デジタルトレンド“今読み先読み”
<一般ユーザー向けクラウドサービス>災害対策としての利用促進を
2011/09/15 16:51
週刊BCN 2011年09月12日vol.1398掲載
企業では震災後に導入機運が高まる
クラウドサービスは、IT機器の設置場所と利用者の居場所が一致する必要がなく、会社の建物が被害を受けても、離れた場所にあるITインフラを使い続けることができる。とくに東日本大震災以後、BCPの観点から、多くの企業の間で導入の機運が高まった。クラウド上で使うアプリケーションパッケージ「Google Apps」を提供するグーグルのエンタープライズ部門・藤井彰人シニアプロダクトマーケティングマネージャーは、大手ゼネコンの戸田建設の例を挙げる。「2月に現場事務所の火事、そして3月11日の地震、津波、原発事故と、半年の間に災害が相次ぎ、現地オフィスでの事業継続対応が困難になったことなどが、『Google Apps』導入の決め手になった」。さらに、「震災後は、『Google Apps』を導入する企業が増えている」という。
一般のPCユーザーにとっても、クラウドのメリットは大きい。ネット環境があれば、どのPCからでもデータの閲覧や更新・共有ができるのだ。しかし、必ずしも個人ユーザーに浸透しているとはいえない。オンラインストレージサービス「クオンプ」を運営するリコーの新規事業開発センターCPS事業室マーケティングユニットの中島喬敬氏は、「ITリテラシーの高い人々を中心にユーザーを獲得できたという感触はある」とする一方で、子どもからお年寄りまで、幅広いユーザーの獲得を課題に挙げる。
東日本大震災で大きな被害を受けた地域では、多くの人々が大切にしてきた個人的な書類や写真の被災が、悲しみとともに語られている。大震災をきっかけに、多くの日本人が災害対策をあらためて考えるようになった。クラウドサービスは、ここに一つの光明をもたらすものだ。決して企業やITリテラシーの高い個人のものではないことを、一般のPCユーザーにも知ってほしい──そんな動きが、いま始まっている。
「何ができるのか」の訴求が必要
前出のリコーは、被災した紙焼き写真をデータ化し、「クオンプ」の基盤を活用して、被災者に元の紙焼きとデータ写真を渡す活動「セーブ・ザ・メモリープロジェクト」を始めた。データ化した写真は、「クオンプ」の仕組みを活用した格納先に、専用のID/パスワードでアクセスすることでダウンロードできるようになっている。このID/パスワードは「クオンプのトライアルユーザーとして利用できるようにしている」(新規事業開発センター企画推進室兼CSR室CSR企画推進室の中本映子シニアスペシャリスト)という。「セーブ・ザ・メモリープロジェクト」は復興支援の一環で、ビジネスを前提としたものではない。しかし、これまでITに馴染みのなかった人に、写真をデータ化して複製できることや、クラウド上に格納することで物理的な被害を回避できるなどのメリットを伝えるいい機会になる。受動的なユーザー層を掘り起こす一つのきっかけになるだろう。
全国展開するカメラ専門店「カメラのキタムラ」は、今年4月、紙焼き写真やアルバムをデジタルデータに変換するサービスを開始した。新しい写真の楽しみ方として関心が高まり、利用者は拡大傾向にあるという。もともとは、同社のサービス拡充の一環として、震災前から企画していたが、サービス開始のタイミングが震災後になったことで、被災地を中心に「震災で亡くなった方の紙焼き写真をデータ化したいと、ご家族や親戚が利用されるケースがある」(キタムラ営業部総務兼広報担当の今野智浩氏)という。
しかし、メディアへの保存だけでは、災害時にデータの消失、紛失などのリスクがあることが課題。「クラウド上にデータを保管することもリスク回避の一つ」として、今後は、同社のオンラインストレージ「マイフォトボックス」のサービス拡充を検討している。「これまであまり目立った告知をしてこなかったが、今後は力を入れていく」という。「カメラのキタムラ」には、PCに触れる機会が少なくても、デジカメで写真を撮る人が多く来店する。こうしたクラウドサービスに馴染みがなかった人に、デジカメデータを格納する場所の一つとして、クラウドサービスの利便性を伝えるチャンスになる。
シニア向けのPCセミナーを主宰するいちえ会の大林依子代表は、「シニア層には、海外にいる子どもとのコミュニケーション手段としてPCの操作を覚えたいという人や、写真が好きな人が多い。クラウドサービスをアピールするには、ちょうどいいと思う」と話している。オンラインストレージでの写真の格納や共有という使い方には、必ず一定のニーズが存在する。クラウドサービスとはどんなもので、何ができるのか。認知度を高めれば、ユーザーの層は確実に広がるだろう。(田沢理恵)
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