デジタルトレンド“今読み先読み”
売れ筋のサイクロン式掃除機 ライフスタイルの変化が製品に直結
2011/01/13 16:51
週刊BCN 2011年01月10日vol.1365掲載
新システムを採用したサイクロンで攻勢
2010年の年末商戦に向けて、最初にサイクロン掃除機の最上位機を発表したのは日立アプライアンス。ゴミと空気を分ける遠心分離構造に「2段ブーストサイクロン」を採用した「CV-SR3300」を、7月25日に発売した。中島浩明家電事業企画本部商品企画担当部長は、「見た目は昨年のモデルとほぼ同じだが、中身はフルモデルチェンジした」と自信の表情。花粉などのアレルゲンや微細なチリを捕え、吸い込んだゴミを99.999%逃さないという「きれいな排気」を強みとして打ち出した。また、ファンモーターなど本体や回転ブラシの駆動機構音を低減し、運転音を前モデルの59dBから53dBまで下げている。「共働きの世帯が増えて、夜に家事を行う“夜カジ派”が多くなっていることや、『掃除機の音でテレビの音が聞こえない』という不満の声など、高まる静音ニーズを意識した」という。一方、三菱電機は25年ぶりに『風神』ブランドを復活させ、8月1日に「TC-ZK20S」など2機種を発売。サイクロンボックス内のフィルターをなくした独自技術で、目詰まりによる吸引力低下の心配がなく、手入れの必要がないことが売りだ。「掃除機市場でトップグループ入りを目指す」(荒木茂リビング・デジタルメディア事業本部家電事業部長)ための戦略製品に位置づける。
東芝ホームアプライアンスも、9月1日に新開発の遠心分離方式「デュアルトルネードシステム」を採用した「TORNEO(トルネオ)」シリーズ3機種を発売した。最上位モデル「VC-CG510X」の「type Quie(クワイエ)」は、静音性を追求。さらに、「前モデルに関して、ユーザーから『性能はいいが重くて大変』という声が挙がっていた」(大塚裕司リビング機器企画部クリーン商品企画担当グループ長)ことから、「同クラスの機種のなかでは最軽量」にした。こだわったのは、「らくわざグリップ」と名づけた持ち手部分。軽く手を添えるだけで動く人間工学に基づいたグリップ感は、「店頭で体感していただければ、使いやすさがわかる」と胸を張る。
パナソニックは、ゴミの分離効率を高めるとともに、舞い上がりを防ぐ新開発の遠心分離方式「パワープレスサイクロン」構造を採用した「MC-SS300GX」など3機種を、9月25日から順次発売。髪の毛やペットの毛を通しにくい金属シリンダーでパワーを持続することも特徴だ。三谷敬三商品グループ家事商品チームチームリーダーは、「3機種のなかでも、想定価格8万円前後を見込んでいた最上位モデルが最も売れている」と手応えを語る。「これまでサイクロン式では弱かった」という同社だが、新製品では店頭の実演コーナーを昨年の倍以上の店に設置するなど、販売拡大に向け攻勢をかけている。
シャープは、10月21日に「プラズマクラスター搭載遠心分離サイクロン」の最上位モデル「EC-VX220」や、新たに加えた小型機など計3機種を発売。「EC-VX220」は、現段階で業界最小の運転音を実現。先行して発売した日立や東芝の53dBを1dB下回る52dBの静音性で対抗している。これも“夜カジ派”をターゲットに据えた製品だが、「小さい子どもや赤ちゃんが昼寝している間に掃除機をかけたい、というニーズが出てきた」(隅謙造ランドリーシステム事業部商品企画部部長)と、新たな層を獲得しているという。「1dB下げるのは至難の業だが、この数値ではまだまだ満足できない」と、今後も静音性にこだわっていく。
ライフスタイルの変化が掃除機の売れ行きに影響
ここに挙げた各社の最上位機は、7万~8万円前後という高価格にもかかわらず、「普通の家庭が購入している」(上新電機羽生店の岩田良仁店長)という。毎日使うものだからこそ、妥協せずに納得のいくものを選びたい、という心理が働いているようだ。来店者は、「フィルタの手入れ方法や運転音などを確認して、十分納得してから購入を決める」(岩田店長)という。上新電機羽生店の掃除機コーナー
共働き世帯の増加や、ライフスタイルの変化を背景に、かつての「掃除・洗濯は午前中に」というセオリーに変化が起きている。うるさいのが当たり前だった掃除機にも、静音性が求められるようになるのは自然な流れだ。販売店も、「5万円を超える機種が増えたことで、金額ベースで伸びている」(岩田店長)という状況で、高級機の販売強化に拍車がかかる。「壊れたときが買い替えどき」だった掃除機は、いまや消費者のライフスタイルの変化が商品に直結し、それが商機を生む製品に育っているのだ。(田沢理恵)
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