その他
導入始まる「医療事故防止支援システム」 医療現場でPDAを使う
2002/07/22 15:00
週刊BCN 2002年07月22日vol.950掲載
医療現場が、PDA(携帯情報端末)と無線LAN販売の大口需要先になる公算が高まってきた。これまで病院内では、医療機器との干渉問題から携帯電話や無線LANの導入を見送るケースが多かった。だが、「一部大学病院で、すでに無線LANの安全性を確認しており、段階的な導入が始まっている」(長瀬産業)と、変化が現れ始めている。無線LANのインフラが整えば、PDAを中心とした端末の導入が一気に進むことも十分にあり得る。
患者の情報をリアルタイムで
●バーコードで投薬ミスを撲滅、市場は約1700億円規模
病院向けの生化学検査システムなどを納入する長瀬産業ヘルスケァ事業部は、東北大学医学部附属病院にPDAと無線LANを組み合わせた「医療事故防止支援システム」を、今年3月末、実験的に納入した。
現在、病棟の一部約60病床のみの試験運用だが、上手く行けば、今年11月を目途に他の病棟にも納入する。
「医療事故防止支援システム」とは、PDAを使い、看護師が患者にどのような薬を投与すべきかを管理する仕組み。
これまでは、薬剤部などが用意した注射や点滴などの薬を、看護師が手作業で、「どの患者に、どの薬を、どのように投与するのか」を識別してきた。薬の数量や種類が多く、どうしても投薬ミスが防げなかった。大半は栄養剤などであるため、問題が表明化していないだけだという指摘もある。だが、なかには深刻な事態に発展する危険なミスもある。
今回のPDAを使った仕組みでは、(1)看護師、(2)患者、(3)薬剤(注射や点滴など)の3か所にバーコードシールを貼り付け、これらの情報を中央に設置した「医療事故防止支援サーバー」で一元管理することで、投薬ミスの撲滅を狙う。
長瀬産業ヘルスケァ事業部メディカルケァ製品部の佐藤裕久次長は、「これまで、PDAを使った医療事故防止システムや看護支援システムのアイデアはあったものの、通信手段がネックだった。有線LANを使っていては、常に動き回る看護師の役に立たない。そこへ安価に常時通信が可能な無線LANが登場し、一気に導入に弾みがついた。問題は無線LANの安全性だが、検証を進めた結果、PHSと同様の安全性があると病院側が判断したので、今回の試験導入に踏み切った。今はまだ約60病床のみの試験導入だが、将来的には全病床約1200床に適用したい。目下、合計200台以上のPDAの納入を商談中」だという。
全国の病院数は約9000施設。病床数で160-170万床。看護師は約76万人が勤務する。
例えば、全国の病院が、PDAと無線LAN、バーコードを組み合わせた医療事故防止支援システムを導入したとする。看護師は日勤と夜勤とに分かれるため、仮に看護師の半数にPDAを割り当てたとしても、病院だけで約40万台のPDA需要が見込めることになる。
病床数に対して、看護師の数は「3分の1以上確保する」というのが厚生労働省の指針。100床の病院なら、看護師は33人以上確保しなければならない。
長瀬産業では、「本格的に需要が拡大すれば、病床100床規模の中堅病院向けに20台のPDAと無線LAN、医療事故防止支援サーバーを組み合わせておよそ1000万円で販売する」(佐藤次長)としている。 100床=1000万円と単純計算して、同システムの市場規模は全国で約1700億円規模になる。
●医療事故に対する意識が変化、病院全体のシステムも視野に
医療市場に詳しいソフト開発のエス・ディー・シー(SDC)の寺田典夫社長は、「病院は医事会計、検査、診療が3大基幹業務。民間企業と同様、病院も基幹業務にはまとまった投資をする。しかし、収益や業務の効率化に直接結びつかない医療事故防止支援システムなどの情報系には、なかなか投資できない」と、厳しい現状を話す。
しかし、「例えば薬害エイズ問題で、病院の血液管理体制が改めて問われることになった。これまで情報系投資に消極的だった病院も、医療事故防止に向けた投資に積極的にならざるを得ない」と指摘する。
SDCでは、PDAとバーコードを組み合わせて患者と血液を照合する医療事故防止システム「リスクマネージメント」を開発。現在、国公立病院を含む数か所の病院が導入を検討中だ。
長瀬産業の佐藤次長は、「ある病院では、院内インシデント(異変=ニアミス)報告のうち約4割が、注射、投薬および輸液(点滴)関連で占める。PDAと無線LANを組み合わせた医療事故防止支援システムが稼働すれば、少なくともこの40%のミスを減らせる」と、費用対効果を強調する。
「医療事故が起きた時、昔のように患者が泣き寝入りする比率が下がり、逆に訴訟に持ち込むケースが増えている。病院側もこれを認識し始めており、医療事故防止に向けたIT投資に前向きな姿勢を示す」(佐藤次長)という。
医療方面に強い日本事務器の大塚孝一社長は、「業務強化のためのIT導入を行う病院が増えている」と、IT投資の拡大に手応えを感じる。
佐藤次長は、「無線LANのメリットは、リアルタイムで医療事故防止サーバーと連動できる点。将来的には、基幹業務の電子カルテやオーダリング(電子的に処方箋や治療方針などを薬剤部や看護師などに発注するシステム)とも連携させる。今回の医療事故防止支援システムをさらに発展させれば、看護師のスケジュールを管理・指示する『看護支援システム』になる。看護師が必要に応じて患者情報を参照でき、また投薬や看護のスケジュールを管理するなど看護支援ができる。まだまだ発展の余地は十分にある」と鼻息が荒い。
寺田社長は、「これまでオーダリングなど基幹系は、大手ベンダーの独壇場だった。今後は、PDAや無線LANなどの独自の切り口で、基幹系により近い案件の獲得を目指す。米国の進んだ病院では、バーコードがついた腕輪を患者につけて、キャッシュレスでの買い物や病室の入退室管理など、病院全体のシステムとリアルタイムに結びつけている」と語る。
「無線LANとPDAによるリアルタイム処理」という新しいインフラで現れた新しい病院市場開拓の切り口。「この種の商材は、ここ2-3年で急速に普及する。ベンダーやシステム販社にとっては短期決戦になる」(佐藤次長)と、スタートダッシュが勝敗を分けると予測する。(安藤章司●取材/文)
医療現場が、PDA(携帯情報端末)と無線LAN販売の大口需要先になる公算が高まってきた。これまで病院内では、医療機器との干渉問題から携帯電話や無線LANの導入を見送るケースが多かった。だが、「一部大学病院で、すでに無線LANの安全性を確認しており、段階的な導入が始まっている」(長瀬産業)と、変化が現れ始めている。無線LANのインフラが整えば、PDAを中心とした端末の導入が一気に進むことも十分にあり得る。
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