これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「Arithmer・大田佳宏代表取締役社長兼CEO」を取材しました。
夢をかなえ大学教授に
大学時代は、コンピューターサイエンスを専攻し、東京大学大学院に進んだ。将来は大学教授を目指していたが、経済面などを理由に断念。修士課程修了後、IBM東京基礎研究所に就職し、データマイニングの研究に携わった。その後、日立製作所中央研究所に移籍、医療系のデータ解析を手掛け成果を上げた。充実した日々を過ごす中、「東大から戻ってこないか」と声が掛かった。悩んだ末、博士号を取り、教授になりたいという学生のころの夢をかなえるため、大学に戻った。最初は、なかなか実績が出ずに苦労したが、40歳のときに書いた論文が世界的に評価された。その後も実績を積み上げ、夢をかなえた。
数学を使った成功体験を示す
2016年にArithmerを設立した。東大では、常勤教授は会社の代表取締役ができないという決まりがあるため、非常勤に切り替えた。常勤教授のポストを手放してまで起業したのは、数学への思いからだった。「私は数学が好きで、数学をしっかり勉強したことで教授になれた。欧米では、数学を事業に応用する企業が多く、数学者の人気が高まっているが、国内はそうではない。数学を使った成功体験を示すことで、若い人が数学を選ぶ環境をつくりたい」。
自分たちの足で歩き出した
科学やITの技術が進化する上で、数学は非常に重要な役割を果たす。事業のAI開発において、自身の強みである高いレベルの数学を用いることで、高度なAIアルゴリズムを作り上げることに成功した。
目標は「数学で社会課題を解決する」ことだ。災害が起こる前の予測シミュレーションなどを行う「浸水AI」をはじめ数々のソリューションを提供。大手企業での採用も増えており、成長を遂げているが「まだまだこれからであり、やっと自分たちの足で歩き出した段階だ。AIを使って災害を防ぐ、新薬を作るといったことはそう簡単にはできないので、5年、10年をかけて、日本だけでなく、世界に広げていきたい」。これからも数学の可能性を信じ進んでいく。
プロフィール
大田佳宏
東京大学大学院理学系研究科修了後、IBM東京基礎研究所、日立製作所中央研究所、東京大学大学院数理科学研究科特任教授を経て、2016年、代表取締役社長兼CEOとしてArithmerを設立。博士(数理科学)。
会社紹介
数学のコア要素技術をベースに、浸水被害の予測などを行う「浸水AI」をはじめ、「予兆AI」「レコメンドAI」といったさまざまなAIエンジンを駆使したソリューションの開発を手掛ける。