マイクロソフト対抗をあらわに

　「ウィンドウズ市場でシェア60％を狙う」──。日本オラクルの新宅正明社長は、データベース（DB）の新製品「オラクル・データベース10ｇ（10ｇ）」の4月発売に向け、自身満々にこう宣言した。マイクロソフトへの対抗心をあらわにするのは、同社のいつものスタイル。新製品の投入とあって、いつもより勢いを増す。対するマイクロソフトは、「カウンターパンチを繰り出す気にもならない」と全く相手にせず、対抗策を練るつもりもなさそう。中堅企業向けDB市場を狙う日本オラクルの、マイクロソフトけん制の手には乗らない、といった様子。

　日本オラクルは4月5日から、10 ｇのエントリー版2製品を順次発売する。発売にあたって、いつものように対抗キャンペーンを打つ。今年12月末まで続く対抗策のほとんどは「マイクロソフト対抗」に沿った戦略。マイクロソフトのDB「SQLサーバー」を標的にしたディスカウント価格の設定や同DBの「下取りプログラム」の実施、さらに同DBから10ｇへの乗り換えで、「移行コンサルティング」の無償サービスを行う念の入れようだ。ここまでは、日本オラクルの〝いつもの〟対抗キャンペーンと同じ。だが、今回はさらに独立系ソフトウェアベンダー（ISV）の囲い込みと支援プログラムを実施するほか、DBのデータ管理を行うマイクロソフトの「エクセル」、「アクセス」と同等の機能を持つ「HTML DB」の無償テンプレートツールをリリース。日本オラクルでは、「当社がかつて到達できなかった領域を貪欲に狙う」（清水照久・マーケティング本部長）と、従来のキャンペーンとの違いを強調する。

　調査会社のIDCによると、1997年には、ウィンドウズDB市場で日本オラクルが61％のシェアを確保していたが、ここ2、3年は、トップのポジションは変わらないものの、Linuxへの傾注やライバルの猛追を受けて40％台に落ち込んでいる。10ｇの市場投入で「シェア60％」というのは、「97年当時の水準に戻す」（新宅社長）という意味だ。日本オラクルが2年前に始めた電話による技術支援サービス「オラクル・ダイレクト」は、「『価格、導入、管理、運用などの容易さがSQLサーバーに比べ劣っていた』という反応が相次いだ」（山元賢治・取締役専務執行役員）と、10ｇの前バージョン「9i」は多くの問題を残した。

　しかし、「10ｇはこの弱点をすべて解消した。しかも、エントリーレベルにRAC（リレーショナル・アプリケーション・クラスタ）機能を追加している」（山元取締役専務執行役員）と、将来的に小規模のシステムでもグリッドによるユーティリティ環境まで拡張できる優位性があると強調する。「上位から下位のシステムまで、当社のDBで全てカバーできる」（清水本部長）と、自信を見せる。

　一方、マイクロソフトの反応は、「9iが伸び悩んだのは、RACが認められなかったことの証拠。BI（ビジネスインテリジェンス）機能まで付くSQLサーバーの価格と、DB単体の日本オラクルのキャンペーン価格とは比較できない」（前田隆志・マイクロソフト・サーバープラットフォームビジネス本部アプリケーションインフラストラクチャ製品グループマネージャ）と、全く相手にしていない風情。日本オラクルは、いままで無視してきたISVの開拓や「HTML DB」の無償ダウンロードの開始、デルと「オラクル・ダイレクト」とで連係したDB販売など、今までにない戦略をとる。まるでマイクロソフトの戦略の模倣のようにも見え、かつての覇者も知恵の出し納めか。 谷畑良胤●取材／文