〝消費者を惹き付ける商品〟を
「購買代理店」がマーケットを創造する
パソコンとデジタル家電が融合するなかで、IT市場は再びブレークの時を迎える──。1月23日の「BCN AWARD 2004」で開かれた大手販売店、ディストリビュータの代表3者によるパネルディスカッション「今、カスタマーに求められる商品とは何か」では、今後のIT市場についてこんな意見が交わされた。売る側も、単に商品を仕入れて売るだけの「販売代理店」ではなく、消費者の“声”に耳を傾け商品を選択する「購買代理店」へと変革する必要性が指摘されるなど、改革が着々と進みつつある状況を垣間見ることができた。地上デジタル放送対応の薄型テレビといったヒット商品とパソコンを結ぶ周辺機器への期待など、今後の市場を牽引する“消費者を惹き付ける商品”への提案も興味深かった。パネルディスカッションの要旨は以下の通り。(谷畑良胤●文、清水丈司●写真)
【パネリスト】
■エイデン・岡嶋昇一社長、■ソフマップ・山科光男社長、■丸紅インフォテック・梅﨑哲雄社長 【司会】BCN専務取締役・吉若 徹
■03年のパソコン販売は失速 吉若 パソコンを取り巻く2003年のマーケット動向はどうだったのでしょうか。
岡嶋 03年は通年でパソコンの販売台数が前年を上回りました。ただ、コンシューマ向けの量販店としては、その数字ほど伸びた印象を受けていません。個人向けパソコンのリサイクルを前にした“駆け込み需要”などで、昨年6月には回復基調に入り、年末商戦を乗り切れば、全体の需要が順調に推移すると予想していました。しかし、昨年の年末商戦は、11月の販売台数が前年を大きく下回り、12月はさらに悪化しました。年末商戦の数字を見る限り、パソコンのコンシューマ市場は、長期にわたり悪い状況が続き、先行き不透明感が漂っている感じがします。
山科 パソコン専門店でも、昨年は家電量販店と同様に1年を通じて厳しい年でした。夏にかけて、パソコン需要が回復するかのように推移しましたが、秋口から失速。ただ、パソコンが減速する一方で、DVDレコーダーや薄型テレビなどのデジタル家電が売り上げを牽引しました。また、ブロードバンド関連の商品が順調に伸び、無線LANや個人ユーザーが家庭のネットワーク構築に使う商品が好調でした。今後も、ブロードバンド関連の商品が売り上げを牽引していくと期待しています。
梅﨑 01年の「ITバブル崩壊」で、マーケットが突然30%以上消滅しました。その間、ディストリビュータとして事業構造改革を進め、02年は踏みとどまりました。この2年間の状況を踏まえ03年の販売状況を分析すると、先のお2人とは若干違い、トータルでは少し伸びたという感触があります。全体としては、コンシューマ向けは前年比横ばいで、企業向けは少し伸びました。ただ、現在は「窮地は脱したが、まだ危機は続いている」という状況だと思います。
■女性層が支持した薄型テレビ 吉若 03年はデジタル家電が大ブレークした年でした。この好調さは今年も続きますか。
岡嶋 昨年1月に小泉純一郎首相が「新3種の神器」として、薄型テレビ、DVDレコーダー、デジタルカメラが今後の経済を牽引すると指摘していました。確かに03年はそうなりました。昨年12月、3大広域圏で地上デジタル放送が開始され、年末に向けて同放送に対応した薄型テレビがブレークしました。また、ソニーの「PSX」の出荷開始で、DVDレコーダーの市場が鈍化すると心配していましたが、結果としてDVDレコーダーは前年比約3倍も伸び、加えて、PSXも売れるという相乗効果が生まれました。ただ、デジタルカメラは一時期ほどの勢いはなく、落ち着きを見せています。
今年のデジタル家電市場は、地上デジタル放送に対応した薄型テレビの伸びが加速するでしょう。薄型テレビは女性層から支持を得ているので、大いに期待しています。昨年末はテレビが地上デジタル放送対応型に置き換わるスタートとなりました。DVDレコーダーも依然として普及段階にあり、堅調に伸びると思います。
■新3種の神器とパソコンが融合へ 吉若 パソコンを中心に、この「新3種の神器」と融合させる動きがあると思います。デジタル家電ブームは、パソコン専門店にとっても“追い風”だと思いますが。
山科 コンシューマ市場では、パソコンが限りなくデジタル家電と一体化してくるでしょう。パソコンにテレビ機能を組み入れた商品は、すでに市場に出回っています。逆に今後は、テレビにパソコン機能が内蔵される形で商品コンセプトが変化すると思います。パソコンをメーカー別に並べる従来の売り場は、デジタル家電とパソコンが共存する店作りへ変えていく必要があります。
吉若 デジタル家電の波が本格的にやってくると、パソコン周辺機器メーカーにもビジネスチャンスが広がると思われますが。
