デジタルトレンド“今読み先読み”

「節電」が新たな需要を喚起 消費意欲を後押しするキーワードに

2011/05/26 16:51

週刊BCN 2011年05月23日vol.1383掲載

 東日本を中心に、企業や家庭で、今夏にも予想される電力供給不足に備えて節電に取り組んでいる。消費者の関心は、省エネ性能が高い家電製品や省エネグッズに向かっている。家電量販店各店では、売り場の拡大や訴求方法を工夫し、需要を喚起している。

原発事故で見直された「節電」

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、人々の電気の使い方に対する意識を変えた。神奈川県川崎市のコジマNEW梶ヶ谷店の荒川等次長は、「原発事故が起きる前は、お客様から家電製品の節電について聞かれることはほとんどなかった」という。白物家電やデジタル家電は、年々省エネ性能が向上しているものの、消費者の意識が大きく変化するまでには至っていなかった。ところが、震災と原発事故の後は、「われわれが提案するのではなく、お客様のほうから聞いてこられるようになった」と、荒川次長は変化を実感している。日本が復興に向けた道を歩んでいくなかで、一人ひとりが節電を当たり前の使命として捉えるようになり、自然と省エネ製品や節電グッズへの関心が高まったのだ。

 コジマNEW梶ヶ谷店では、店内の随所に「節電には省エネ家電」を打ち出したPOPを展示。生活家電売り場の入口付近では、「節電は電球から」をテーマに、LED電球と電球、電球型蛍光灯の消費電力がひと目でわかるコーナーを設置した。エアコンコーナーでは、「風力の『強』設定を『中』に変えたり、温度を1℃上げたりするだけで節電になることや、10年以上前のモデルなら買い替えたほうが省エネにつながることを訴求している」(荒川次長)という。

コジマNEW梶ヶ谷店は「節電は電球から」をテーマにLED電球の消費電力がひと目でわかるコーナーを設置

 この効果もあって、4月のエアコン販売は、省エネ性能の高い上位モデルを中心に、金額ベースで前年同期比120%と好調だった。また、人気が高まる扇風機は、4月は金額ベースで前年比3倍に拡大。荒川次長は「猛暑による人気で品薄感のあった昨年に購入できなかったお客様が、今年は早くから動いている。また、エアコンと併用する節電対策で売れている」と分析している。

 一方、ビックカメラは、4月8日の有楽町店本館を皮切りに、全国の生活家電取り扱い店に「節電相談カウンター」を設置した。有楽町店本館B1階節電カウンターの名倉由子スタッフは「今夏の電力供給不足への準備や、節電への配慮などから、省エネ家電に関する問い合わせが急増している」と、カウンター設置の理由を説明する。扇風機は、例年はゴールデンウィーク頃から売り場に並べていたが、今年は拡大するニーズに対応し、1か月早めた。売り場には、各社の扇風機がずらりと並ぶ。

ビックカメラは白物家電取り扱い店に「節電相談カウンター」を設置
(写真は有楽町店本館)

 カウンターには、扇風機やエアコン、冷蔵庫、LED電球など、節電効果の高い省エネ家電に関する相談に加え、家電を買い替えないで節電する方法に関する相談も寄せられる。こうした相談に対しては、コンセントごとにスイッチのオン・オフができるOAタップや、冷蔵庫の冷気の流出を防ぐクールカーテン、消費電力を計測するワットチェッカー、お湯を沸かして保温しておく保温ポットなどを提案。カウンター周辺に節電や省エネの関連製品を集めることで、需要を掘り起こしている。

売れる扇風機、東芝は拡販施策を強化

東芝ホームテクノは「F-DLN100」の展示台を作成
 コジマやビックカメラの例が物語るように、扇風機はエアコンとの併用で節電に貢献する製品として注目を集めている。東芝ホームテクノは、これまで扇風機を総合カタログや店頭のPOPでアピールしてきた。しかし今年は、デザイン性、静音性、省エネ性能などにこだわった新製品「F-DLN100」で、初めて単体のカタログや展示台を作成した。

 辻村周一・家電事業統括部販売企画担当課長代理は、「こんなに扇風機の需要が高まっていなければ、『F-DLN100』の月次販売目標は3000~4000台にしただろう。しかし、今回は5000台に設定した」と鼻息が荒い。扇風機全体では、「需要に対応する供給体制の確保に奔走している」(辻村課長代理)という状況だ。猛暑で販売が大きく伸びた昨年以上の台数を見込んでいる。

 家電量販店が取り組む節電製品のアピールは、生活家電売り場を中心に始まったが、デジタル家電にも波及することは間違いない。PCメーカー各社は、夏モデルで節電機能のアピールを強化し始めた。「節電」が、需要喚起の起爆剤になりそうだ。(田沢理恵)


コジマNEW梶ヶ谷店(左)やビックカメラ有楽町店本館では扇風機を積極的に前面に押し出している
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