デジタルトレンド“今読み先読み”
<スマートフォン>通信キャリアのビジネスが新局面へ サービスの拡充で契約者を囲い込む
2012/07/05 16:51
週刊BCN 2012年07月02日vol.1438掲載
新サービスの提供が相次ぐ つながりにくさの解消も
通信キャリア各社は、5月、2012年夏商戦向けスマートフォン新製品の発表と同時に、新たなサービスの提供を発表した。NTTドコモは、「ドコモクラウド」と銘打ってネットワーク経由でサービスを本格的に展開することを表明。高速通信のLTEサービス「Xi(クロッシィ)」とスマートフォンを組み合わせることで、同社ならではのサービスを提供していく。すでにサービス化している音声認識の「しゃべってコンシェル」をはじめ、音声通話で言語を翻訳する「通訳電話」を3か国語対応から10か国語対応に拡充。テキスト翻訳の「メール翻訳コンシェル」、5GBの記憶容量が使えるフォトストレージサービス「フォトコレクション」などを追加した。コンテンツサービスの「dマーケット」もサービスを拡充し、動画配信「VIDEOストア」でタブレット端末やパソコンで視聴することができるなどマルチデバイス対応とした。
auは、アプリ取り放題をはじめ、2GBストレージ「au Cloud」、クーポンなどのサービスを月額390円で利用することができる「au スマートパス」を3月1日から提供しており、「au スマートパス」のアップセルの位置づけで、月額590円で映画が見放題になるビデオオンデマンドサービス「ビデオパス」を5月15日に、月額315円で音楽が聴き放題の音楽配信サービス「うたパス」を6月中旬に新サービスとして追加した。
ソフトバンクモバイルでは、昨年3月10日から提供している動画配信サービス「ムービーLIFE」を夏以降に拡充。映画や海外ドラマ、特撮、アニメなどを中心に120本程度の配信だったのを、「GyaO!」のコンテンツも楽しめるようにして、提供動画のジャンルにスポーツ、お笑い、バラエティ、音楽の4ジャンルを加える。「プロ野球」「Jリーグ」「海外サッカー」「格闘技」の4コースから選択してスマートフォンで動画を楽しめる「スポーツLIFE」も夏以降に提供。また、900MHz周波数帯「プラチナバンド」の利用を7月25日にスタートすることで、「つながりにくい」というユーザーの不満を解消する。対応基地局はサービス開始当初で数百レベルだが、今年度(2013年3月期)末までに万単位まで広げる予定だ。
価格だけではない競争へ 「土管屋」にはならない
キャリアのサービス拡充の狙いは、契約者の囲い込みだけでなく、新規契約から解約を差し引いた純増数の獲得にある。純増数を上げるためにキャリアが取り組まなければならないのが、他社との差異化だ。スマートフォンユーザーが増えているなかで、月額の利用料金を他社より安くするのは体力勝負になる。他社より魅力のある料金プランを打ち出しながら利益を確保し、しかも契約者を増やすには「そのキャリアと契約している理由」をユーザーに意識させることが重要だ。そこで、キャリア自らが独自のサービスを創出している。また、NTTドコモやソフトバンクモバイルは、昨年からSIMロックの解除に動き出している。対応機種も増えていることから、他社のスマートフォンユーザーがサービスを求めてSIMロックを解除して自社と契約することも描いている。これらは、キャリアが「単にネットワークを提供するだけの“土管屋”にはならない」ための動きでもある。以前、キャリアがADSLサービスや光サービスなど高速ブロードバンド環境を整えた際、通信業界で問題の一つとしてもち上がったのが、ネットワークインフラの「ただ乗り」だった。コンテンツプロパイダがキャリアに通信料を支払っていないにもかかわらず、アプリケーションサービスで収益を確保し、その一方で、キャリアはインフラ整備にかかるコストに頭を悩ませていた。従来型の携帯電話では、キャリアが認めた企業だけが公式サイトを提供することができた。ところがスマートフォンでは、キャリアの知らないところでアプリケーションサービスが提供されることがあたりまえになっている。キャリアが構築するインフラの上でコンテンツプロバイダがサービスを提供するようになると、キャリアの携帯電話のビジネスモデルが成り立たなくなると懸念しているわけだ。
電気通信事業者協会(TCA)によれば、今年5月末時点の携帯電話の純増数は、NTTドコモが12万6600、auが19万9000、ソフトバンクモバイルが25万8100。家電量販店での実売数をBCNランキングでキャリア別スマートフォンの販売台数シェアをみると、5月はNTTドコモが51.2%、auが27.7%、ソフトバンクモバイルが20.1%だ。この争いは、これからますます激化していく。これまでスマートフォンの普及に向けて端末の性能をアピールしてきたキャリア各社。この活動は継続しながらも、自社の契約者を増やすために独自のサービスを提供して、1ユーザーあたりの収益を上げていくフェーズに入っている。(佐相彰彦)
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