ソフトウェア流通大手のソフトバンクBB(孫正義社長)は、店頭の低価格ソフト売り場の改革に乗り出した。ソフトの低価格化の影響で店頭の粗利益率が低下し、高価格ソフトが落ち込んでいる現状を改善する。2月から順次、低価格ソフトの「特設コーナー」を全国の量販店に新設。同社が通年でこうしたコーナーを設けるのは初めて。今後はソフト売り場だけでなく、携帯電話やDVDなどハードウェア売り場にもこのコーナーを置き、「ソフトとハードが融合」した販売形態を確立する考えだ。ソフト店頭市場の需要が低下していることに危機感を抱いた措置で、ソフト販売が不振の量販店やソフトベンダーに注目されそうだ。(谷畑良胤●取材/文)
通年の特設化は初めて
■市民権を得た「1980円ソフト」
「1980円ソフト」は、完全に市民権を得た──。ソフトバンクBBの小林由明・流通事業本部コンシューマ営業統括部長は、量販店のソフト売り場改革を行う理由の発端が、低価格ソフトの台頭にあると指摘する。同社は今年に入り、購入者層やニーズ別にソフト売り場に特設コーナーを置く戦略を開始した。その第1弾となるのが、「ソフト低価格宣言!!」と銘打った低価格ソフトコーナーの新設で、2月6日から全国30社の量販店に段階的に設置を始めている。
このコーナーは、今後半年間で約1500店舗の配置を目指している。当初は1480-1980円の低価格ソフトをリリースしている4社の製品のうち、最大約100タイトルが並ぶ。「低価格ソフトの出荷を検討するなかで、興味をもつソフトベンダーは多く、参加ベンダーは徐々に増えそうだ」(小林統括部長)と、ソフトの品揃えは段階的に拡充できる見通しだ。
ただ、昨年6月にソフト単価を1980円とするコモディティ戦略を打ち出し、低価格化の“火付け役”となったソースネクストは、「諸条件が整わなかった」(武石英之・プロデュースグループマネージャー)と、当面の参加を見合わせる。それでも、「ユーザーにとって身近に感じる(低価格)ソフトが分かりやすい場所に集まるのはいい」(同)と、低価格コーナーの設置を歓迎している。
ソフトバンクBBは、これまでも青色申告とはがき・毛筆の“季節モノ”や、携帯電話とセキュリティの“売れ筋モノ”など、数か月単位の期間限定で特設コーナーを量販店に設け、実績を上げてきた。しかし、今回の低価格コーナーのように、通年で開設するのは初の試みだ。
■売り上げ減の歯止めになるか こうした背景にはまず、低価格コーナーを切り口にして、ハードウェアとソフトを融合させる売り場改革を本格化させ、「売り場が狭まり、売り上げが減る傾向を改善したい」(竹下悟・流通事業本部コンシューマ営業統括部CN企画営業課長)との思いがある。低価格コーナーはソフト売り場だけでなく、「携帯電話やDVD、デジタルカメラなど、好調な分野のハード売り場にも設置して、ハードとソフトを同時購入する需要を喚起する」(同)ことも考えている。
ソフト店頭市場が金額ベースで大幅に落ち込んでいるのも理由の1つだ。「低価格ソフトと高価格ソフトが同一の場所に並んでいると、ユーザーは低価格を選ぶ傾向にある」(小林統括部長)と、低価格と高価格のソフト売り場を分離して、粗利益の高い高価格ソフトに再度目を向かせる副次的効果も期待している。将来的には低価格ソフトだけでなく、「ミッドレンジやプロシューマ向けのソフトコーナーも改善する」(竹下課長)と、高価格ソフトの新コーナー開設も視野に入れる。
BCN総研によると、2003年のソフト店頭市場は本数ベースで前年比5.6%減、金額ベースで同11.7%減と、ともにマイナスで推移した。ソフトバンクBBは近く、ソフトのウェブ販売で強化策を打ち出すが、「10年先は分からないが、店頭販売を最重要課題と考えていることに変更はない」(小林統括部長)という。
同社の一連の売り場改革が軌道に乗れば、ユーザーは店頭で本当に欲しいソフトを迷わず、ピンポイントで探すことができ、このことはソフト開発・販売のベンダーにとっても朗報といえそうだ。