デジタルトレンド“今読み先読み”

家電量販店/パソコン専門店 生き残りをかけて戦い方を試行錯誤 カギは「何ができるか」

2012/01/12 16:51

週刊BCN 2012年01月09日vol.1414掲載

 2月のインテルCPUのリコール、3月の東日本大震災による販売減、7月からのタイの大洪水による部材供給不足など、2011年は、家電量販店やパソコン専門店が大きく揺れた一年だった。ここ数年、売り場の主役だった薄型テレビは、7月に地上デジタル放送への移行による駆け込み需要があったものの、その反動で8月以降は落ち込みが続いている。2012年は、明るい兆しに期待したいものだが、業界関係者の大半は「楽観できない」とみる。量販店や専門店は、生き残りをかけて、いま改めて「何ができるのか」を試行錯誤している。


気軽に来店できる環境を整備 コミュニケーションの場に

 家電量販店やPC専門店の苦難は、今に始まったことではない。これまでも買収や統合など業界再編の波にさらされ、その動きは今もくすぶっている。2008年には、リーマン・ショックによる大不況も経験した。そして2011年は、自然災害によって、一時は厳しい状況下での販売を強いられたが、地上デジタル放送移行に伴う薄型テレビの駆け込み需要があったことで、7月前後までは、業績が前年を上回る量販店が多かった。

 しかし、その反動による薄型テレビの大幅な落ち込みなどによって、下半期は苦境が続き、2012年も回復の起爆剤はみえてこない。家電量販店やパソコン専門店は、今、自分たちができること、すなわちビジネスモデルの改革に向けて、まずは店舗スタイルの改善や接客強化による販売のあり方を模索している。

 パソコン専門店は、パソコンの完成品販売に加え、CPUやマザーボード、PCケースなど、パソコンの自作に必要な部品が充実している。そのため一般のユーザーからは「パソコンに詳しい人だけが行く店」と思われがちで、実際にも限られた“マニア”しか訪れない店が少なくない。そんな状況を打開するために、パソコン専門店のなかには、「誰でも気軽に来店できる環境が必要」と、イメージチェンジを図る店が出てきている。例えば、パソコン専門店「ドスパラ」を運営するサードウェーブだ。

 サードウェーブの尾崎健介社長は、「これまでは小規模な店が多かったが、今後は大型化を進める」という方針を掲げる。2011年12月23日にリニューアルオープンした「ドスパラ新宿店」は、2フロアの構成でパソコンやスマートフォンを中心に取り扱っている。尾崎社長は「一部の“尖ったお客様”だけでなく、一般のお客様が入りやすい環境を整えた」とアピールする。

 名古屋に本拠を置くグッドウィルは、大須に大型のパソコン専門店「エンターテイメントデジタルモール(EDM)」を構える。田中満祐代表取締役は、「EDMを基幹店にしながら、ほかの地域で40~50坪の小規模店を一地域にいくつか出店していく」という戦略を明かしてくれた。小型店でパソコンやパーツを販売するものの、メイン商材はサポートやサービス。「スタッフがお客様とコミュニケーションを深め、お客様が困ったときにはいつでも来店してもらえるような環境をつくっていきたい」という。

「楽しめる売り場」づくり サポート・サービスの充実も

 総合家電を扱う家電量販店はもともと大規模な店が多く、パソコン専門店に比べれば“敷居”は低い。彼らはさらに集客を図る作戦として、「楽しめる売り場」づくりを進めている。

 ビックカメラでは、有楽町店で美容家電やフィットネス機器など、女性向け商品を集めた売り場「ビックビューティ」を2011年9月16日に設置。美容家電をゆっくりと選べる売り場として、付近に勤務する会社員を中心に女性の来店者が増えているという。また池袋に、カメラアクセサリを中心とした雑貨店「ビックフォト」を開店し、女子高校生など若年層の吸引に成功している。宮嶋宏幸社長は、「女性を中心に、新しいお客様層を開拓できている」と自信をみせる。

 売り場の工夫に加え、リピーター獲得策として、多くの販売店が力を入れているのが、接客とサポート・サービスだ。ケーズデンキは、「お客様のほうを向いた接客」で、設立以来、増収増益を果たしてきた。ケーズホールディングスの遠藤裕之社長は、「われわれが売りたいものを売るのではなく、お客様の話をよく聞いて、お客様が本当に欲しいものを提供する。これを継続すれば、おのずと収益はついてくる」と語る。グッドウィルも、「お客様が困っているとき、それを受け止めて助けるような、いわば『親友』として接することが重要」(田中代表取締役)としている。ビックカメラは、「サポートカウンター」をはじめ、「節電相談カウンター」「まとめ買いカウンター」など、来店者が店員に分からないことを気軽に聞ける場を設けている。加えて、「商品知識はもちろん、その商品をどんな場面で、どのように使うのかを説明する『コト訴求』が接客のポイント」(宮嶋社長)という。

 PC・デジタル家電がネットワークでつながり、情報を相互にやり取りする時代に入って、ユーザーは「自分が本当に欲しいものは何か」ということがわからなくなっているケースがある。また最近は、「必要なものだけを買う」という傾向が顕著だ。店側が、例えば「粗利率が高い」などの理由でお客様に購入を勧めて、結果として、もしお客様が「買って損をした」と思ってしまったら、確実に信頼は失われる。それは従来に増して、店にとっては致命傷となる。

 お客様の信頼を勝ち得ること、お客様のために「何ができるか」を考えること──家電量販店とPC専門店は、先行き不透明な市場環境のなかで、これまで以上に危機感をもって市場に臨んでいる。(佐相彰彦)
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