これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「スパイスファクトリー・高木広之介代表取締役社長」を取材しました。
苦手克服に挑戦するも挫折
小学生の頃からプログラミングに親しんできたが、「将来は誰もいない離島でプログラミングの仕事ができないか」と真剣に考えるほど人付き合いが苦手だった。これではダメだと、大学卒業後は高度なコミュニケーション能力を要するIT系コンサルティング会社に進んだものの、案の定大苦戦。わずか2年で挫折してしまう。
受託開発系のSIerに転職したのち、川崎市の顧客先で「平均80時間の残業をゼロにする」プロジェクトを任された。残業の原因を突き止め、システム化によって仕事の効率を上げるよう要求されたが、20時間までしか減らせなかった。
人の役に立つ仕事を見つける
発注者である経営者からは「ゼロになってないじゃないか!」と叱責されたが、その陰で現場の従業員からは「残業が減って助かった」と労われた。なかでも、その一人からの「毎夜、子どもの寝顔しか見られなかったが、今は子どもと話す時間が2時間できた」と喜ぶ言葉が耳に残って今でも忘れられない。「人の役に立つ仕事とはこういうことなんじゃないか」と腹落ちした。
2016年、アジャイル開発を主軸とするスパイスファクトリーを起業。ユーザーとともにゴールに向かって試行錯誤するスクラム手法が、開発者のつくる喜び、ユーザーの課題解決やビジネス変革への近道だと考えたからだ。
下請けや受注者では不完全
川崎のプロジェクトで、もし自分が下請けの客先常駐SEではなく、発注者・受注者の主従関係でもなければ、「もっと深くユーザー企業の内部に入り込んで業務上の課題を解決できたし、システムをつくる喜びも共有できた」との思いが起業の根底にある。これが原動力となり、アジャイルやスクラムにこだわる理由にもなっている。
さらに、スピード感をもってユーザー企業のデジタル競争力を高めるためには、「ユーザー自身が当事者としてプロジェクトに参加し、変革推進の価値観や意識をそろえていく」ことが大切だと説く。
プロフィール
高木広之介
1983年、神奈川県生まれ。2005年、IT系コンサルティング会社に新卒入社。07年、SIerに転職。16年、スパイスファクトリーを創業。
会社紹介
2016年設立。アジャイル開発を主軸とするSIerで、これまで年平均50%超で成長している。旺盛な需要に応えるため、25年までに従業員数を今の2.5倍に相当する260人余りに増やす計画。