デジタルトレンド“今読み先読み”
多様化進む電子辞書 コンテンツは「量」から「質」へ
2011/03/17 16:51
週刊BCN 2011年03月14日vol.1374掲載
ターゲットの細分化が顕著
中学生向けが登場
電子辞書は、これまでも学生やビジネスパーソン、シニア向けなど、ユーザーターゲットが細分化されていた市場だ。メーカーは自社の強みを生かした製品をターゲットに合わせて開発し、提供してきた。カシオ計算機の植原正幸営業本部戦略統括部コンシューマ戦略部部長は、「そのときどきの年齢で、必要な機種を買ってもらうのが狙い」だという。また、シャープの田中淳司通信システム事業本部パーソナルソリューション事業部商品企画部参事は、「『一家に1台』から『一人1台』の時代」だと捉えている。 東京・ビックカメラ池袋本店の電子辞書売り場には、春に最も売れる高校生向けモデルがずらりと並んでいる。しかし、この春、目を引くのは中学生向けモデルだ。小学校で英語教育が義務化されることもあって、カシオとシャープが新たな市場として着目し、製品を送り込んでいる。家電製品アドバイザーの井郷友幸スタッフは「中学生は、まだ電子辞書の存在や価値を知らない人が多い。春商戦では認知度の向上に力を入れていく」と、電子辞書売り場をこれまでの4階から来店者の目にとまりやすい1階に移して積極的にアピールしている。
この時期は、就職や転勤などで、ビジネスパーソン向けモデルも売れていく。シャープは、通勤電車などでの利用を想定したモデルとして、持ち運びしやすいコンパクトな「PW-AC20」を投入した。コンテンツはTOEICなどの英語学習に特化している。また、セイコーインスツルも、PCと接続して使うことができる「PASORAMA」機能を備えるモデルとして、著名な英英辞典を収めた「SR-S9003」を社会人向けに提供している。
春商戦の最後、4月以降にニーズが出てくるのが、大学の第2外国語学習に適したモデルだ。中国語対応で定評のあるキヤノンは、「Z900」「Z800」をラインアップ。ビックカメラの井郷スタッフは「専門性のあるモデルは、台数はそれほど多くないが、一定の割合で売れていく」とし、需要期に合わせて訴求していく。
コンテンツは「質」の時代
内容で差異化を図る
電子辞書市場は、2010年、販売台数・金額ともに前年割れが目立った。春商戦がスタートした今年2月は、対前年同月比で販売台数101.9%、販売金額107.8%と、微増にとどまっている。市場の伸び悩みに影響していると考えられるのが、スマートフォンの普及だ。端末に辞書アプリを追加すれば、電子辞書はいらないというわけだ。しかし、キヤノンマーケティングジャパンプリンティングソリューション企画本部計算機販売企画課の西賢二氏は、「コンテンツの信頼性や辞書を横断した検索など、専門機ならではの強みがあり、棲み分けはできる」とする。カシオの植原部長も「スマートフォンは脅威ではない」と断言している。 では、市場の拡大には何が必要なのか。ユーザーの購入を左右するのは、収録するコンテンツだ。キヤノンの西氏は、「以前はコンテンツの数が問われたが、現在は、数が多いからといってユーザーが満足するとは限らない」と語る。量ではなく、質が問われる時代に突入しているのだ。
こうしたコンテンツの質の進化に挑戦する取り組みとして、シャープは電子辞書を「学習機器」(田中参事)と位置づけている。独自コンテンツとして、動画や設問に対話形式で答えるアプリケーション、各種辞書を後から追加できる「ブレーンライブラリー」の三つを打ち出している。辞書以外のコンテンツを拡充するという型破りな戦略だ。
コンテンツだけではなく、デザインも洗練されてきた。キヤノンの西氏は「新規ユーザーの獲得にはデザインの追求が必要」として、今春、画面の角度を3パターンに変更できる「Zシリーズ」を投入した。シャープもまた、一般的な二つ折り形状ではないストレートタイプを昨年から発売するなど、外観に工夫を凝らしたモデルが次々と出ている。
細分化するターゲットのニーズを汲み取るだけでなく、具体的な利用シーンを想定して提案していくことが、今後の電子辞書市場の成長のカギを握るといえるだろう。(井上真希子)
- 1