その他
NEC、パイオニアにPDP事業を売却 コア事業へのリソース集中を加速
2004/02/09 21:12
週刊BCN 2004年02月09日vol.1026掲載
NECが動いた。パイオニアにプラズマディスプレイパネル(PDP)事業を譲渡することに加え、グループ会社のNECエレクトロニクスは、国内の半導体組立工場を台湾企業に売却することを決めた。NECグループはIT・ネットワーク先進市場を成長の要に、3-4年後をめどに営業利益率7%、ROE(株主資本利益率)15%、D/Eレシオ(グロス)1.0を中期目標に据えている。その実現のためには、事業の選択と集中は不可欠だ。今回の事業売却も、その一環と位置づけられるだろう。(川井直樹(本紙副編集長)・谷畑良胤●取材/文)
グループあげて「選択と集中」を加速
■10月末にパイオニアが打診、3か月のスピード決断
昨年10月30日、今年度(2004年3月期)の中間決算を発表した後に、NECは中期成長戦略を明らかにした。この中で事業ラインを「ITソリューション」、「ネットワークソリューション」、「半導体ソリューション」に分け、リソースを集中していくことを発表した。
2月3日、パイオニアにプラズマディスプレイパネル(PDP)事業の譲渡を伝える会見で、NECの金杉明信社長はいつものクールな表情を崩さず淡々としているように見えた。「コア事業にR&D要員を集中させたかった」と、PDPに関してはすでに事業存続の可否を検討していたことを伺わせるような口ぶり。
NECが中期成長戦略をまとめたのと同じ昨年10月末にパイオニア側から買収を打診されてから、わずか3か月のスピード決断にもそれが表れる。NECとして、PDP事業を軽んじていたわけではない。しかし、「リソースを集中させていくなかで、競争が激しいPDP事業で、開発や量産にこれ以上の投資はできない」という結論に達したという。
PDP事業をNECから買収するパイオニアの伊藤周男社長は、「PDP事業に社運をかけている」と、低迷する音響・映像機器事業でシェアアップによる起死回生を狙うと語る。その表情は、技術や量産能力という貴重な戦力を得て、自信を回復したように映った。
「工場を建てて増産するとなると、どうしても2-3年はかかる。すでに量産している工場を買収できれば、極端に言えば明日からでも増産できる」(伊藤社長)と、パイオニアとNEC双方にメリットのある買収だと強調した。
PDP事業の買収で、パイオニアはNECの100%子会社であるNECプラズマディスプレイ(NPD)の全株式とプラズマ関連の知的財産権を400億円程度で、来年度半ばにも買収する見通し。NPDの生産拠点は鹿児島県出水市にある。今年度(04年3月期)の売上見込みは500億円で、従業員約1100人もろともパイオニアの傘下に入ることになる。
NPDとパイオニアのPDP事業が統合されることで、世界トップの富士通と日立製作所の合弁である、富士通日立プラズマディスプレイのシェアを上回ることになる。伊藤社長は、「大型のディスプレイ用途にPDPはこれからも成長を続ける」と、ナンバーワンとなることで市場をリードできるとする。韓国メーカーや大型化の進む液晶ディスプレイに勝てる、と踏んでいるわけだ。
パイオニアにとってはパネルから製品まで、垂直統合型のビジネスモデルを強化できる。さらに、NECが持つ販路もプラスになる。NECは、業務用やセットメーカー向けにOEM(相手先ブランドによる生産)販売しているが、垂直統合型ではないために付加価値をつけにくい、というのもPDP事業売却を後押しした要因と想像するのに難くない。
■NECエレも半導体組立工場を台湾・ASEグループに譲渡
垂直統合型ビジネスモデルを強みにしているのは、グループのNECエレクトロニクスも同様だ。
しかし、その一方で選択と集中の必要性は、業績好調なNECエレクトロニクスにも“選択”を迫った。1965年設立と40年近い歴史を持つ半導体組立工場であるNEC山形の高畠工場(山形県高畠町)を、台湾のアドバンスト・セミコンダクタ・エンジニアリング(ASE)に譲渡することを決めた。
工場の譲渡については会社分割法を活用し、5月1日付でNEC山形が高畠工場を100%出資のASEジャパンとして分割。その後、5月31日にASEに株式を譲渡し、ASEの全額出資子会社となる。高畠工場の従業員約860人は新会社に引き継がれ、NECエレクトロニクスは4年間は生産委託を行うことになっている。
そもそも垂直統合型ビジネスモデルを強調してきたNECエレクトロニクスだが、「顧客が海外生産に移行している」(山本恭二・NECエレクトロニクス副社長)状況では、少なくとも組立能力に関しては過剰になっていた。先端的な開発が必要な分野や前工程に関しては、「国内を中心に考えている。投資も国内が中心になる」(戸坂馨・NECエレクトロニクス社長)というが、顧客に近い部分では中国での設計や組立工程の海外移転を進めてきた。
逆に見れば、ASEは組立専業では大手企業であり、垂直統合型とは隔たりのある業態。部分的にNECとは競合する関係でもある。ポリシーの違いが、今回の工場売却をスムーズにしたということか。
NECの今年度(04年3月期)連結業績は、4-12月の9か月を終えた段階で、売上高3兆4492億円(前年同期比6.4%増)、営業利益916億円(同83.3%増)、税引前利益は前年同期に比べ5倍の1149億円、最終損益は266億円の黒字で前年同期の35億円の赤字から大幅に好転している。そして液晶パネルもPDPも、この第3四半期で「ほぼ採算レベルにまで改善した」(松本滋夫・NEC専務)。
その一方で、ITソリューション分野のコアであるコンピュータ・プラットフォーム事業は、サーバーの低価格競争に打ち勝つために、パソコンとの部材共通化や海外生産拡大など、さらに原価低減を進めていかなければならない。そしてサーバーに関しては、「ソリューションやシステムインテグレーションビジネスを支えるためには必要」(金杉社長)としている。一方、国内パソコン事業に関しては黒字定着しており、それには液晶パネル事業も重要になる。
PDP事業の売却は、採算の厳しさというよりは、NECの考えるコアコンピタンスから外れた存在だったから、と見るべきで、その点では「今後の開発、量産投資はできない」というのも、PDPにはリソースを割けないということに他ならない。
NECグループは、これまで事業の分割や事業子会社の上場、事業譲渡を積極的に続けてきた。中期成長戦略の実現のために、ITソリューション、ネットワークソリューション、半導体ソリューションの3分野から逸脱する事業は今後も“選択と集中”の対象になることは確実だろう。
NECが動いた。パイオニアにプラズマディスプレイパネル(PDP)事業を譲渡することに加え、グループ会社のNECエレクトロニクスは、国内の半導体組立工場を台湾企業に売却することを決めた。NECグループはIT・ネットワーク先進市場を成長の要に、3-4年後をめどに営業利益率7%、ROE(株主資本利益率)15%、D/Eレシオ(グロス)1.0を中期目標に据えている。その実現のためには、事業の選択と集中は不可欠だ。今回の事業売却も、その一環と位置づけられるだろう。(川井直樹(本紙副編集長)・谷畑良胤●取材/文)
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