2001年のパソコン業界にとって、ウィンドウズXPの深夜発売が思うように盛り上がらなかったことは、今後のパソコンビジネスの方向を占ううえで大きな出来事だった。販売店側では、思うような成果があがらなかったことに対し、「ウィンドウズ95から続けてきたビジネスモデルを変えていかなければならない」と、新しい方向の模索を続けている。しかし、この新しい方向の模索をいち早く始めているのは、ほかならぬマイクロソフト自身だったのではないか。12月13日に行われた米本社リチャード・ベルーゾ社長の記者会見で、そんな印象をもった。（三浦優子●取材・文）

　ベルーゾ社長は、「マイクロソフトは創業から25年間、パソコンをベースにしたビジネスを続けてきたが、今は変化の時である」とし、（1）パソコン、（2）サーバーを始めとしたエンタープライズビジネス、（3）コンシューマビジネス、（4）開発者向け事業、という4本柱でこれからはビジネスを進めると強調した。「最も注力していく分野がパソコンであることに変わりはない。だが、この4つの事業を1つの企業が手がけていくことの相乗効果は高い。どれが欠けてもだめだ。『．NET戦略』によってプラットフォームをつくり、さらにサービス、プロダクトと幅広いラインアップを提供する企業であり続ける。もちろん、新たなセグメントに参入する時にはきちんと検討を重ね、戦略を明確に立てたうえで参入を決定し、どの分野でも成功を果たす」（ベルーゾ社長）。

　しかし、この4分野すべてで成功を収めることは決して容易ではない。日本で来年2月22日に発売するXboxは、これまでは自社でデバイスを販売してこなかったマイクロソフトが初めて手がけるハードウェア。それも日本メーカーが覇権をもつゲーム専用機市場に、米国のベンダーが乗り込んできたのだから、記者会見でもこの話題に質問が集中した。「（ソニーのプレイステーションが勢力をもつ市場に参入するわけだが）われわれはいかなる市場に対しても、最も優れたゲーム体験を提供する。そのためにゲームソフト開発者とも一致団結してきた。業界随一のすばらしいゲーム体験を提供できる。それも1つの製品だけでなく、次世代機の開発も視野に入れ、長期的にこの市場にコミットしていく」（ベルーゾ社長）。

　マイクロソフトにとって、Xboxを手がけることは、「リビングでマイクロソフト製品を使ってもらうために欠かせない」と、日本法人でXbox事業を担当する大浦博久常務が話していた。それと同じく、マイクロソフト本体が本気でリビングへの進出を狙っていることが、ベルーゾ社長のコメントを聞いて改めて感じられた。パソコンのAV機能を強化するなど、各ハードメーカーは自社製品をリビングへ導入する試みを続けている。そんななか、パソコンでもゲーム専用機でも、どちらにも対応できる準備を進めているマイクロソフトという企業のしたたかさがよく表れている。しかし、IBMのようなワールドワイドで強さを見せるライバルが立ちはだかるエンタープライズ市場については、「A（米国での成績評価の最高点）を取得するところまでは来ていない」と、状況が必ずしも満点ではないことを認めている。

　「エンタープライズ分野は当社のビジネスのなかで最も伸びている分野。成功のために、昨年度は営業のフォーカス、パートナー会社と連動したソリューションの提供など、よりバリューが高い方向へと社内変更も実施した。だが、この分野で成功するためにはパートナーとの協調が必要。パートナーに評価されるには時間がかかる」と、あえて現状が100点満点でないと認め、逆にこの分野でも真剣にビジネスを続けている姿勢を示した。果たして、これだけ貪欲にあらゆる分野にアプローチするマイクロソフトがベルーゾ社長のコメント通り、すべての分野で成功できるかどうかは疑問だ。だが、パソコンビジネスのリーディングカンパニーが“ポストPC時代”を見据え、これだけ多くの手を打っていることは確かだ。02年はポストPC時代の本格的幕開けになることだけは間違いないようである。