードだとすれば、生協は地産地消を重視したスローフード」と、生協ならではのITの活用方法をさらに追求していきたいと話す。