梅﨑 周辺機器には物凄いチャンスがあると思います。パソコンが登場した当時、使い勝手が悪く、拡張性などの不便を補完する周辺機器が登場しました。同様に、周辺機器を持たないデジタル家電はまだ操作性や拡張性、利便性に欠けます。これらを解決する周辺機器が登場すれば、ブレークするのは間違いないと思っています。
岡嶋 すでに、パソコンとデジタル家電を結ぶ周辺機器で“隠れたヒット商品”が生まれています。例えば、パソコンに録り溜めた映像や音声コンテンツをネットワーク経由で視聴できるアイ・オー・データ機器の「リンクプレーヤー」は、パソコンとデジタル家電の“橋渡し役”として人気です。パソコンの売り上げが振るわないなかで、デジタル家電とリンクさせた周辺機器などの新商品に期待しています。
山科 周辺機器にチャンスがあるという梅さん、岡嶋さんの考えに同感です。パソコンを取り巻くサードベンダーの取り組み次第では、IT市場は大きく成長すると思います。サプライメーカーや周辺機器メーカーでは、すでにデジタル家電とパソコンを融合させる製品開発が進んでいますが、消費者が潜在的に抱いているニーズを顕在化させるような検討をお願いしたい。デジタル家電やパソコンの新しい使い方や遊び方を提案できる商品開発に期待しています。
■パソコンの新商品に魅力薄 吉若 一方で、不振が続くパソコンですが、消費者が求めている商品は何だとお考えですか。
梅﨑 パソコンは価格競争が厳しい状況です。パソコンの「コモディティ化」が進み、価格で差別化する状況では“労多くして益少なし”なので、値段が張っても店頭で説明するなかで売れるような、消費者のニーズを捉えた商品を揃えたいものです。大きな商売にならないかもしれませんが、メーカーに期待したいのは、例えば、体の不自由な人でも簡単に使えるような「デジタルデバイド(情報格差)」に関連したIT商品の開発ですね。
岡嶋 冒頭に示した当社の03年のパソコン販売台数には、ホワイトボックスやリユースパソコンは含まれていません。これらを含めると、昨年前半はリユースパソコンの販売台数が全体の10%を占めます。昨年末から今年にかけては、パソコンの春モデルが出荷されても市場がほとんど動きませんでした。メーカーの出す新商品に魅力がないからか、新製品とリユースパソコンを比較した場合、消費者が後者を選択しているのです。春モデルの中で、富士通やNECからワイド液晶でDVDを楽しめるAV(音響・映像)パソコンが出て、期待をしましたが、地上デジタル放送のチューナーが付いてなくてがっかりしました。せっかく液晶の大画面を搭載したのであれば、消費者の間で話題になっている地上デジタル放送に踏み込まないのでは、新商品に魅力がないという消費者の意識を変えるのは難しいでしょう。
■「販売代理店」から「購買代理店」へ 吉若 ソフマップでは、従来の「販売代理店」としてではなく、消費者の側に立って商品を売る「購買代理店」になるよう徹底していますね。
山科 従来はメーカーが作った製品を消費者に売るというメーカーの代理店という立場で商売してきました。今は、デジタル家電など機能が複雑な商品が相次ぎ登場しています。店頭で消費者に接していて感じたのは、消費者の商品に対するニーズや利用シーンなどを聞き、多くの商品から、そのニーズに合った商品を選択してあげる「購買代理店」を目指す必要性です。
梅﨑 当社でもディストリビュータの立場で、販売代理から購買代理へシフトすることを標榜しています。パソコン関連の商品が供給され、顧客が選択肢に迷う問題が生じ、そこで当社が利便性や効率性を説明、提案をして商品を売る「購買代理」の役割を果たそうとしているのです。
岡嶋 パソコン市場は成熟期に入り、大きく伸びる環境にはないので、消費者の声に耳を傾けることの重要性は高まっているでしょうね。
■店頭の声を商品開発に反映
吉若 デジタル家電に対し、今後もパソコンなど情報分野は先行き不透明なのでしょうか。
岡嶋 パソコンの新商品が売れないのであれば、当面はリユースやホワイトボックスなどのパソコンに消費者の目を向けさせ、その間にメーカーがマーケットに合った新商品を出せば、パソコン需要が回復する余地はあります。
山科 打開策としては、新市場を創造する商品を出してもらうことに尽きます。そうなれば、量販店がしっかり接客し、売り上げを伸ばすことが可能です。ただ、商品単価の下落が著しく、市場も乱れ、小売りやメーカーの利幅が少なくなっています。製品の価値に見合った形で量販店が販売価格を設定できる方策を検討して欲しいです。
岡嶋 量販店はマーケットの最先端にいます。消費者のニーズや商品に対する満足感を直接聞けます。そうした情報を提供しますので、メーカーがそうした声を新商品の開発に生かす方法を一緒に考えていければと思っています。
吉若 マーケットを創造する「購買代理店」とメーカーがコラボレーションすることの重要性が再認識されたと思います。本日はありがとうございました。
(週刊BCN 2004年2月9日号掲載)