2000年終盤から世界的IT不況に苦しむ業界に、01年9月の米国同時多発テロが追い討ちをかける結果になった。このため01年海外の大ニュースは、サンなど有力ITメーカーの苦境を浮き彫りにすることになった。パソコン不振、デルのひとり勝ちに苦しむHPとコンパックは合併計画を発表。米国IT不況はハードだけでなく、通信やITサービス分野にもおよび、エクソダス倒産など負の連鎖を生み出した。不況は米司法省にも影響し、同省はこれ以上IT不況拡大を阻止することも考えて、マイクロソフト独禁法裁判で和解という策を選択した。（中野英嗣）

1．米国で同時多発テロ事件発生

　9月11日、米国で同時多発テロ事件が発生し、ニューヨーク世界貿易センタービル2棟が自爆ハイジャック航空機で崩壊した。近接のウォールストリート機能を停止させ、同時に、世界のIT業界に大きな衝撃を与え、米国IT投資を急激な下降局面に追い込んだ。今後も予想されるテロ事件に備えて、世界の中堅・大企業ユーザーは、これまでのウイルスによるソフト的破壊対策だけでなく、データセンターの物理的破壊、炭疽菌など生物化学兵器攻撃によるオフィスの閉鎖などへのIT対応策を急ぐことになった。

2．HP、コンパックの買収・合併を発表

　9月3日、世界ITメーカー第2位のHPは、3位コンパックの買収による合併計画を突如発表した。合併により誕生する新HPの売上高は、IBMと並ぶ870億ドルになる。HP、コンパック両社は低迷する世界のIT市場で業績が大きく落ち込み、コンパックは赤字へと転落している。両社はパソコン、インテルサーバーなどの世界市場で、直販のデルにシェアを奪われ続けている。両社は合併によってシェアをデルから奪回する狙いがあるが、HP創業者一族は合併反対の強い意志を表明し、先行きは不透明だ。

3．ドット・コム企業群の崩壊

　97年から米国ネットブームに乗じて誕生した数多くのドット・コム企業群は、有力企業を除いてほとんど倒産し市場から退出した。アマゾンなどは黒字化を目指して奮戦しているが、実在店舗をもたずネット上の仮想店舗だけによる「クリック&モルタル」モデルは消費者に受け入れられなかった。これに代わって実在店舗を多数展開する巨大銀行・証券・流通は従来ビジネスをネットで補完する「クリック&モルタルズ」モデルを志向し成功しつつある。ネットビジネスは「仮想」と「実在」の混在時代となった。

4．半導体不況、パソコン・携帯電話不振

　00年秋口からの世界経済低迷は深刻な世界的半導体不況とパソコン、携帯電話不振をもたらした。業界調査によると、01年世界の半導体売上高は前年比31％減となる。これは世界的パソコン、携帯電話の販売不振に起因する。ガートナーは、01年7-9月期世界のパソコン出荷台数は前年同期比12％減で、米国はとくに厳しく同33％減と発表。携帯電話トップのノキアは01年世界の携帯電話出荷台数は前年比8％減の3億8000万台と発表した。マイクロソフトの新OS発売によってもパソコン市場の活性化は見られない。

5．マイクロソフト独禁法裁判は和解

　6月28日、ワシントン連邦高裁はマイクロソフト独禁法違反訴訟裁判で、企業分割を含む一審判決の差し戻しを命じた。これを受けて原告側米司法省と米各州司法当局は、分割を断念し、和解に応じることになった。しかし原告側米18州のうち9州は和解を拒否して公判を続けることになった。和解に対する米IT業界の反応は冷たく、サンのスコット・マクネリー会長は「和解は消費者の敗北を予兆する」とのコメントを発表した。しかしOSがIT市場を支配する時代は終焉し、同裁判への関心は米国でも薄れつつある。

6．通信バンドウィズ下降サイクル発生下

　世界経済低迷は、世界的に通信帯域（バンドウィズ）需要の下降サイクル局面を発生させ、世界通信業界構造も大きな影響を受けた。10月、英BTと米AT&Tは国際通信合弁事業「コンサート」を解消することに合意した。経営不振に陥ったAT&Tは傘下の世界最大のCATV事業「AT&Tブロードバンド」を売却することになった。また米国で期待されたADSL事業も低迷し、ADSL御三家と呼ばれたノースポイントなど各社は連邦破産法11条適用を申請して、いずれも事実上倒産してしまった。

7．ウィンテルビジネスでデルひとり勝ち

　縮小する世界のパソコン、インテルサーバーなどのウィンテルビジネスで、デルのひとり勝ちの様相が強まった。全体的出荷台数が減少するなかでデルのみが出荷を伸ばし、シェアが急速に拡大している。米国パソコン市場では、HPとコンパックが合併しても、シェアでデルに追いつけない。デルはネットによる直販、受注生産によって在庫を3日分まで縮小した「デルモデル」を定着させた。これによってデルは自らパソコン、サーバーで価格破壊を演じて、コンパック以下を寄せつけない体制を固めた。

8．サン、超優良企業から巨額赤字へ転落

　00年まで世界のUNIXサーバー市場を独占した超優良企業サンは、01年頭から業績が急降下し始め、巨額赤字会社へ転落した。サンの主力市場の1つ、ドット・コム企業、そしてこれらを主力顧客として誕生した新興ITサービス会社が相次いで倒産したからだ。そしてこれまでUNIX市場でサン独走を許してきたIBMが、サン最上位「スターキャット」に対抗する同社最上位UNIXサーバー「レガッタ」を投入し、サンを急迫し始めている。強敵IBMの巻き返しでサンの先行きは不安視されている。

9．新興ITサービスの雄、エクソダス倒産

　9月26日、米国ITホスティング（運用管理）のiDC（インターネット・データセンター）シェアでIBMと並んでトップであったエクソダス・コミュニケーションが連邦破産法11条適用を申請して倒産した。さらに2日後、ブロードバンド接続の米最大手エキサイト@ホームも倒産した。00年秋よりマーチファストなど新興ITサービス会社の倒産が始まっていた。新興ITサービスの雄、エクソダス倒産は米国企業にサービス会社選定では技術力より経営基盤安定度が重要という認識を植えつけた。

10．マイクロソフト、Xbox発売

　11月15日、マイクロソフトは同社初のネットゲーム機「Xbox」を北米でSCEIのプレイステーション2（PS2）と同価格299ドルで発売した。3日後の18日には任天堂が次世代ゲーム機「ゲームキューブ」を199ドルで同市場に投入した。PS2は北米ですでに850万台出荷されており、Xbox、ゲームキューブがどのようにPS2を追い上げるかが注目されている。ソニーは対抗上、会員数3100万世帯のAOLとPS2などとの接続サービスを提供することになった。