景気低迷で、企業のIT投資は抑制の一途。「TCO（システム総保有コスト）削減」が情報化の至上命題となるなか、シンクライアントが蕫静かなブーム﨟となっている。フル機能を備えたパソコンに代わる存在として、「低価格で運用・管理コストを削減できる」という触れ込みが話題を呼び、脚光を浴び始めた。シンクライアントは、利用者が使うパソコン端末に最低限の機能しかもたせず、サーバー側でアプリケーションやソフトウェアなどの資源管理を行う。（谷畑良胤●取材・文）

TCO削減ニーズが牽引

　景気低迷で、企業のIT投資は抑制の一途。「TCO（システム総保有コスト）削減」が情報化の至上命題となるなか、シンクライアントが蕫静かなブーム﨟となっている。フル機能を備えたパソコンに代わる存在として、「低価格で運用・管理コストを削減できる」という触れ込みが話題を呼び、脚光を浴び始めた。シンクライアントは、利用者が使うパソコン端末に最低限の機能しかもたせず、サーバー側でアプリケーションやソフトウェアなどの資源管理を行う。パソコン端末からは、ハードディスクやフロッピーなど余計な機能を削ぎ落とし、細身で外見上も薄く（シン）になっている。

　パソコンの電算能力は高まったが、クラッシュに弱く、大規模事業所ではセキュリティ管理や、複雑化する一方のハードウェア、アプリケーションのバージョンアップなどメンテナンスにかかる運用・管理コストは大きな負担となっている。この資源をサーバー側で一元管理し、負担を一気に解決するというわけだ。デスクトップ型シンクライアントメーカーで世界トップの米ワイズの国内総代理店、ネクストネットの後藤卓雄社長は、「2004年中には国内の情報システムで扱うパソコンのうち、1―2％をシンクライントが占める」と断言する。

　事実、昨年からは、同分野のシェア獲得に向けた業界の動きが活発だ。シンクライアント市場でトップシェアをもつ高岳製作所は昨年8月、同分野の専業会社として全額出資子会社のミントウェーブを設立。シンクライアント用のミドルウェア「メタフレーム」でサポート実績のある松下電工インフォメーションシステムズもこれに出資し、共同事業を開始した。官公庁にシステム導入実績がある三菱電機は昨年4月、同分野に向けたパソコン端末の製造を神奈川県鎌倉市の工場で開始、電子政府・自治体や教育分野への市場開拓を本格化させている。

　この動きの背景には今年から来年にかけて、「2000年問題（Y2K）」で一新した企業や自治体などの情報システムが5年を経てリース期間が切れるほか、マイクロソフトがサーバー用OS「ウィンドウズNT4・0」のサポートを03年6月に打ち切ることなどで、「リプレース需要が高まる」との観測があり、展開が早まった。加えて、「TCO削減」の大号令。企業や行政機関などで、「低価格・高機能なシステム」のシンクライアント導入ニーズが沸き起こっても不思議はない。

　ミントウェーブの草野仁・営業部新規開拓グループ課長は、「パソコンのソフトを入れ替える手間が省け、ハードディスクをもたないので個人が勝手にデータを持ち出せない」と、セキュリティ強化が不可欠な自治体や学校向けに拡販を図る考え。三菱電機インフォメーションテクノロジーの西崎亨・インフォメーションシステム営業部長は、「ソフトのライセンス管理は、情報担当者の負担という見えないコスト﨟が発生している。シンクライントはこうした負担を軽減できる」と優位性を強調する。

　同分野は1995-01年頃、同様のベンダーが進出を試みたが、「端末が20万円程度と高く、使用感も評判が悪かった」（後藤・ネクストネット社長）ため、一時収束しかけた。だが、その後のバブル崩壊で状況は一変。ベンダー各社は再起を狙い、機能を強化したシステムを再び市場投入した。同分野は未だ「辺境の技術」という認識がユーザー側で大勢を占めるというが、それらが払拭されれば、需要は高まりそうだ。