その他
経産省、次世代ルータ開発へ 「シスコ潰し」との憶測呼ぶ
2004/01/19 15:00
週刊BCN 2004年01月19日vol.1023掲載
シスコ潰しなのか──。経済産業省が打ち出した「次世代ルータ」開発プロジェクトを巡り、こんな憶測が飛び交っている。同省が日本の通信機器メーカーに対し研究開発費を助成して後押しし、日本市場でトップシェアをもつ海外勢のシスコシステムズを“追い落とす”ことを目論んだ、と思われたからだ。一部では、NECと日立製作所が事業統合してこのプロジェクトに参画すると報道されたが、両社とも「何も決まっていない」と否定。だが、官民協力で「国産ルータを国際標準にする」という日本勢から期待の声は大きく、国産ルータの巻き返しを狙ってその動向が注目される。(谷畑良胤●取材/文)
日本勢の巻き返しを期待
■“日本勢の遅れ”解消が目的
経済産業省は2004-06年度の3年間、官民協力で「次世代高速通信機器技術開発プロジェクト」を進める。従来の交換機に代わり、将来の通信インフラの中核を担う超高速・大容量・高信頼性を実現した「次世代ルータ」の開発を行うことが目的だ。今年3-4月には、開発する企業や団体を公募。その計画書に基づき、経産省が第3者機関に委託して審査を行い、応募のあった中から選定された企業や団体に開発費の2分の1を補助する。初年度の予算案として25億円を計上する。
プロジェクトの条件は、「1チャンネル当たり伝送速度40ギガビットの次世代ルータを開発」と規定されているのみで、半導体やスイッチ、経路制御、セキュリティ、省電力化などの技術開発はすべて応募側に委ねられている。
世界のルータ市場は、米シスコシステムズや加ノーテルネットワークスなど海外勢が圧倒的なシェアを占める。日本でもシスコの“独壇場”が長く続いている。そのため、経産省の新規プロジェクトについて、「シスコ潰しだ」と、辛らつな表現で歓迎する国内通信機器メーカー担当者の声もあった。
これに対し、経産省は、「通信デバイスは日本勢が優位だが、ルータは特定メーカーの寡占化が目立つ。日本勢の遅れを解消して、国際競争力を身につけさせたい。条件によっては、シスコシステムズもプロジェクトに参加できる」(矢島秀浩・商務情報政策局情報通信機器課課長補佐)と、基本的にはオープン参加だという。
また、「ルータの基盤技術を開発し、IP(インターネットプロトコル)ネットワークなどの高速大容量化の時代に備える」(同)とも説明するが、このプロジェクトが海外勢の“追い落とし”であることは見て取れる。
ルータ市場は、日本勢のNECや日立製作所、富士通の3社を合わせても世界シェア5%にも満たない。日本勢の多くが“旧電電ファミリー系”で、「交換機の発想から抜け出せず、IPルータを見下し真剣に取り組まなかった」(大手システムインテグレータ担当者)と、シスコの独断を許した要因を分析。
一方で、シスコのルータ性能について、「“高い・複雑・遅い”という弱点がある」という指摘は少なくない。ここにきて、既存のルータで処理が追いつかずに起きるパフォーマンス低下を防ぐ「レイヤ3スイッチ」が流行しているのもそのため。単純に「シスコ製より、高速で安いから」というのが、売れている理由のようだ。
■VoIP普及時には不安も
中堅企業のシステム構築を手掛けるいくつかのシステムインテグレータの見解を集約すると、「現在のルータで処理能力不足は感じない。IP上で音声通話をする技術『VoIP』など、トラフィック量の大きなアプリケーションが普及すれば、現状のルータでは立ち行かなくなるのでは」と、将来に不安を残すものの、現状のルータ性能を問題視する声はなかった。
1990年代後半のインターネット初期、サン・マイクロシステムズのUNIX機とシスコのルータで構成した企業システムが、「最も信頼でき、安全な選択肢」と言われた。シスコによる競合他社の“買収劇”などもあり、同社の寡占化が鮮明になった。経産省は、「海外勢のサポート力が疑問」(矢島課長補佐)と指摘するが、シスコの技術者認定者制度は定着し、人的リソースは膨大で問題はなさそうに思える。
もっとも、以前ほど海外勢が圧倒的な存在ではなくなってきているため、VoIP(IP電話)などが普及するタイミングを見計らえば、日本勢もルータ市場に打って出るチャンスは生まれる。経産省のプロジェクトで“国産ルータ”が世界標準を握る可能性は低くない。
シスコ潰しなのか──。経済産業省が打ち出した「次世代ルータ」開発プロジェクトを巡り、こんな憶測が飛び交っている。同省が日本の通信機器メーカーに対し研究開発費を助成して後押しし、日本市場でトップシェアをもつ海外勢のシスコシステムズを“追い落とす”ことを目論んだ、と思われたからだ。一部では、NECと日立製作所が事業統合してこのプロジェクトに参画すると報道されたが、両社とも「何も決まっていない」と否定。だが、官民協力で「国産ルータを国際標準にする」という日本勢から期待の声は大きく、国産ルータの巻き返しを狙ってその動向が注目される。(谷畑良胤●取材/文)
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