携帯電話やネット家電もコンピュータウイルスに侵されるのか──。インターネット対応の携帯電話やネット家電の登場で、これら情報機器へのウイルス対策に関心が高まっている。現時点では、携帯電話やネット家電でウイルス被害の報告はない。だが、「今後の機能拡張に伴い、ウイルス感染、不正アクセスの可能性もあり得る」と、ウイルス対策に向け動き始めるベンダーも出てきた。ユビキタスネットワークの進展で利便性が向上する一方で、ネット対応の情報機器にはウイルス対策を中心としたセキュリティの確保も求められてきそうだ。(木村剛士●取材/文)
今後の機能拡張で感染の可能性も
■NTTドコモ、ウイルス対策サービス開始へ、米ソフトベンダーと共同開発 「転ばぬ先の杖」とは、NTTドコモの渡邉信之・移動機開発部アプリケーション開発担当担当部長。NTTドコモでは、セキュリティベンダーの米ネットワークアソシエイツ(NA)と、携帯電話向けのウイルス対策ソフトを約2年前から共同開発してきた経緯がある。
携帯電話を狙ったウイルス被害は、現時点では発生の報告はない。だが、今後端末の機能拡充で、大容量メールや音楽などのコンテンツを利用する際に、感染する可能性もあると判断。将来の危機に備えて早めに手を打った。
早ければ今秋に販売開始予定のFOMA(フォーマ)新機種「901i」で、ウイルス対策サービスを開始する。渡邉担当部長は、「サービスメニューや具体的な提供形態、有償か無償かも合わせて、現在詳細を詰めている段階」としているものの、他社に先駆けセキュリティ対策を強化しようという積極姿勢と、携帯電話を狙ったウイルスへの警戒感を同時に印象付けた。これに対し、NTTドコモ以外のKDDI、ボーダフォンでも「検討中」と対応を急ぐ。
渡邉担当部長は、「パソコンよりも普及し、社会インフラとなった携帯電話がウイルスに侵されれば、パソコン以上に大きな被害が出る。住所や電話番号など、個人情報を大量に登録しているユーザーも多いので、個人情報漏えいにもつながる。これまで、機能を徹底的に制限してセキュリティ対策を優先していた部分があった。だが、機能拡張や多機能化を求めるユーザーの要望次第で、端末の仕様を公開する場面も多くなるなど、ウイルス感染を引き起こす可能性が高まることは否定できない」と話す。
感染の可能性としては、たとえば現在の携帯電話のEメール機能では小容量の画像ファイルや音楽ファイルしか添付できないが、メモリ容量拡大などの機能拡張により、大容量ファイルの送受信ができるようになれば、不正プログラムが組み込まれ送信され、感染することが考えられる。また、ユーザーがキャリア(通信事業者)の想定してないソフトをダウンロードした際に、携帯電話に不審な動きが発生する危険性も出てくる。
NTTドコモとNAが開発したソフトは、パソコンに導入するセキュリティソフトの機能とほぼ変わらず、不審な動作や通信障害などを引き起こす可能性のあるプログラムを自動的に検知し駆除する。ただ、「携帯電話はパソコンと違ってメモリが少なく、またプロセッサの処理性能も低いために、ソフト自体の容量をかなり小さくする必要があった」(NTTドコモの浦川康孝・移動機開発部アプリケーション開発担当担当課長)と開発には相当、苦労もあったようだ。
■ネット家電のウイルス感染は可能性低い?ベンダーの取り組みはこれから  | | メール感染の危険性はある | | |  | ──パソコンをターゲットとしたウイルスが頻繁に発生するようになった理由は。 岡本 感染経路の多様化が大きい。以前はメディアからの感染ぐらいしか方法がなかったが、通信環境の発展によってウイルスを届ける手段が多様化したことが、ウイルスが頻繁に発生するようになった最大の要因だ。 ──携帯電話やネット家電でのウイルスの可能性は。 岡本 パソコンやサーバーで広く用いられるウィンドウズなどの汎用OSではないため、パソコンのように他の端末にも自動感染していき、被害を拡大するようなウイルスを作成することは難しい。ただ、メールで不正プログラムを送信して、不審な動作をその端末のみで動かすことは可能であり、危険性はある。 ──パソコン以外の情報機器を狙ったウイルスはこれまであったのか。 岡本 組み込み用ウィンドウズを採用したPOS(販売時点情報管理)機器への感染があった。 ──今後の危険性は。 岡本 ウイルスは作り手が存在して初めて蔓延するものであり、何ともいえないが、機能拡張のための汎用OSの採用、JavaアプリケーションやActive Xの搭載がさらに進めば、今よりもウイルスに感染する機会が増えることは確かだ。 | |
一方、今後急速に普及するとみられるネット家電は大丈夫なのか。Eメールを介したウイルス受信の可能性はないものの、ハードディスクレコーダやテレビがインターネットに接続できるようになり、外出先からテレビ番組を録画したり、テレビでウェブサイトを閲覧することが可能であれば、録画情報の改ざんなどの危険性もありそうだ。
しかし、東芝でハイブリッドレコーダの商品企画を担当する片岡秀夫・デジタルメディアネットワーク社デジタルAV事業部DAV商品企画部参事は、ネット家電のウイルス被害の可能性について、こう説明する。
「ハイブリッドレコーダのような組み込み機器のOSについては、独自OSを使っているため、ウイルスを作成することは難しい。番組録画などでのアクセスに関しても、当社のハードディスクレコーダでいえば、アクセスするための設定は家庭内ネットワークの入り口にあたるルータ側の問題となる」と、不正アクセスの可能性を否定する。
ただ、日本ネットワークアソシエイツ(NAC)の田中辰夫・執行役員コンシューマー営業統括本部長は、「今後クラッカーがどんな仕掛けをしてくるか分からない。家電メーカーは『何か起きてからでは遅い』と、セキュリティ対策を最重要課題に位置付けている。今は表面化していないが、ビジネスチャンスはあると捉えている」と話す。
携帯電話やネット家電のウイルス、不正アクセス対策は、現時点で被害が出ていないだけに、ベンダー側の対策もまちまちの状況。だが、パソコンやサーバーではこれまで多大な被害を出してきただけに、“万が一の危険性”に不安を抱いているのも事実だろう。“未知の脅威”に対するベンダー側の取り組みも、次第に表面化してくるかもしれない。