その他
大手ベンダー、中堅・中小企業に照準 相次ぐチャネル構築の本格化
2004/02/23 15:00
週刊BCN 2004年02月23日vol.1028掲載
中堅・中小企業マーケットの攻略が本格化してきた。大企業のERP(統合基幹業務システム)投資が一巡したなかで、大手ベンダーが相次いで中堅・中小企業マーケットの開拓に乗り出している。数が限られている大企業に対し、中堅・中小企業は「ERP導入などIT投資意欲がある企業だけでも数百万社」(関係者)と数が多く、攻略には有効かつ効率的なチャネル施策が欠かせない。(安藤章司●取材/文)
ビジネス効率の向上が課題
■日本IBM、中堅・中小向け営業強化、パートナーと有機的な結びつき構築
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は今年1月1日付で、中堅・中小企業マーケット向けの営業体制を大幅に強化した。チャネル戦略に詳しい堀田一芙・常務執行役員を中堅・中小企業ビジネス担当とし、同時に営業人員やコンサルタントなど同ビジネスに投入する経営資源を増やした。
同社はこれまで、中堅・中小企業ビジネスと、パソコンやサーバー、ソフトウェアなど製品営業部門は別組織だった。この営業部門の人員のうち、一部を中堅・中小企業ビジネス分野へ異動させることで、同ビジネス部門の経営資源を手厚くした。また、大企業に対するコンサルティング経験のあるコンサルタントの一部も、同ビジネスで活用できるリソースに加えた。
地方組織についても、全国6地域のテリトリーエグゼクティブ(地域別の営業本部長相当)6人のうち半分を交代させるとともに、その下のテリトリーマネージャー(営業部長相当)数十人のうち約30%を入れ替えた。人選の基準として重視したのは、中堅・中小企業ビジネスの拡大に向けて、IBMのリソースをフルに引き出せる能力の有無だという。
堀田常務執行役員は、「まず改革の手始めとして、顧客やパートナー企業から見て、日本IBMの中堅・中小企業対応の窓口を一本化した。配下の幹部も社内リソースを十分に引き出せる人材に代えた。これにより、顧客やパートナーの要望に対する応答能力が格段に速まった。今後、各パートナー企業のコアコンピタンスを組み合わせ、中堅・中小企業マーケットに有効な“エコシステム”をつくりあげる」と、改革方針を示す。
エコシステム(生態系)とは、IBMが今年に入ってから頻繁に使うようになったキーワードで、中堅・中小企業への販売力を高めるうえで欠かせないパートナー企業の有機的な結び付きを指す。
同社関係者は、「これまでの日本IBMは大口顧客中心で、中堅・中小企業マーケットに弱かった。これに対して米IBMは、中堅・中小企業マーケットに強い。日本においてNECや富士通といったチャネル網が充実している競合他社が少ないことも背景にある。また、米国で最大の競合であるヒューレット・パッカード(HP)やデルは、ハコ売りには強いがチャネルを使ったソリューションに弱い」と分析する。
「過去にパソコンやソフト製品のチャネル販売の経験があり、日本IBMきってのアイデアマンとして知られる堀田常務が、中堅・中小企業ビジネスのトップに就任したことは、社内外に向けてこのビジネスを本気で立ち上げる意志を示したもの。日本IBM社内やパートナーを含めた“現行勢力”では、いつまで経っても中堅・中小企業分野は弱いままだとの経営判断があった」(同社関係者)と、日本IBMが危機感を抱き、本気で中堅・中小企業マーケットに取り組む体制をつくったと評価する。
■オラクルは50種ものテンプレート用意、今後は“中小企業”がトレンドに
一方、ERPの「オラクルEBS」などを販売している日本オラクルも、中堅・中小企業向けの営業力強化に力を入れている。
昨年6月には、「オラクルEBS」の中堅企業向け定額・短期間導入の仕組みとして「オラクル・ネオ」を立ち上げた。「オラクル・ネオ」は、パートナー企業が開発した業務・業種別のテンプレートを活用し、これにソフトウェアライセンス、ハードウェア、導入サービスを組み合わせた。現在、37社のパートナー企業が開発した約50種類のテンプレートを揃えている。
日本オラクルの桑原宏昭・執行役員クロスインダストリー本部長は、「オラクル・ネオは、ようやくビジネス展開が始まったばかりで、徐々に案件が出始めている段階。オラクルEBSを中心としたERP関連事業の売上高を100とした場合、2年後の2005年度(06年5月期)には、オラクル・ネオ関連の売上比率を20%程度まで拡大させる」と、中堅企業向けビジネスの強化に取り組む。
これとは別に、これまで大口顧客が中心だったアウトソーシングビジネス「オラクルアウトソーシング」では、「オラクル・ネオなど中堅・中小企業向けのアウトソーシング事業としても力を入れる」(桑原執行役員)と話す。テンプレート化や、アウトソーシング化によってコスト削減を進め、中堅・中小企業が導入しやすい商品体系に組み替える。
桑原執行役員は、「パートナー企業の負担を軽減させる仕組みを拡充し、ビジネス効率をいかに高められるかがポイント」と、大企業マーケットとは異なり、営業対象となる社数が多い中堅・中小企業マーケット攻略には、ビジネス効率の向上によるスピードが重要だと指摘する。
02年6月には、中堅・中小企業顧客との直接営業の窓口となるコールセンター「オラクルダイレクト」を開設した。中堅・中小企業に詳しい営業担当者約70人体制で運営しており、これまでに延べ1万4000人の顧客と電話やインターネットを使って対話を行ってきた。オラクルダイレクトによって創出したビジネスは、パートナー企業経由での販売などを含めた総額で100億円余りに達するという。
また、マイクロソフトでは、全国およそ600万ある事業所のうち、従業員数300人以下で、個人事業主などを除いた約160万事業所が今後、アクティブディレクトリ(ユーザー管理システム)やERPなどの基幹業務にサーバーを導入する潜在顧客だと分析する。同社の推計では、このターゲットとすべき160万事業所のうち、すでに基幹業務にサーバーを導入し、業務のIT化を済ませているのは、わずか10万事業所に過ぎないという。
マイクロソフトの眞柄泰利・常務執行役員は、「ブロードバンドや無線LANなどの普及が進み、中堅・中小企業のIT導入機運は従来になく高まっている。他のベンダーも相次いで中堅・中小企業マーケット向けの施策強化を打ち出しており、今後、中堅・中小企業マーケット攻略が業界のトレンドになる」と、業界全体の流れが中堅・中小企業ビジネスに大きく向き始めたと話す。
マイクロソフトは、今年4月にパートナープログラムを刷新する。パートナー企業の総数を増やし、従来より密接な協業を進めることで、中堅・中小企業マーケットにおける販売力強化を図る。
これまでの中堅・中小企業向けのダイレクト(直販)モデルでは、基本的に「ハコ」しか届かない。そうではなく、大規模なエンタープライズ向けと同様に、付加価値の高いソリューションをパートナーと協業しながら、中堅・中小企業向けに効率良く提供する新しい仕組みが求められている。
中堅・中小企業マーケットの攻略が本格化してきた。大企業のERP(統合基幹業務システム)投資が一巡したなかで、大手ベンダーが相次いで中堅・中小企業マーケットの開拓に乗り出している。数が限られている大企業に対し、中堅・中小企業は「ERP導入などIT投資意欲がある企業だけでも数百万社」(関係者)と数が多く、攻略には有効かつ効率的なチャネル施策が欠かせない。(安藤章司●取材/文)
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