その他
新生HPはどこへ向かうのか 課題多い両社の商品統合
2002/05/20 21:12
週刊BCN 2002年05月20日vol.941掲載
米ヒューレット・パッカード(HP)のコンパック合併が紆余曲折を経てやっと実現し、IBMに次ぐ世界第2位の巨大メーカーが誕生した。しかし、世界のIT業界でこの巨人「新生HP」への脅威の声はほとんど聞かれない。ウィンテル市場で独自のビジネスモデルを確立して独走するデルに新生HPは対抗手段をもたない。また、エンタープライズでひとり勝ちするIBMに、新生HPは財務体力、ITサービス力、次世代サーバーやストレージ製品の品揃えで大きく劣る。しかし、新生HPのカーリー・フィオリーナ会長兼CEOは、「HPになかった製品と営業力をもつコンパックとの合併で、新生HPは強大になる」と強気だ。(中野英嗣●取材/文)
気になる先行きの不透明さ
●世界第2位の売上高に ただし、脅威論は聞かれず
2001年9月にHPのフィオリーナ会長がコンパックの買収・統合を発表してから、HP創業者一族株主の反対などで右往左往があったが、やっと合併新会社「新生HP」が誕生した。
この合併には、当初から競合メーカーから全く反対の声があがらなかった。HP創業者一族はこの業界の無反応を、「この合併をどの競合メーカーも脅威と感じていない証だ」と主張し、合併反対を声高に叫んだ。
新生HPの売上高は、IBMの859億ドル(11兆1670億円)に次ぐ、世界第2位の788億ドル(10兆2440億円)だ。しかし、両社にはウィンテル製品など重複も多く、両社はエンタープライズ向けUNIXサーバーで2つの異なるOSをもつという課題もある。
新生HPは、世界のパソコン市場では1位となるが、米国ではトップのデルの地位を奪えない。
新生HPの両社合算による経営指標をエンタープライズ、ウィンテルトップのIBM、デルと比較すると、新生HPの前途が多難であることが明確になる。
まず、総利益率では新生HP23.9%で、IBM37.0%とは13ポイントの開きがある。営業利益率はIBM13.1%、デル5.7%に対し、新生HPはわずか1.4%に過ぎない。わずかの黒字を維持していたHPが、赤字転落したコンパックを救う合併構造であったからだ。
在庫圧縮では、デルの在庫はすでに3.3日となったが、コンパックは15.3日、HPは42.0日で新生HPとデルには極端な格差がある。世界のウィンテル市場で自ら価格破壊を演出できるビジネスモデルを確立したデルに、当分野で対抗できる戦略を新生HPはもたない。
また、エンタープライズの雄IBMに新生HPが立ち向かうには、その財務体力、利益率大格差キャッチアップという課題が待ち構え、同時に、これからのIT市場拡大をけん引するITサービス力でIBMとの力量差も極めて大きい。
新生HPのサービス売上高は144億ドル(1兆8720億円)で、IBM350億ドル(4兆5500億円)、ITサービスの売上構成比も新生HP18.3%に対し、IBM40.7%とIBMが新生HPを圧倒する。また、ITサービスでこれから大きく伸びるアウトソーシング売上高で、ガートナーによると、新生HPはIBMの10分の1以下だ。
このように多くの課題が山積するが、コンパックの買収を強引とも思える手段で進めたフィオリーナ会長は強気で、次のように反論する。「コンパックはウィンドウズサーバー、無停止サーバーも業界トップで、HPになかったパソコン直販力もあり、合併で新生HPはより強力になる」。さらに、新生HPのマネジメント陣の発表で、米業界は疑問を再度投げかけた。「パソコントップにHP出身者、エンタープライズトップにコンパック出身者だ。これはどう考えても逆さま人事だ」。
●チャネルの整理・統合へ 難しいUNIXサーバーの扱い
5月7日、新生HPのフィオリーナ会長とマイケル・カペラス社長(前コンパックCEO)が新会社発足を発表した。
新生HPの抱える大きな課題の第1は商品統合、第2は販売チャネルの整理だ。米国ではコンパック取り扱いのリセラー、システムインテグレータが多く、その大半は中小規模だ。
米業界ではHPは営業効率向上のために、大幅なチャネルの整理を進めると推測している。
売上高172億ドル(2兆2000億円)と巨大な米国第2位ディストリビュータ「テックデータ」のスティーブ・レイムンド会長は、「両社の合併で中小リセラーの整理統合が進むのは当然だ。このため、わが社も取引企業数が大幅に減少することを覚悟している」と語った。
また、両社の大型サーバーなどを扱ってきたエンタープライズ向けパートナーは、先行きに不安を感じ、IBMやサンの門を叩き、また両社もチャネル獲得のためHP、コンパックチャネルを草刈り場とした経緯もあった。
従って、エンタープライズ向けパートナーも弱体化している。これの立て直しに許される時間は短い。
商品統合で、両社が重複するウィンテル分野はコンパック製品を主体に、これを「HP」にリブランディングした。
また、コンパックだけがもっていた無停止サーバーもHPブランドに変わっただけで継続される。携帯端末・簡易端末はコンパックが強かったので、コンパック・iPAQも「HP iPAQ」に名を替え継続し、HP製品はフェーズアウトとなった。HPの強力なプリンタ群は商品重複もなくそのまま継続される。
このように、どちらかの商品が圧倒的に強かった分野と、片方だけがもつ商品分野は統合が比較的楽だ。また、ウィンテル分野はデスクトップ、サーバーともに業界標準仕様なので、片側の商品主体に整理してもユーザーに大きな困惑はない。
最大の問題は、両社のUNIXサーバー統合だ。これはエンタープライズ基幹業務プラットフォームで両社UNIXの「HP-UX」と「コンパックTru64-UNIX」は全く別物で互換性もない。赤字スレスレまで落ち込んでいる新生HPは、この両UNIXの開発を継続する余裕はなく、時間をかけてHP-UXに統合される計画だ。これにはコンパックユーザーは不安を隠せない。コンパックUNIXユーザーはDEC時代からIBMメインフレームユーザーが多く、IBMの絶好なリプレース対象となろう。
米業界は、両UNIXの統合は難題なので新生HPはUNIX系OSのLinuxを主力OSとすると推測している。このようなユーザー、業界の不安を払拭するためか、フィオリーナ会長は「合併ゴーサインの出る3か月間、両社エンタープライズユーザーから50億ドル(6500億円)もの受注があり、ユーザーも不安を感じていない」と強気の発言を繰り返す。だが、この言葉とは裏腹に先行きは不透明だ。
米ヒューレット・パッカード(HP)のコンパック合併が紆余曲折を経てやっと実現し、IBMに次ぐ世界第2位の巨大メーカーが誕生した。しかし、世界のIT業界でこの巨人「新生HP」への脅威の声はほとんど聞かれない。ウィンテル市場で独自のビジネスモデルを確立して独走するデルに新生HPは対抗手段をもたない。また、エンタープライズでひとり勝ちするIBMに、新生HPは財務体力、ITサービス力、次世代サーバーやストレージ製品の品揃えで大きく劣る。しかし、新生HPのカーリー・フィオリーナ会長兼CEOは、「HPになかった製品と営業力をもつコンパックとの合併で、新生HPは強大になる」と強気だ。(中野英嗣●取材/文)
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