もはや一般の生活インフラといってよいインターネット。だが、それ故に犯罪をはじめとするさまざまな問題は途切れることがない。米国では法的規制が他のインフラ同様に強化されつつあるが、あまりに多くの規制はかえってIT業界の発展を遅らせかねないという危惧もある。2005年以降、米国で実施が予想される各種規制のゆくえに注目が集まっている。

　2005年を迎えて、米国でのIT分野への規制はますます強くなりそうである。昨年11月の大統領選挙で共和党のブッシュ大統領が再選を果たしたことから、法案の制定やその方針などに大きな変更はないものとなり、選挙直前までは一時凍結されていた各種の動きが年明け早々活発になることが予想されている。

　まず最初に動きを見せると考えられているのは、インターネット課税の実施凍結だ。これはISP（インターネットサービスプロバイダ）が顧客から徴収する接続料金に対し、それぞれの地方自治体が独自に課税することを禁止するものである。ケーブルテレビ回線を利用したブロードバンドサービスや、IP電話などの普及により電話料金などに付随する税収が減り、ところによっては死活問題にまでなっている自治体もあるという。しかし既にネット課税禁止法案は議会を通過し、既成事実となりつつある。

　次に大きな動きを見せる可能性が高いのは、フィッシング詐欺をはじめとする、インターネット犯罪に関しての各種条例だろう。既に具体的な罰金を科すことを実施している自治体も少しずつ現れてきてはいるが、蔓延するインターネット犯罪に対しては常に後追いで、対処療法的な効果しかもたない。従って、今後はより厳しい罰則や場合によっては禁固刑などまで明文化した法案を制定することにより、今種の犯罪の抑制を押し進めるとともに、犯罪そのものが制限されるよう予防策に関しての法案も順次制定される見込みだ。既に米国では電話によるダイレクトセールスや、詐欺まがいの行為には各種の法的制限がある。インターネットを利用した犯罪についても、同様に厳しい措置が取られることだろう。

　米IT産業全体で見ても、各種の法的制限はますます厳しいものとなっている。米国では独占禁止法を楯に取っての買収拒否などは珍しくない。オラクルのピープルソフト買収に見られるように、最終的な判断を司法の手に委ねることも多い。大手IT企業同士の吸収合併が増えるにつれ、それぞれに各種の法的制限が付いてまわることになり、思わぬところが問題となってしまうケースは増えていくことだろう。昨年末にはIBMがパソコン事業を中国のレノボグループに売却したことは大きな話題となったが、正式発表前の新聞社によるスクープは、関係者によるリークであることが公然の秘密。その意図は事業売却からジョイント・ベンチャー企業設立への一連の動きのなかで、インサイダー取引をはじめとする各種の法的トラブルから関係者を守るためではないかなどという噂まで出た。

　また、政府の規制を逆手に取り、アルバイトをしようとする輩まで出てきた。現在いくつかの州ではスパムメールが規制されており、これを犯すと罰金が科せられる。その罰金をスパムメールを受け取った本人が受け取ることができるようにする方法があることがネット上で公開され、即座に実行に移すものが現れた。このケースでは、スパムメールが来れば来るほど自身の収入となる。そのため、あえて自分宛に多くのスパムメールが届くようにメールアドレスを工夫する若者も現れてきたという。

　しかしいずれの法的規制も現実的には全ての問題を抑制できるものではない。ましてや大手企業同士の提携ともなれば、意図しないことが犯罪と見なされてしまうことも多い。もちろん消費者の利益確保や保護は必要であり、何らかの制限は必要と見なされてはいるが、現在のシステムを利用している限りは、有効な対策は不可能という声も多い。ましてや確信犯による意図的な犯行への対策が後手に回るのは致し方ないだろう。

　今や巨大市場となった米IT産業界と、そもそも誰のものでもないインターネットの治安維持には、まだまだ困難が続くと見られている。今年も米IT界は激動の年となるのは避けられないようだ。（田中秀憲）