ジャストシステム・浮川和宣社長は、「実はこれまでの5年間は、新しいジャストシステムを作るための試行錯誤の時期だった」と振り返る。そして今、試行錯誤の時期を抜け、「次の5年間に向けた新しいテクノロジーが出来上がった」と力強く話す。7月11日に発売になった「GrowVisionTM(グロービジョン)」こそ、新しいテクノロジーであり、ジャストシステムの今後の方向性を示す製品となるという。浮川社長に、同社が目指す今後の方向性とはどんなものなのかを聞いた。
未来を予見したモノづくり
■グロービジョンによるナレッジソリューション
「当社が一太郎というワープロを開発することで目指したのは、人間が考える、知恵を絞るということを支援していくということ。これはジャストシステムにとって永遠のテーマでもある」。浮川和宣社長は、ジャストシステムの方向性をこう説明する。そしてこの方向性は、「何十年と事業を続けたからといって完結できるものではない。おそらく100年たってもやり遂げることができない、非常に大きなテーマだと思う」と分析する。
「当社が創業時から一貫して取り組んできたのは、すでにあるテクノロジーをどう役に立てていくかという発想ではなく、こういうテクノロジーがあったら世の中でもっと役に立つのではないかと考えて、開発していくこと」というだけに、新たなテクノロジーを開発することには余念がない。
■5年間試行錯誤を繰り返し導き出した「グロービジョン」 しかし、その同社でさえ「この5年間は社内、社外評価、市場での当社の位置づけなどを変えていこうと試行錯誤をする時期だった」という。その試行錯誤の中で、ひとつの方向を導き出したのが、「グロービジョン」であった。この製品は、同社が長年培ってきた日本語テクノロジーをベースに、知識資産を集約する作業環境を提供し、文書および仕事のプロセスの共有化を目指した統合ナレッジソリューションであり、3つのコンセプトによって構成されている。
一つ目は、情報のXML化と多様なゲートウェイ機能の提供により、企業戦略やビジョンに基づいた情報整理・知識体系化。同社の自然言語処理技術によって、同一の情報でも営業、開発といった業務に適した動的な体系化が実現するダイナミックタキソノミー。二つ目は、仕事の流れに応じ、情報の関係性を構造化することで、ひとつの情報からその情報が持つプロセスや背景を把握することが可能となり、手順までも含めた情報の共有を実現する、情報のコンテキストの構築。そして三つ目が、実務でのノウハウ、情報を共有するために、ワークプレースに情報を集約することで、仕事のプロセスや手順を蓄積。これを実践モデルとして知識化し、過去の成功事例やベテラン社員の経験などのノウハウをメンバーで共有することを実現することである。
■成功体験が気化しない情報集積・共有の重要性
「企業運営においてジャストシステムのテクノロジーを利用してもらえればという願いを込めて開発したのがこの製品。ナレッジソリューションの先達としては、コンセプトベースという製品もある。今後とも販売を継続していくが、コンセプトベースは文書を探し出し、分類するという点では非常に優れているものの、企業内でナレッジマネジメントをしていくためには文書だけでは事足りない。文書になっていない知識まで共有できる仕組みを作る必要があると考えた」
文書になっているものに限っても、提案書、稟議書、見積書、メールでのやりとりなど情報がバラバラに格納されているのが企業内の実情である。
しかも、各文書が作成された背景までたどることができるソリューションでなければ、企業の業務にとって役立つナレッジマネジメントソリューションとは成り得ない。「売り上げイコール成功体験なのに、それに気がついていなかったり、その体験を残して、共有化することができない企業が多い。気化してしまって残らない、会話や作業の課程を蓄積する仕組みを作ったのがグロービジョンだ。そういった情報を相互にひもづけし、残していくことで、活用できるのはコンピュータだけ。コンピュータだからこそ、実現したコンセプト」だと、浮川社長は話す。
■未来を見据える製品作り、それがパワーになる 開発は容易に進んだわけではない。だが、現在の技術の限界を超え人間の生産性を向上し、企業活動を支援するという同社の首尾一貫としたテーマを実現するために、5年という長い時間を経てついに製品として完成したのである。目標だった製品が完成したことで、今後ジャストシステムはどのような経営ビジョンを展開していくのか、次の時代にどう取り組んでいくべきかについて、ガイドライン作りを進めている。
現在、社内の有志が集まり、仮説を立てて話し合いながら、今までになかったモノを生み出す思考方法のトレーニングを行っている。現状に囚われず、限界を超えた広い視野で物事を見ていこうということで、2020年という将来にどんな変化が起きているかという議論を進めている。
議論を進める上で、「私たちが提供するテクノロジーを使うことで、企業が自分たちの未来を考える足がかりができるのではないか」という考え方がベースとなっている。
企業が未来を見るということを浮川社長は、「ビジネスには常に厳しい面がつきまとう。しかし、そういう時に未来を考えるというのは企業に活力を生むことにつながるし、前に進んでいこうとするパワーを生む」と指摘する。この未来にこだわる姿勢は、「当社は日本と日本人の将来に貢献したいと考えて、企業活動を行っている。日本人の思考力や創造力を高め、日本の競争力を向上させることが出来れば、単にソフトの開発というところにとどまらない、日本の産業界を活性化するお手伝いになっていくと考えているからだ」という強い信念に支えられたものだ。
「自分たちの限界を打ち破ることで新しいビジネスチャンスが見えてきた」
浮川社長の心は未来に向け、熱く燃えている。
【BCNへのメッセージ】 創業から22年間、コンピュータ業界、それも流通分野一筋に新聞を作ってきたのは素晴らしいことだと思います。ニュースは起こったことを報道するわけですが、是非、次に何が起こっていくのかを紙面で提案し、予見させることによって、新しい日本を作る力になってください。そして、一緒に2000号を目指したいと思います。